ピートとフェノールの不思議

April 18, 2013

ピーテッドモルトに関して「ppm」という用語はなにを意味し、モルトの特性面でどんな意義があるのか
Report:イアン・ウィスニュースキ

ピーテッドモルト(ピートで乾燥したモルト)の選択肢はわずかなスモークの香り付けをしたものから、焚き火で乾燥したものまであらゆる好みに対応できるが、これは各モルトのピートレベル(ピートでの乾燥レベル)が重要な数字になっていることを意味する。このレベルがppm(100万分の1)という化学で使用される標準的な単位で表され、スモーキーでピートの風味を出すフェノール性化合物を示す。

表示されたピートレベルは大麦(一度麦芽にされ、ピートで乾燥された)についてのもので、ニューメイクスピリッツあるいは熟成されたモルトウイスキーについて言及されるものではない。

ただし、このレベルは製造プロセスで大きく変動するのでモルトのピートレベルを把握するのは出発点に過ぎない。

まず、モルティングとピーティングを復習しておこう。モルティングは大麦を水に浸して発芽させるところから始まる。窯から出る熱を使ってモルトを乾燥させてそれ以上の発育を防止し、またピートを窯に入れると、そのスモークは、ほとんど殻となった大麦に吸収される。少量のピートを加えただけではピートレベルはそれほど上がらないが、ピートを加え続けるとそれに応じてレベルは上がる(このプロセスは最大24時間かかる)。

10ppm程のピートレベルは軽いと考えられ、通常わずかにスモークの香りがするモルトウイスキーがつくられる。25ppmが中位40〜50ppm以上はピートでよく乾燥されたと見なされ、スモークの香りが強いモルトウイスキーがつくられる

ピーティングは大麦にフェノール系化合物(つまりフェノール「群」)を与える。フェノール、クレソールおよびグアヤコールなど個々の化合物などだ。

「フェノール自体が全体の約50%を占める最大の成分だ」とエドリントングループの技術サポート部長ビル・クリリー博士は語る。フェノールは薬品の香りを含む様々な香りがし、全フェノール系化合物の40%を占めるクレソールは、タールやアスファルトのような香りがする。約10%のグアヤコールはスモークを増加させる。

「フェノールは全フェノール系化合物の中で最も単純な物質で、クレソールはそれより複雑、またグアヤコールはクレソールよりさらに複雑だ」とグレンモーレンジィの蒸溜およびウイスキー製造部門を率いるビル・ラムズデン博士は語る。

ピートレベル内のフェノール系化合物の正確なバランスはピートの産地など様々な要因により異なる。例えば、島や海岸からのピートは海草を含み、また内陸のものより大量の砂を含んでいる。一方、ヒースの量はスコットランド南部のピートより北部のものに多く含まれる傾向にある。

しかし、ピートの特定の成分がどのフェノール系化合物にどの程度寄与するのかはまだ全貌が解明されておらず、現在進められている研究の課題となっている。

製造プロセスの中でマッシングや蒸溜によりピートレベルは最大60〜80%減少される。

マッシングは、マッシュタンの中で粉砕麦芽と厳密に管理された温度のお湯と混ぜることで、麦芽に含まれるでんぷん質を水溶性糖分に変える作業である。

フェノール系化合物も水溶性なので発芽させたあとの大麦麦芽から浸出する。

これにより甘いフェノール系の麦汁(ウォッシュ)を抽出し冷却されたのちに発酵槽(ウォッシュバック)へと送られる。一方、マッシュタンに残った麦芽のもみ殻(ドラフ)は高濃度のフェノールレベルを保持している。

発酵はフェノール系化合物の特性に影響しないが、この段階でエステル(フルーティーな風味)を含む多数の風味化合物が形成されるため、発酵前にシリアルと麦汁のフェノール系化合物の特性から大きな変化が起こり、発酵後は特性の範囲がさらに広がる。

最初の蒸溜(初溜)の役割は、麦汁が発酵して低アルコールのモロミ(約5〜8%)になり、そのモロミを蒸溜し、沸点の違いを利用してアルコール濃度を高める。再蒸溜(再溜、または後溜)でさらに度数を高め、質の良いスピリッツのみを採集する。ローワイン(初溜液)のアルコール度数は20〜25%で、再溜のはじめの過程で度数は75〜80%に上昇し、その後緩やかに減少していく。

再溜のはじめに出てくる液体は雑味が多く、品質も良くないのでフェインツとしてローワインが入れられている容器に集められる。樽に入れて熟成させる液体(スピリッツ)を採集し始めるミドルカットの段階のアルコール度数は蒸溜所により異なるが、通常は約75%からで、スピリッツ採集のミドルカットを止める度数が65%である。たとえば平均70%のアルコール度数は、さらに低い度数のものより軽くフルーティーな風味で、これが低い度数のもののほうがリッチになる。

フェインツはローワインと同じ容器に採集され、再溜される。

「軽いフェノールが出てきて、その後に重いものが出てくるので蒸溜過程で様々なフェノール系化合物ができる」とアードベッグ蒸溜所のマイケル・ヘッズ所長は語る。

したがって、スピリッツが軽いかリッチかが蒸溜所のスタイルを決め、ニューメイクスピリッツのフェノール特性の決定も含まれる。

「ミドルカットのタイミングで、80ppmまで高いフェノール値でピート乾燥させたものでも、まだ軽いフェノールのニューメイクスピリッツを作ることができる」とスプリングバンク蒸溜責任者スチュアート・ロバートソンは語る。

ハイランド パーク蒸溜所のラッセル・アンダーソンは「フェノールを高めるひとつの方法は、ミドルカットする時間の幅を広げることだ。しかし時間を延長する際、スピリッツ採集の一部に重く不快な風味を採り込まないように最新の注意が必要だ」と付け加える。

ピートレベルが熟成の際に減少し、そのためモルトウイスキーの風味の点ではまろやかになる。

もうひとつの説は、ピートレベルは熟成中ほとんど変化しないが、実質的にフェノール特性を「隠してしまう」バニラやフルーツ香などのほかの特性レベルが上がるので、まろやかになったように思われるというもの。

1杯飲みながら議論するに値する話題だ。

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