エドラダワーの覚悟【前半/全2回】

October 26, 2013

エドラダワーは小規模かもしれないが、完璧に整っている。これからも自らの力を上回るであろう困難に挑む覚悟が出来ているようだ

Report:ドミニク・ロスクロウ

ショップでは客が求めるものの在庫を切らしていても、なにか売れるものがあるはずだという考え方がある。ウイスキーについては正しい。ウイスキー専門店に入るほとんどの人々は、何かを買って店を出たいと思っており、ウイスキーを飲むほとんどの人の好みのウイスキーには幅がある。どちらにしても、客が最初に望んだものを切らしていても、代わりにスペイサイドモルトの別の商品を提案したり、ピーティなウイスキーを勧めることも難しくはない。

しかし例外もある。たとえばスプリングバンクタリスカー。そして他の代替品ではどうしてもダメな商品としては、エドラダワーがダントツだ。
エドラダワーを求めてウイスキーショップに来る人には、ふたつの想定が出来る。

ひとつ、彼らはエドラダワー蒸溜所に行ったことがある。
ふたつ、エドラダワーの在庫がなければそのまま立ち去るだろう、ということだ。

3つめの可能性もある。普通はあまりウイスキーを飲まないが、エドラダワーを飲んでみて好きになったということだ。

奇妙なことにダルウィニーアベラワー・アブーナについても同じことが言える。

エドラダワーを飲む人はエドラダワーが好きなのだ。そして、少なくともその理由のひとつは間違いなく絵葉書になる蒸溜所だからだ。もちろん、古風な趣きと情緒あふれる蒸溜所はスコットランド中にたくさんあるが、ここよりこざっぱりしていて情感がある蒸溜所はほとんどない。

冬の天気の悪いときに訪れると、天気に負けずに訪れる者をハイランドらしい温かい雰囲気で迎える。そして私たちが訪れたときのように、太陽の光に照らされていれば、古い趣、こぎれいさ、田園風景といったイメージをスコットランドに望む観光客のために、すべてを提供してくれる。

坂を下りて蒸溜所に近づいて行くと、農園のようなその姿に感動する。建物は白く、ラフな仕上げの石材でできており、蒸溜所の真ん中を小川が流れ、蒸溜所からは、カチャカチャ、バンバンと小さい工房のような音が聞こえる。

交通の便が良いのも助かる。グラスゴーエディンバラの両方から行きやすく、ピトロホリーのような絵になる町にも近い。観光にももってこいだ。

ノースホークのバスの運転手が、最近同僚がこの蒸溜所へツアー客を連れて運転するのが大好きで、とくにアメリカ人観光客がいいと語っていた。彼らは蒸溜所が見えてくると息をのみ、訪問中にこの場所に惚れ込み、次の訪問地アヴィモアへ着くまでずっとこの蒸溜所の話ばかりするということだ。顧客満足度の観点からは、立派な仕事である。

今回の訪問は、エドラダワーインディペンデント・ボトリングカンパニーシグナトリーの財務担当重役を兼任しているデス・マカガティと同伴で行くことになっている。

これは所有者のアンドリュー・サイミントンがドイツの撮影隊を呼んだからだ。やたらに興奮したドイツ人カメラマンのために、サイミントンはカスクを前や後ろにゴロゴロころがしていた。

この撮影隊がいたので蒸溜所に入るまで我慢強く待たなければならなかった。いかにこの蒸溜所が狭いかを雄弁に物語る。そこには、サイミントンを含めてたった4人、他にはカメラとライトスタンドがあるだけだったのだ。
エドラダワーはスコットランドで一番小さい蒸溜所であり、この小ささが蒸溜所の魅力の大半を占める。

生産量は96,600リットルで、これはグレンフィディックの生産量の1千万リットルを考えると、ウイスキー業界という大海の一滴のしずくである。それにもかかわらず、この数字は蒸溜所にとって歴史的記録だった。

「私は、キャンベル・ディスティラーズの時代にまで遡る記録を持っていますが、私が知っている2008年までの最高記録は93,000リットルです」とマカガティが言う。「私たちはマッシュを1.05トンから1.1トンに増やしてこの総生産量を得ました」

「生産量をこれ以上増せるとしても、唯一の方法は休止期間のうちの数週間を使って蒸溜することです。各マッシュからのウイスキーの量を増やすこともありますが、だからといってすごい量になるわけではありません」

数字に気を取られ、生産量を最大にする生産増大プログラムに着手する事で、「最小」という蒸溜所の魅力を失う危険を冒すという誘惑にかられないのだろうか? 断固としてそんな気はなさそうだ。

「今ここにあるものを壊したくないのです」とマカガティは言う。「もし、24時間稼働になれば、新しいウォッシュバックが必要になり、今あるものを作り直さなければなりません。そうなればすべてが壊れます。ひとつ屋根の下にすべてが収まることが重要なのです」

見学者がこの蒸溜所を目指してやってくるという立場は非常に重要であり、それを失いたくありません。企業の活動全体のなかで重要な役割を果たす歯車だからです

「過去、年間訪問者数が10万人にまで上ったこともあります。ビジターセンターとギフトショップの売り上げに最高記録を出した年でした。これはビジネスにとって非常に重要な部分です」

「将来のある時点で、(ピート焚きしたモルトを使用した)バレヒンの需要が高まり続ければ、私たちは、現在敷地のどこか別のところに、今の施設と同じ大きさのものを建てるかもしれません。しかし、それだけのことです」

 

→後半に続く

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