スウェーデンの大型新人 ボックス蒸溜所

October 11, 2012

ウイスキー愛好家が多いスウェーデンで、国産ウイスキーの生産が活発化している。本場スコットランドのノウハウを踏まえ、新しいビジネスモデルを展開するボックス蒸溜所が最近の注目株だ。

文:ガヴィン・スミス

 スウェーデンは、国産ウイスキーの生産に真剣に取り組んできた。1999年にヴァルボで設立されたマクミラ蒸溜所の存在を通して、すでにウイスキー通の間ではその品質の高さが国際的に認知されている。マクミラの他にも、小規模のベンチャープロジェクトが開発の途上にある。

そんな背景を考慮に入れても、2010年11月ボックス蒸溜所が設立されたことは、スカンジナビアのウイスキー愛好家をはじめとする関係者にとって画期的な出来事だった。数年間の準備期間を経たが、途中では経済状況が芳しくなく、計画が進まなくなった時期もあったというから喜びもひとしおである。

ボックス蒸溜所の設立は、冒険的な事業だった。その拠点となったのは、スウェーデン南部ダーレン地方の中心で、1912年に建設されたボックス発電所の建物。コンサルタントとしてプロジェクトの中心的な役割を果たしたのは、スコッチウイスキーの熟練者ジョン・マクドゥーガルだ。

「蒸溜所をつくる計画が生まれたのは、あるビジネスマンのグループが地元で何かをやりたがっていたからでした」
そう語るマクドゥーガルは、約700人の株主で運営されているオーダーレン蒸溜所でほぼ半世紀を過ごしてきた。オーダーレン蒸溜所を財政面で支えてきたのは、マクミラ蒸溜所にも出資しているベンチャー企業である。地元の農家であり、起業家であるトーマス・ラーションはこのプロジェクトの火付け役のひとりで、現在は蒸溜所の最高経営責任者を務めている。2010年11月には、ロジャー・メランダーが新しい蒸溜所の所長として招聘された。

 

堅実でエコな生産体制

ボックス蒸溜所には、3槽のステンレス製ウォッシュバックと銅製のポットスチル2基がある。どれもがスペイサイドのロセスにある著名な銅工房「フォーサイス」によって製造された立派な設備だ。現在の蒸溜所の仕事は、まだ創立から間もないこともあって出荷がない。様々に工夫した樽詰めが進行中である。

ニューメイクスピリッツは、ファーストフィルのバーボン樽オロロソシェリー樽オークの新樽などに貯蔵される。様々な産地から新しいオーク材が集められており、標準的なサイズのカスクに加えて、一部のスピリッツをより短期間で熟成するために39.25ℓの「アンカレ樽」が導入された。リリースの見通しについて、ロジャー所長は説明する。
「最初は、おそらく小さいカスクで熟成された3年モノのモルトウイスキーを数量限定でボトリングすることになるでしょう」

マクドゥーガルは、生産したウイスキーがスコッチウイスキー業界で動き始めるまでの時間を利用して本を書いた。バルヴェニーラフロイグスプリングバンクの各蒸溜所で所長を務めながらウイスキーづくりに携わった半生を回顧する書籍『麦芽汁、蒸溜器、ウォッシュバック』(共著)である。そんな彼が、ボックス蒸溜所の成り立ちについて詳しく説明してくれる。
「ダーレンは1950年代まで、製材業の一大拠点だったんです。一時は繁栄しましたが、やがて急速に没落してさびれてしまいました。製材に使う電動ノコギリのための電気を発電していた発電所の跡地に、この蒸溜所の建物はあるんです。19世紀末、材木はここで製材され、ボードボックスに加工されて英国市場で売られました。『ボックス』という名前はそこからきています

かつてのボードボックスは英国向けだったが、ボックス蒸溜所の製品は世界市場を相手にしている。メランダーが、生産するスピリッツの構成を教えてくれた。
「最初の2011年に75,000ℓを生産し、2012年には100,000ℓに増量します。2011年はアンピーテッドのモルトを50%、ピーテッドのモルトを50%使用しました。ピートは31ppmや39ppmのものを使用してきましたが、現在は45ppmのヘビーピート。2012年にはもっとピートが強いモルトを使うことになるでしょう

さらにメランダーは、ボックス蒸溜所は環境にやさしいベンチャービジネスであることを強調する。
「冷却濾過やカラメル色素の添加は、決しておこないません。現在、バイオガス工場の建設を計画中で、ドラフ(ビールかす)やポットエール(蒸溜かす)を利用して、エネルギーを自前で供給する予定です。沈殿物やポットエールから銅をリサイクルすることも構想しています」

 

ボトラー事業で虎視眈々

創業後の蒸溜所は、本格的な量産体制に入る前にいろいろと工夫がいる。そのため革新的なボトルを生産してPRするのも優先事項のひとつとなる。蒸溜所にやってくる訪問客用の施設も、ボックス蒸溜所の全計画の中で重要な位置を占める。現在、工場見学ツアーは週に4日間。ロジャー・メランダーは、ボックス蒸溜所がさらに意外なビジネスで運転資金を稼いでいることを明かした。
実は独立系のボトラーとして、いくつかのボトルを発売しました。自分たちのウイスキーが発売されるまでの間は、このボトラーズ事業を続けます

ジョン・マクドゥーガルがセレクションに関わった「ラフロイグ1998年」のシングルカスクが、ボックスレーベルからスウェーデン国内で販売されている。このボトラー事業の意義をメランダーが説明する。
「ブランドの認知度を上げていくために、ウイスキーフェアスウェーデン国内でのテイスティングなどで、何か特別なものを提供し続けていくのはとても大事なことなんです」
さて楽しみなのは、ボックス蒸溜所が産出するスピリッツの品質だ。ジョン・マクドゥーガルは静かな情熱を込めて経過を報告してくれた。

スモークしていないタイプはフルボディ。わずかにオイリーで、滑らかで、繊細です。スペイサイドの先達であるリンクウッドに似たスタイルといえるでしょうか。一方のスモークしたタイプは、ピートを使用したスペイサイドのような、あまり薬臭くないスタイルです。どちらもこれからよく熟成してくれるに違いない兆候を示していますよ。どうぞご期待ください」

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