ウイスキーブランドの提携相手【前半/全2回】
競争が激化するウイスキー業界で、ウイスキーブランドがさまざまなコラボ企画を仕掛けている。その狙いと実例を追った2回シリーズ。文:ルーシー・ローズ
ウイスキー蒸溜所は、今もなお世界中で増え続けている。市場での競争が激化するなかで、もはや蒸溜所がみずからの伝統や産地といったブランド力だけで勝負するのは難しくなってきた。強烈なスモーク香や、希少なポート樽フィニッシュなどで特徴を出す路線にも限界がある。
そんな現代のウイスキー業界において、蒸溜所はどのように差別化を図れるのか。ウイスキー愛好家に新たな価値を提供するため、どんな未知の可能性が残されているのか。

このような課題に対して、多くのウイスキーメーカーが導き出した答えは「戦略的なブランド提携」だ。蒸溜所の存続には、前例にとらわれない連携の力が必要である。
それぞれ異なったファン層の関心が重なる「魔法の交差点」や「意外なツボ」のようなコラボを実現できれば、声高に伝統や香味を主張するよりも効果的に注目や関心が獲得できるかもしれない。そんな成功事例はどこにあるのだろう。そもそも理想の提携相手は、どうやって探せばいいのだろう。
ウイスキー業界では、これまでもさまざまなパートナーシップが注目されてきた。今でも記憶に残っている有名な例のひとつが、米国オレゴン州ポートランドの木製自転車メーカー「レノボ」とグレンモーレンジィのコラボだ。
今から10年ほど前にレノボが発売した限定版の自転車は、使用済みのウイスキー樽から造られていた。類似したコラボといえば、ボウモアとアストンマーティンの長年にわたる協力関係も記憶に新しい。むしろレノボの自転車より有名であろう。提携する双方が、互いのクラフツマンシップを意識させることで新しいファン層の注目を集められるパートナーシップだった。
現在のウイスキー蒸溜所は、むしろホスピタリティ分野のパートナーを求める傾向にあるようだ。具体的には、ウイスキー愛好家にウイスキー以外の美食体験を提供するスタイルである。グルメの世界でブランドの認知度を高め、変化し続ける市場で存在感を維持するのがコラボの目的となる。
そのような提携先は、ミシュランの星付きレストランから高級アイスクリーム店まで多岐にわたる。味覚を基軸にしたコラボなら、意外な相手にも機会が見いだせる。変動の激しいホスピタリティ業界を支援しながら、ウイスキーメーカーが魅力をアピールできるチャンスだ。今までよりもずっと幅広いオーディエンスに、創造的な方法で独自の風味を紹介する可能性を秘めているのだ。
この分野で印象的なパートナーシップを提携しているのが、スカイ島のタリスカーだ。地元スカイ島にある世界的に有名なレストラン「スリーチムニーズ」と手を組み、ウイスキーの深い味わいをあらためて主張する。そしてスコットランド屈指の美観を誇るスカイ島の伝統に根ざし、ウイスキーの歴史もはっきりと打ち出すためのプロジェクトである。
味覚を軸に新境地を開拓
かつてはスカイ島で唯一の蒸溜所だったタリスカーだが、島内に新しいトラベイグ蒸溜所も開業して特権は失われた。そんな状況だからこそ、タリスカーこそスカイ島を代表するウイスキーであると世界に再認識させるメッセージが必要になったのだ。
タリスカーとスリーチムニーズのコラボは、没入型の単発イベント企画として始まった。それが今では、スカイ島を巡礼するウイスキー愛好家のための恒久的なお楽しみに変化したのだ。
蒸溜所の所在地である半島の周囲には、いつも潮風が漂っている。この風土に着想を得て、タリスカーの「海っぽさ」を思慮深く反映したメニューが人気である。獲れたての牡蠣、ムール貝、ホタテ貝などが、ウイスキーに含まれる燻香、スパイス、ピート、塩味、胡椒のニュアンスなどと見事に調和する。
このコラボの目的は、スカイ島の素晴らしい魅力を称えながら、美食とスコッチの真髄を融合させた特別な体験をウイスキー愛好家に提供すること。レストランからは美しい湖を眺望し、さらに遠くには息をのむようなクイリンヒルズの山影も広がっている。スコットランドらしさ満点の風景を眺めながら、スコットランドならではの美食体験に没入できるのだ。
このユニークなダイニング体験は、今後も蒸溜所内で恒常的に提供される(ただし冬季は水曜日と木曜日が休業日)。そもそもタリスカーは、長年にわたって牡蠣との相性の良さを訴えてきた。だが現在の取り組みは、シーフードとのペアリングを新たな次元へと引き上げている。多くの競合他社が注目するコラボだ。
ヘブリディーズ諸島からスペイサイドに話題を移すと、美食の世界で有名なロカ兄弟がマッカラン蒸溜所内にレストランを開設している。マッカラン蒸溜所の大掛かりな改修事業は、ウイスキー界全体でも広く称賛されるものだった。
しかし開業後の興奮をどう持続させるかという点には課題もあった。その答えが、マッカランのウイスキーにふさわしい壮麗なホスピタリティ空間の開設なのである。
世界有数の蒸溜所内という特別なロケーションで、匠の技を駆使した料理が供される。その圧倒的な魅力は、訪問者を惹きつける目玉となった。デンマーク人建築家のデービッド・トゥルストルップが設計したレストランは、「タイムスピリット」と名付けられている。客席数24席というこぢんまりとした規模だが、当然のようにウイスキーをふんだんに組み込んだメニューで来客を魅了する。
(つづく)










