ダルウィニーの凍てついた歓迎

March 21, 2013

老舗のモルト蒸溜所ダルウィニーはビジターへの対応を改革中である。その改革の責任者と語り合った。

Report:ドミニク・ロスクロウ
【2010年掲載】

新しい仕事での最初の日はいつでも、ちょっとした苦戦となるものだが、ユアン・マッキントッシュにとってはそれ以上のものだった。「厳しい試練」と呼んでも良いようなものだったのだ。マッキントッシュがダルウィニーでの仕事を始めるために到着したのは、ここ数年来の酷い降雪に蒸溜所が埋まった直後だった。彼と彼の新しい同僚たちは、蒸溜所にたどり着くために自分たちで雪を掘り進んでいかなくてはならないことがわかっただけでなく、そうしてたどり着いたドアを通り抜けた蒸溜所そのものも、固く凍りついているのを見た。

「糖化槽(マッシュタン)につながった全てのパイプのみならず、ワームタブ部分も含め、蒸溜所内の全てが固く凍っていたのですよ」と彼は語る。「それらのパイプのいくつかは、太ももほどの径がありましたが、完全に凍りついていたのです」

「私はオーバンを去ってここにやってきたのですが、最初の週は水が出ませんでしたし、最初は暖房すらなかったのです。しかし、餞別の品として1瓶のオーバンを貰っていたのと、出発の前にアイラ島で少し時間を過ごしたので、ピートを詰めたバッグを持参してきていました。そこで、私たちは暖炉にピートをくべてスープを温めました。それは霜取り作業をしている人たちにも分けてあげることができました。そしてオーバンとともにそれを飲み干しました」


「そしてようやく蒸溜所のボイラーを稼働させて、パイプ配管を解体してボイラー室に持ち込み霜を取り除いたのです。すべてを元に戻して動かすまでに1週間かかりました。ここでは除砂機と除雪機を所有しているのですが、周囲をきれいに保つために日に2回出動していました。全く信じられないような状況でしたよ。氷と、サーベルのようなツララは安全上の大問題でした」

「しばらくは本当に厳しい状態が続きました。ピトロッホリーから戻ることができなかったため、ある時点でブレアソール蒸溜所で雪に閉じ込められたこともありました。A9道路はほとんど閉鎖されるところでした。しかし驚いたことに、人々は訪問し続けていたのです。激しいブリザードのおかげでほとんど視界がなかったのにもかかわらず、中に入ってウイスキーを1杯楽しみたいビジターたちのグループがドアを叩いていたのです。

マッキントッシュはダルウィニーのブランド継承マネージャーである。彼の任命が意味するのは、蒸溜所のオーナーであるディアジオ社によるビジター達へのサービスの開発と拡大への決意表明である。約2万人の訪問者が毎年ドアを通るが、しかしこれまではビジター達のケアはこの先にあるブレアソール蒸溜所と分担で受け持たれていた。

マッキントッシュはこれまでに西海岸のオーバン、アイラ島のラガヴーリンとカリラで働いてきた。彼は新しい蒸溜所での挑戦にワクワクしているのだ。

「オーバンとはとても違いますね。オーバン蒸溜所は通りから引っ込んだところにありますが、街の中心に近いため、いつでもたくさんの人が歩いていて、一見さんの訪問が多いのですよ」とマッキントッシュ。「ダルウィニーはもっと目に付くところにあるのですが、人々に訪問してもらうためには大きな通りを外れて迂回して貰わなければならないのですよ。しかし、ここは特別な蒸溜所なのですから、人々に来てもらいたい。訪れるビジターに素晴らしい体験をしてもらう。それを確実に経験してもらう方法を模索しているところです」

いくつもの方策を考慮しているが、巨大な国際企業をバックに持つという最大の利点のひとつが、最大の障害にもなりかねない。蒸溜所の背後にディアジオの力があるので、最高の水準と設備を確保するための予算を組むことは可能である。ディアジオの関わる蒸溜所は、保守状態の良いものが多い。しかし、水準は非常に高くなる一方、冒険や個性のための余地は少なくなってしまうことが欠点となる。それぞれもっともな理由によって、それらの蒸溜所はみな似通ったものとなる。同じ標識と案内板に埋められて。

マッキントッシュは今後数週間をかけて新しい対象を評価し、夏に向けてどのようなスタッフで臨むかを考え、ダルウィニーの独自性を打ち出すおもてなしを構築するつもりだ。標準的な15年モノへと成熟する道筋を示すために、異なる成熟年数のダルウィニーを提供するアイデアについて語った。またビジターにはニューメイクを味わってもらったり、蒸溜所謹製のビールや様々なモルトウイスキーの副産物を提供したりということも考えている。

しかし、とりわけ彼がビジターに提供したいと思っているものは、蒸溜所の家族的な雰囲気だ。ある国際的な巨大企業によって所有されてはいるが、蒸溜所のスタッフにはここへの帰属意識がある、と彼は言う。

「家族に強いつながりを持っている蒸溜所は世の中には多数あって、そこでは様々な世代が働いています」と彼は言う。「しかし私がこれまで属してきたどの蒸溜所よりも、ここには強い家族の絆があるのです。蒸溜所を訪問してみると、かならず白黒写真を見ることができます。ちょっと無愛想な作業者たちや、頬髭や顎鬚を蓄えたものたち、そして正面にスーツとタイを着用して座る男たちなどの写真です」

「ここではそうした写真をガイドと一緒に見たとすれば、彼らはきっと『これは父で、これが叔父で……』と語ってくれるはずです。蒸溜所が温かな家族の気持ちで満ちているのです。これがダルウィニーをとても特別なものにしているのですよ」

これは未来への良い希望を抱かせるものである。ユアン・マッキントッシュは到着時に凍てついた歓迎を受けたかも知れないが、実のところ、蒸溜所は彼に熱を与えたのだろう。

カテゴリ: Archive, 蒸溜所