上質なシングルモルトウイスキーに特化し、日本のミズナラ樽も使用する。アードロス蒸溜所は目標に向かって着実に歩みを進めている。

文:ガヴィン・スミス

 

サンディ・ジェイミーソン蒸溜所長によると、現在のアードロスはスタッフ4人の体制で、1日に1バッチをこなしている。直近の生産量は、純アルコール換算で年間35万リッターだ。だが120時間という長時間発酵を採用しているため、現在のシステムではどうしても発酵が工程上のボトルネックになる。

この問題を解決するため、現在6槽あるウォッシュバックは新たに4槽を追加して拡張される予定だ。その後は1日2バッチのシフトが組めるようになるため、蒸溜所の生産量は純アルコール換算で年間70万リッターにまで増加する。

アードロスを運営するグリーンウッド・スピリッツ社のCEO兼マスターブレンダー、アンドリュー・ランキンが語る。

発酵時間が120時間と長いため、待ち時間を減らすために発酵槽を増設した。これだけで年間生産量も倍増している。

「ウイスキーにはたくさんのバリエーションを求めておらず、コアな商品がいくつかあれば十分だと思っています。それぞれの商品の個性を決めるのは、樽材の違いということになってきます。アードロスでは年に1ヶ月だけヘビリーピーテッドのスピリッツも蒸溜しています。それぞれの原酒をジグソーパズルのピースに見立てて、将来の商品を組み立てていこうと考えている最中です」

蒸溜所の敷地内で樽詰めされて貯蔵されるのは、ごくわずかな量のスピリッツに限られる。大半はロードタンカーで、樽詰めと貯蔵がおこなわれるグリーンウッド・ボンドまで運ばれる。場所はセントラルベルトのカンバーノールドにも近い工業団地なのだという。

この貯蔵庫には25,000本の樽を貯蔵できるスペースがあり、ケースに入った商品を発送準備するエリアもある。最近はシングルカスク商品のボトリング設備が導入されたばかりだ。アードロスのベンチャービジネスを成功させるためには、グリーンウッド・ボンドの存在が欠かせないのだとランキンは語る。

「あまり他社に頼らなくてもいいように、自社でコントロールできるサプライチェーンが必要です。社内でできることが多いほど、好ましい生産体制だと思っていますから」

アードロスのスピリッツを熟成する樽材選びについては、ランキンの説明によると蒸溜所で使用するバーボン樽はすべてファーストフィルだ。シェリー樽は最低でも3年間シーズニングが施される(多くの蒸溜所は1年以上という基準を採用している)。そして驚いたことに、少量だがミズナラ樽にも樽詰めされているのだという。これはある日本の製樽会社から、年間20本ほどの限られた数量でミズナラ樽を分けてもらっているお陰なのだとランキンは言う。

「日本でもミズナラ材は希少で、しかも加工が極めて難しい。これらのミズナラ樽で熟成した原酒は、他の樽による熟成よりも時間がかかると思っています。将来には、ここからシングルカスク商品のリリースなどを検討できたら嬉しいですね」

ジェイミーソンも樽熟成について私見を語る。

「軽やかで心地よいアードロスのスピリッツは、バーボン樽での熟成にとても向いていると予想しています。他のどんな樽よりも、蒸溜所のスピリッツの特性がはっきりと引き出されますから。バーボン樽は、私たちのスピリッツの手づくり感を表現してくれるんです」
 

会員制度でシングルモルトのブランド価値を維持

 
現在の段階で、3年熟成のウイスキーを「ほんの少量」だけ限定発売する計画はある。だがアードロスの生産チームが納得する品質が確認できれば、ランキン自身は10~12年熟成のウイスキーを商品化するのがベストではないかと考えている。

アードロスで生産されるモルト原料のスピリッツは、自社内のみの使用に限るという方針をランキンは強調している。例外はカスク・ソサイエティの会員のみで、サードパーティーに販売したり、樽ごと委託したりすることはない。

アードロス蒸溜所が予定している次の動きは、蒸溜所の背後にある堂々とした石造りの建物の改装だ。この建物は、アードロス・シングルカスク・ソサイエティ(ASCS)の拠点となる。取締役のバース・ブロソーの説明によると、ASCSの会員は各人がアードロス蒸溜所のスピリッツを熟成している樽に投資をする形となり、ファウンダーズ・プラグラムの特典を享受する。特典には、商品の割引購入や限定ボトルへの早期予約などが含まれる。

バーボン樽はすべてファーストフィル。シェリー樽は3年以上シーズニング。そして何と日本産のミズナラ樽でも熟成している。樽熟成の方針を見ても、明確に高級路線であることがわかる。

このASCSの建物には、さらに「アードロス・スモールバッチ蒸溜所」も併設される。スモールバッチ蒸溜所は今年中に開業し、生産を始める予定だ。この蒸溜所は、最大で年間250樽分のウイスキー(約3万リッター)を生産する。形状やサイズの異なるスチルを複数備えており、他にはないユニークでパーソナライズされたアードロスのウイスキーを「完璧な万能性」で生産できるようになるという。ランキンいわく、これはスコッチウイスキー業界で初めての試みだ。

ランキンによると、ここでおこなわれる実験にはグレーンやライ麦を原料にしたウイスキーの生産も含まれることになりそうだという。つまりスモールバッチ蒸溜所は、あらゆる穀物原料をつかってスピリッツが蒸溜できるのだ。さらにチームはケンタッキーの製樽会社と協働でアードロス独自の樽を開発している。建物の中二階にはエグゼクティブスタイルのラウンジを設け、ASCSの会員は蒸溜工程を見学できる。その一方で、アードロス蒸溜所のビジターセンターを解説する予定は今のところない。それでも事前予約してくれた市民のために、蒸溜所見学の手配はできる限りおこなっていきたいとランキンは語る。

昨年末、クリスティーズオークションでアードロスのニューメイクスピリッツが競売にかけられた。クリスティーズ255年の歴史で、ニューメイクスピリッツが競売にかけられるのは初めてのことである。2021年12月3日に開催された「ファイネスト&レアレスト・スピリッツ」の競売で、アードロスで最初に樽詰めされた3本の樽が、最低落札価格8万〜13万英ポンド(約1300万〜2200万円)で競りにかけられた。

この3本の樽の内訳は、アードロスのバーボン樽第1号、シェリー樽第1号、日本産ミズナラ樽第1号である。落札価格は20万英ポンド(手数料込みで245,000英ポンド)。日本円で約3300万円(手数料込みで約4000万円)となった。アードロス蒸溜所の広報担当者は、これがアードロス蒸溜所の比類なきクラフツマンシップの水準を示すものだとコメント。現在の好調なウイスキー投資市場でアードロスブランドを成長させていく自信を見せた。

経験豊富な才能あるスタッフたちが、アードロスのチームに結集している。第一級の生産設備を駆使し、将来性が確約された原酒の樽詰めは今日も続いている。かつて同じ名を轟かせた競走馬のように、アードロス蒸溜所はいずれハイランド随一の勝ち馬としてウイスキーの世界を駆け回るようになるだろう。