大麦の需要と供給【前半/全2回】

August 22, 2013


揺れ動く大麦の世界を振り返る

Report : イアン・ウィスニュースキー

多くの蒸溜所で生産量が増えた結果として、業界では2007年度に47万9千トンの大麦を消費した。スコッチ・ウイスキー協会によると2006年度は44万2千トン、2005年度は40万9千トンだった。一方で1トンあたりの価格を見ると2005年度は80~90ポンド、2006年度は90ポンドだったが、2007年度の収穫期の後には価格が劇的に変動し、1トンあたり200ポンド超まで暴騰した。

「2年連続の世界的な不作の後では、貯蔵分の穀物を頼りにはできませんでした。製麦用の原料が新しく手に入るまでの期間は、前年の残りでもたせることになりますが、生産者はそれがないまま2007年度を迎えたのです。新しく購入できるのは通常、収穫から6週間後の11月初頭頃です。それまでの間、市場に出回っているわずかな大麦にバイヤーが殺到することになり、価格は急激に上がりました」ジ・エドリントン・グループドクター・ビル・クライリーは語る。

需要と供給に関する他の問題は、スコットランドで栽培される大麦の量がじりじりと減少していることだ


「価格があまりに低い時期が続いたせいで、スコットランドでは春蒔き大麦の栽培地が大幅に減ってしまいました。10年前には28万ヘクタールあったのが、2007年には22万ヘクタールですよ。1ヘクタールあたり5~6トンの生産が可能なので、大麦がいかに少なくなったかお分かりいただけるでしょう。2008年におよそ24万5千ヘクタールまで回復しましたが、まだ需要が大きく上回っている状態で、収穫期にどれくらい収穫できるのかに掛かっています。大麦の収穫量が増えるかもしれませんが、価格が下落するほど豊作になるとは思いません。たとえ下落しても大したことはないでしょう」麦芽製造所や蒸溜所を対象にするスコットランドの製麦用大麦の専門農協、ハイランド・グレーンのサイモン・バリーは語る。

スコットランドの収穫増が不安を和らげるにしても、問題はそれだけでは収まらない。

「スコットランドは大麦の純輸出国なので、スコッチウイスキー用に製麦する大麦の需要を満たせるはずなのです」

「問題は世界的に収穫高が良くなかった場合、EUは収穫期が遅く、また相応の輸出力を備えたスコットランドとデンマークに頼って不足分を補おうとするのですがその結果、苛烈な競争を呼ぶのです」ドクター・ビル・クライリーは語る。

さらに蒸溜業者にとっては、麦芽をただ必要な分量だけ買えばよいというわけではなく、そこには求められる品質というものが関係してくる。出荷される大麦が少なく、同時に需要が高ければ、当然いつもの規格の品物を買うことは難しくなる。

非常に重要なのは窒素の含有量で、蒸溜業者にとっての上限は一般的に1.6から1.65%とされている。それ以上割合が高いと様々な問題が起きるのだ。

窒素の割合はタンパク質の含有量を示し、タンパク質が多いほどデンプンが少なくなり、それに伴ってアルコールの量も減る。窒素を多く含んだ場合、ニューメイクのスピリッツにどのような変化が起こるかはまた別の問題だ。

「窒素の多い麦芽がスピリッツに違いをもたらすかどうかの研究は、たぶん行われていないと思います。そのことをスピリッツを元に、あるいは逆に麦芽を元に証明したという話も聞きませんね」ドクター・ビル・クライリーは言う。

窒素の量が作業の手間をどのように変えるかという点も問題で、まず麦芽を水に漬ける「スティーピング」に影響が出る。窒素が多い場合、麦芽の水の吸収が悪くなるので、通常のスティーピングのサイクルを変更しなければいけない。また窒素が多ければ同時に麦芽も硬くなる

窒素の多い麦芽は扱いがより難しく、処理にも時間がかかります。例えばゴム状の物質が(タンパク質と細胞壁から)大量に出ることになり、その中にデンプンの粒が埋もれているので、効率を保つためにはマッシングとミリングの技術の調整が必須です」

後半へ続く

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