樽が重要 その2【全3回】

June 20, 2012
ホワイトオークのなせる技

マーク・ギレスピーがアメリカンオークを考察

トリビアな質問。世界中にホワイトオークは何種類あるか?

とりあえずここではそのひとつ、アルバオーク(Quercus Alba)について話そう。アメリカンホワイトオークとしても知られ、バーボン/テネシーウイスキーをはじめとして世界で最も多くウイスキーの熟成に使われている木材だ。米国の法律では、この木樽はバーボン/テネシーウイスキーの熟成に一度しか使えないため、世界中の蒸溜業者にとっては使用済みアルバオーク樽の巨大な供給源となる。しかし、この法律は蒸溜業者が使用するべきオークの種類までは規定していない。では、北米の伝統的なウイスキー生産地域には多くのホワイトオークとレッドオーク(Quercus Rubera)が生えていることを考えると、蒸溜業者はどうしてアルバオークに落ち着いたのだろうか?

「レッドオークで樽を造ったら、入れて1日も経たないうちにウイスキーがすべて流れ出てしまいます」と、ウッドフォードリザーブのクリス・モリスは言う。レッドオークは素晴らしい家具になるが、液体を入れるには多孔質すぎる。他の硬材のほとんどは、樽を造るには脆すぎる。

「私がエキゾチックウッド(オーク以外の木材)と呼ぶものでも実験しています」とモリス。

「樽製造業者にサトウカエデ、ヒッコリー、ペカン、トネリコ、ササフラスで後熟用の樽を造らせました」

彼のラボでは、バーボンを入れたビーカーに焼いて炭化させたサクラやペカンなどのチップを加えて、エキゾチックウッドの可能性をテストしている。

「味が良いものは、それで樽が造れるかどうか試します」と彼は言う。

この実験から、2010年ウッドフォードリザーブ マスターズコレクションのサトウカエデ樽フィニッシュのバーボンが生まれた。他の蒸溜業者は様々な段階の工程、特に蒸溜工程で木材を試している。

テキサス州ワコ、バルコーンズ蒸溜所のチップ・テイトは、燃えるスクラブオークの芳香を熟成前に注入したスピリッツを使い、キャンプファイヤのようなスモーキーテイストを持つバルコーンズ・ブリムストーン・ウイスキーを生み出して、2012年にアメリカン・クラフトディスティラーズとしてウイスキーマガジンのアイコンズ・オブ・ウイスキーを受賞した。

「これを味わった10人のうち3、4人が、ひと口で好きになります」とテイトは言う。

「私の趣味ではないという人は必ずいます……しかし、その他の人々はテイスティングしてひと口で、言わば面くらいます。もうひと口味わうと、ひと口めでひるませたものが他のすべての風味に広がってゆき、ほとんどの人が魅了されます」

アーカンソー州リトルロックのロックタウン蒸溜所は、アーカンソー・ヒッコリー・スモーク・バーボンにスコッチのような考え方を用いている。

ディスティラーのフィル・ブランドンは、赤色冬小麦(レッド・ウィンター小麦)を数日水に浸し、その後、蒸溜前にヒッコリーを満たしたスモーカーで乾燥させる。米国のバーボン規格はあらゆる種類の香味料を禁止しているが、この技術は合法だ。

バージニア州コッパー・フォックス蒸溜所のリック・ワスムンドは、リンゴなどの果樹から造った樽でウイスキーを熟成したいと思い、シングルモルト/ライウイスキーの蒸溜の前後に果樹材を使うことにした。

ブランドン同様、ワスムンドも蒸溜前にリンゴとサクラの丸太を燃やしてグレインを燻すが、ワスムンドの構想が生きるのは熟成段階だ。焼いたアップルウッドチップを樽の内部に使い、ウイスキーの風味を強化する。

「一度も殺虫剤を散布していない古い果樹園から調達しています」とワスムンド。

「ここから入手する古い木の成熟した幹を割ると、この芳香、この特性、捉えて樽に入れようとしているこの美しい存在感とエッセンスが得られます」

コッパー・フォックスのシングルモルト/ライウイスキーには年代表記がないが、スモールバッチで製品化してよいとワスムンドが見なしたときにボトリングされる。コッパー・フォックスは熟成スピリッツに加えて、両ウイスキーのニューメイクスピリッツも「Distiller’s Art」シリーズとして、家庭熟成用の小型樽付きで販売している。小型樽は同蒸溜所で使用している樽と全く同様に、炭化させた新しいアルバオークで造られている。

さて、文頭の質問の答えは36種類だ。その中にはシェリーなどワインの生産者が伝統的に使用していた木材で、スコッチウイスキー生産で需要があるアルバオークのヨーロッパ種、ヨーロピアンオーク(Quercus Robur)も含まれる。

 

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