ウイスキーの風味は3分の2以上が樽由来? そんな常識も、そろそろ変わるかもしれない。モルト原料の最前線を探った3回シリーズ。

文:マルコム・トリッグス

 

スコットランドのモルトウイスキーで、原料として使用される穀物。それは大麦で決まりだ。法的にもモルトウイスキーを名乗れるのは大麦だけなのだが、そのように固定された理由は大きく2つある。ひとつは、大麦がスコットランドの自然環境で栽培しやすいこと。もうひとつは、酵素の含有量が多い大麦がモルティング(製麦)に向いているということだ。

他の穀物を製麦したモルトでも、大麦と同じくらいの甘みは得られるかもしれない。だがことスコットランドという地域に限れば、大麦が最善の選択なのである。

ここから疑問が湧いてくる。モルトウイスキーの原料として使用できるのは大麦モルトのみと規定されているが、使用可能な大麦モルトの種類までは定められていない。さまざまな実験の余地があるのに、なぜか既存のメーカーは既存の大麦モルトを使用するだけ。大麦モルトの多彩なバリエーションまでは開拓してこなかった。

これは、ある意味で驚くべきことである。なぜならウイスキーメーカーは各社は、さまざまな樽材を実験することでいつも自由な発想を表現してきたし、最近では酵母のバリエーションにも注目しているからだ。だからこそ、大麦についてそのような実験がなされてこなかったのは不思議に思える。だがそんな歴史も、そろそろ終わりつつあるようだ。

 

キルニングの変化で生まれるスペシャリティ・モルト

 

モルティング(製麦)とは、厳密な管理下で穀物を発芽させるための工程である。穀物の内部にあるデンプンが引き出しやすくして、デンプンを発酵性糖に変質させるのに必要な酵素も増加させる。キルニング(熱処理)は、十分な酵素を得られる状態になったモルトの発芽を止め、マッシング(糖化)の前にモルトを安定的に保存する工程である。

キルニングを施すことで、デンプンの糖化を効果的に休止できる。さらに重要なのは、このキルニングの技法によって、マッシュ(麦汁)の色やフレーバーを調整できることだ。

ウイスキーの製造工程は、途中までビールと同じ。原料の選択にこだわるクラフトビール業界に触発され、収率を犠牲にして原料、糖化、発酵を工夫するウイスキーメーカーが増えている。

だがキルニングに使用する熱は、デンプンを発酵可能な糖質に変質させる酵素を殺してしまい、モルトのいわゆる「糖化力」を低下させる恐れもある。このような理由から、スコッチウイスキーの大半は、十分な糖化力が期待できる働き者のベースモルトを使用する。

このベースモルトは、比較的低温でキルニングが施される。熱を加えすぎないことで酵素の結合や糖化力を維持し、結果として潜在的なアルコール収率を最大限に確保するためだ。ウイスキーメーカー(特に大手)が、伝統的にいわゆる「スペシャリティ・モルト」の世界であえて実験をしたがらない主な理由はここにある。

スペシャリティ・モルトとは、熱処理(キルニング)の時間を延ばしたり、ローストを加えたりして色やフレーバーに違いを出したモルト原料のこと。ビール醸造の世界では、風味に変化をつけるためにベースモルトとよく併用するタイプである。このような特別処置を施したモルトは「ルビー」「ブラウン」「ブラック」などの印象的な名称で呼ばれている。色彩やフレーバーは個性的だが、十分な糖化力は持ち合わせていないのが特徴だ。

しかしなかには、収率よりもフレーバーが重要だと考える人もいる。クリスプモルト社のスコットランド担当営業部長を務めるコリン・ジョンストンは、最近ある現象に気づいた。コリンによると、クラフトウイスキーの蒸溜所各社がスペシャリティ・モルトを秘密のソースのように使っているというのだ。

すでにスペシャリティ・モルトの潜在力を商品で表現している大企業も何社かある。なかでも有名なのは、原料の一部に「チョコレートモルト」を使用して世界中で称賛されたグレンモーレンジィの「シグネット」だ。
(つづく)