ソウルのバー巡り

February 17, 2012

日本に負けず劣らず、お酒が大好きな韓国の人たち。独特のバー体験が楽しめるソウルの4軒をご紹介。(文:デイヴ・ブルーム)


「ウイスキーをショットグラスごとビールに入れて、一気に飲み干すポクタンジュ(爆弾酒)を知っていますか?」。初めての韓国旅行を前に、嫌な話を聞いた。バー巡りを前に不安が募る。この国はウイスキーの大消費国予備軍かもしれないが、飲み方は乱暴なのではないかと。

そんな先入観もあって、地下鉄江南区庁駅そばの「モルトバー・オフ」は驚きだった。木調の内装と、抑えた照明はまるで銀座。2010年4月にオープンした、韓国初のモルト専門バーである。38の蒸溜所から取り寄せた140種類のウイスキーが、テイスティンググラスで供される。

店長のキム・チェヒョンさんは何度も日本に通い、ウイスキー専門バーがソウルにないことを嘆いていたという。人気銘柄は日本産で、山崎がその筆頭。アイラ党も多く、ラガヴーリン16年が好まれている。「日本のバーはかしこまった距離感がありますが、ここでは客とバーテンダーが親密です」。なるほど、それが韓国流のスタイルなのだ。

新村の賑やかなネオン街に移動し、「ミスター・サイモン・バー」を発見。マッカランの空き瓶で作った巨大なピラミッドを、豆電球の灯りが飾っている。中央にバーを配した広い空間は、ナイトクラブに近い。1杯11,000ウォン以上のシングルモルトは、客のテーブルまでボトルを持ってきて注いでくれる。

次の目的地である清潭洞にはカクテルバー、ジャズスポット、エスニックレストランなどが軒を連ねている。訪れたのは千葉、銀座、シンガポールとチェーンを広げる「Coffee Bar K」。韓国人から見れば日本風なのだろうが、広めの店内に鳴り響くハウスミュージックがいかにも韓国だ。

店は3層からなり、最上階に照明を落とした長いカウンターがある。シンガポール店から異動した大熊一平マスターいわく「韓国人はアルコールが好きなので、ウイスキーはストレート。1人客は少なく、グループでボトルを飲まれますね。モルトへの知識欲は旺盛で、バーテンダーとの関係は親密です」。ウイスキー入門者にとって、300種類以上のシングルモルトは探求のしがいがある。

モルトベースのカクテルに驚嘆

次の日、ボヘミアンなムードが漂うソウル北東部で、バー「ファクトリー」を目指す。打ちっぱなしのコンクリートは、現代アートのギャラリーのよう。店主のハンさんがキュレーターであると後から知った。長いカウンター、座布団のあるラウンジエリア、片隅に小部屋がひとつ。

「月曜から土曜まで、午後7時から営業しています。閉店時間は、朝8時や9時になることも。土地柄、クリエイティブな職業の人がやってきます。韓国はグループ行動が多いのですが、ここでは一人客も少なくありません」。

バーの背後にはシングルモルトがずらり。「2年ほど前から若い人たちが関心を示すようになりました。韓国人は飲むピッチが速いので、若い人に試飲させたり香りを嗅がせたり、モルトをゆっくり味わうスタイルを薦めています」。

ハンさんが「フライング・バイシクル」というカクテルを作ってくれた。グレンモーレンジィ・オリジナルを、ライムジュース、レモンビターズ、ハチミツと一緒にシェイクし、シャンパングラスに注いでジンジャーエールを加える。「シングルモルトには様々な楽しみ方があることを、韓国の女性たちにも知ってほしいですね」。

次に飲んだのは「アードベッグ・エゴイスト」。アードベッグ10年、レモンビターズ、アンゴスチュラビターズ、ライムを混ぜでトニックとソーダで割り、ローズマリーとライムを飾り付けてある。何という洗練。ソウルのバー巡りに、ポクタンジュの幻影はみじんもなかった。


Malt Bar Off
江南区三成洞9-7

Mr. Saimon Bar
松坡区蚕室洞190-6 B1

Coffee Bar K
江南区清潭洞89-20 1F

The Factory
麻浦区西橋洞402-13 B1

 

 

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