世界中で、新しい生産地が続々と名乗りを上げている世界のウイスキー業界。緯度や軽度の広がりではなく、標高とウイスキーの関連に注目した2回シリーズ。

文:マット・ストリックランド

 

現代のウイスキー製造は、世界に7つ大陸のうち南極を除く6大陸で実践されている。そこは実に多様なプレーヤーたちが競い合う業界であり、新しい土地で新しい香味が発見され続けている。

スコットランド、アイルランド、日本、カナダ、アメリカで、定評の高いウイスキーをつくり続ける伝統的なウイスキーメーカーがいる。だが、それだけではない。世界のあちこちに点在する新しいクラフトディスティラーたちは、ウイスキーにはまだ未開拓の分野があることを教えてくれた。志さえあれば、素晴らしいウイスキーはどこでも生み出せるのだ。

現在のところ、世界でもっとも高い場所にあると思われるのはスイスのオーマ蒸溜所(メイン写真も)。パスカル・ミットナーとリナルド・ウィリーが共同で創設した(次回記事で詳報)。

これまでウイスキーの産地としては知られてこなかった国や地域から、忘れられないほど素晴らしい味わいのウイスキーが生まれる。誰も想像していなかったことが、ウイスキー界では次々と起きている。この地球が1軒のウイスキーショップだったら、こんな会話が聞こえてきそうだ。

「北極圏でつくられたウイスキーってありますか?」
「はい、ございます」
「高温多湿な東南アジア産のウイスキーを飲んでみたいのですが」
「もちろん取り揃えております」
「メキシコはテキーラばかり有名ですが、乾燥地帯の貯蔵庫で熟成させたメキシコ産のコーンウイスキーなんてありませんよね?」
「ございます。しかもたいへん美味しくできています」

このような地理的広がりは、ウイスキーの多様性を間違いなく広げてくれた。だが地図上での多様性は、あくまで経度と緯度を軸にした多様性に過ぎない。

そこで今回は、ウイスキーの世界であまり語られることのなかった3次元的な地理的多様性について考えてみたい。つまり東西南北の広がりではなく、蒸溜所が位置する標高にまつわる多様性である。
 

高地での蒸溜で起こること

 
すでに標高の高い場所で操業している蒸溜所はいくつかある。このような「高地ウイスキー」は、ウイスキーの製造方法に新しい工夫が必要となるため、新しい香味を発見するチャンスでもある。その経験と成果は、ウイスキー業界全体が参照できる新しい実績として、幅広い側面で影響を及ぼしつつある。

そもそも蒸溜とは何だろう。それは各化合物の沸点と揮発性の違いを利用して、物理的に分離させるプロセスである。水とエタノールを1対1で混合した水溶液を加熱沸騰すると、蒸気中に含まれるエタノールの割合は高く(約80〜85%)、水の割合が相対的に低くなる。

コロラド州のブレッケンリッジ蒸溜所は、海抜2,920メートル。ロッキー山麓で生産されるユニークなアメリカンウイスキーだ(次回記事で詳報)。

この蒸気を再び冷やして液化したのが、ウイスキーを含むスピリッツのモデルだ。水とエタノールの混合物には、ごく少量の香味化合物が加わる。それが全体として、素晴らしいフレーバーを表現しているのである。

蒸溜によってエタノールの濃度が上がるのは、エタノールの沸点(78.4℃)と、水の沸点(100℃)の差異によるものだ。エタノールの比率が多いほど、混合液の沸点は78.4℃に近くなる。同様に、水の比率が多いほど沸点は100℃に近づく。そして78.4〜100℃の間にあるさまざまな温度で、水とエタノール以外の様々な混合物が沸騰することにもなる。

料理番組などで「標高が変われば、水の沸点も変わる」という話を聞いたことはないだろうか。これは標高によって気圧が変化するために起こる現象だ。海抜が高いほど気圧は低くなり、標高を300m上げると水の沸点は約1℃下がる。

実際にエベレストの山頂で水を沸騰させようとすると、温度計は約70℃を超えることはない。この現象は、ウイスキーの蒸溜にも興味深い影響を与える可能性がある。

この気圧と蒸溜の相関関係をもっと深く知るため、ウイスキーの世界を飛び出して日本の焼酎の世界に目を向けてみよう。日本の焼酎には、蒸溜器の内部を真空にした特殊な蒸溜器で蒸溜したものもある。これが蒸溜器内の圧力を下げ、内容物の沸点を下げることを目的とした「減圧蒸溜」だ。

このようなスタイルの蒸溜は、極端に標高の高い場所で蒸溜しているのと同じような効果をもたらしている。減圧蒸溜器を使えば、もろみの沸点を50℃にまで下げることができる。ジンの世界に目を移すと、このように極端な減圧によって沸点を-5℃にまで下げているメーカーもある。このような低温の蒸溜によって、もろみに含まれるアロマが多量に温存される。その結果、クリーンでフルーティーな新しい香味がスピリッツに備わったりするのだ。
(つづく)