世界中のオークションで、宝石や美術品のように取引されるウイスキーの限定品。その利用法や問題点をまとめた3回シリーズ。

文:ガヴィン・スミス

 

ウイスキーの世界的な人気拡大にあわせ、限定品の2次的な売買がビッグビジネスになってきた。ボナムス、クリスティーズ、サザビーズといった英国の老舗オークション会社は、ウイスキー専用のオークションを米国、香港、ドバイなどを含む世界各地で主催している。また数多くのウイスキー専用オークションハウスがオンライン上に誕生し、ここ十年ほどで驚くべき事業の拡大を見せている。

ウイスキーという領域を専門としていることから、各オークション会社ではビンテージウイスキーの知識をチーム内で凝縮させてきた。また開催予定のオークションをウイスキーコミュニティに通知して、ハンマープライスを高値へ誘導することにも成功している。

さらには、世界が注目する大規模なプライベートコレクションのオークションも開催されるようになった。リチャード・グッディングの「パーフェクト・コレクション」や、エマニュエル・ドロンの収集によるシルバノ・サマローリとコルティ・ブラザーズの希少品が好例である(どちらもパースシャーのウイスキーオークション会社に持ち込まれた)。

このようなオークションの実績が主要メディアでも報道されたことで、かつては特殊市場だと見られていたニッチな商品も、メインストリームの一部として扱われるケースが増えている。

2020年に英国で開催されたシングルモルトのウイスキーオークション市場だけをとっても、その売上額は5330万英ポンド(約80億円)にのぼる。さらに今年はその総額が6500万〜7000万英ポンド(約98億~105億円)にまで増加が見込まれているから驚きだ。

こんな時代にオークションでウイスキーを売買しようと考えているファンのため、現在のウイスキーオークション事情を3回シリーズで解説しよう。

 

おすすめと注意事項

 

まずは当たり前の警告から始めよう。コレクション向けのウイスキーを、バーでたまたま会った人物から買ってはならない。「最近亡くなった親戚が、100年もののシングルモルトをコレクションしていた」などという逸話に飛びつかないこと。ボトルを販売しているウェブサイトが素人っぽい場合や、ことさらに掘り出し物をうたっている場合は、関心を示さないほうがいい。うますぎる話には、必ず裏がある。

レアウイスキーズ101のアンディ・シンプソン(コンサルタント)とデービッド・ロバートソン(ブローカー)も、こんなアドバイスを提供してくれた。

「コレクター向けのウイスキーは、決して個人間取引のオンラインオークションから買わないこと。オークション会社が現物のボトルを精査することなく、売り手から買い手に直接販売できる形態は危険です。オークション会社の現物チェックは絶対に欠かせません。老舗でもオンラインでも、大半のオークション会社は偽造品に目を光らせています。新しいオークションも増えていますが、オークション会社は評判と実績で選びましょう」

ロンドンのウイスキー・ドット・オークションでオークションディレクターを務めるイザベル・グレアム・ユールも、同様の問題を指定している。

「信頼を大切にするオークションハウスや販売者なら、販売前に自社の責任でボトルを確かめるはずです。すべての競売品は、明瞭なボトル画像を掲載し、状態について簡潔なレポートを添えます。とにかくボトルがオークション会社の責任においてチェックされたという証拠が必要なのです」

イザベル・グレアム・ユールは、オンラインオークション「Whisky.Auction」のオークションディレクター。オークション会社は実績と透明性で選ぶべきだと主張する。

特に気をつけたいのは、利便性を謳った新しいオークション会社であるとイザベルは語る。

「過去に使ったことのない販売者やオークション会社と取引する場合には、これから売買しようとしているものに近いアイテムについて、その会社が公開している過去の売買実績を確認しましょう。いまあなたが興味のある種類のウイスキーについて、そのオークション会社がどれほどの専門知識を持ち合わせているのかが推察できます」

経験不足の購入希望者がよく混乱するのは、手数料(コミッション)の問題だ。ハンマープライスの他に諸経費が乗って、どれだけの総額が請求されるのかわからないからである。ウイスキーライター、独立系ボトラー、コンサルタントの肩書を持つアンガス・マクレイルドが説明する。

「購入者の支払う手数料(バイヤー・コミッション)は、ウイスキー専門のオンラインオークション(10〜15%)がお得です。ボナムスやマクティアといった老舗のオークションハウスは、25%を超えて法外に感じてしまうところも少なくありません。老舗はときどき意外な安値で落札されることもありますが、最近はそんなことも珍しくなりました」

イザベル・グレアム・ユールいわく、ウイスキー・ドット・オークションのウェブサイトでは、入札者がオークション終了後に支払う総額の見積り機能が付いている。すべての取引段階で、付加的な各種手数料を加えた最終的な総額がわかるのは便利だ(ただしサービス利用にはアカウント登録が必要)。

購入者は、配送や保管延長などの経費も必要に応じて支払わなければならない。いずれにしても、使用するオークション会社が、すべての費用をあらかじめ開示しているかどうか確認しよう。国境を超えた取引になるのなら、自国の輸入税などについて知っておく必要もあるだろう。

ウイスキーの購入ではなく、売却を目的としてオークションを利用する場合も、やはり手数料は考慮に入れておかなければならない。オークションハウスごとに過去の実績をチェックして、見返りが最も大きそうなオークションハウスはどこかよく考えてみよう。売りたいウイスキーと似たような銘柄を頻繁に取り扱っているオークションハウスなら、買い手にアプローチするのも長けていそうだ。自分の居住地になるべく近いオークションハウスを選べば、ウイスキーをデポジットしたりするのに便利だ。

近年はオークションハウスの競争が激しいことから、ウイスキーの売り手が払ってもいいと考えるのはせいぜい5%くらいが相場のようだ(掲載料や付加価値税などは別途)。ウイスキーライター、独立系ボトラー、コンサルタントの肩書を持つアンガス・マクレイルドは次のように説明している。

「最近、オークション会社の判断で操作できるのは、手数料の徴収や提供するサービスの水準など。価値の高いボトルや希少なボトルを持っている場合や、高品質のウイスキーのまとまったコレクションがある場合は、オークション会社に手数料を支払う理由もありません。最高値を記録するようなトップクラスのオークションハウスでも、手数料の取り扱いについては柔軟に対応してくれるようになっています」

英国がEUを脱退した影響で、欧州在住の売り手にとっては通関手数料や付加価値税の複雑さも加わった。英国の主要なウイスキーオークション会社は、欧州在住の人々のためにドイツで専用の事務所を開設している。ダンドークにあるアイリッシュ・ウイスキー・オークションズを創設し、現社長を務めるアンソニー・シーヒーが次のように述べている。

「ブレグジットの影響で、対英国のウイスキー輸出入に関する規制が強化されてきました。これは英国でも外国でも、すべてのオークションハウスが直面している共通の問題です。幸いなことに、私たちはこの問題に対処して、厄介なブレグジット問題に取り組む一連の手続きを確立できました。それでもやはり、英国とEUの間で取引する売り手と買い手は減っています。私たちはアイルランドの企業ですが、英国をはじめとする諸外国での知名度を重視して将来の事業を計画しています」

アンガス・マクレイルドは、ウイスキーを売りたい人にとって最善の場が、オンラインで運営される英国のウイスキー専門オークション各社であると結論づけている。

「オンラインで運営される英国のウイスキー専門オークション各社は、そのほとんどが優良企業であり、顧客に奉仕しながら高値での取引を成立させるための努力を真剣に重ねています。各社が売り手に提供するサービスは良質で、売買を成立させるための明確なアドバイスが望めます」
(つづく)