英国の飲料業界は、自由な米国のクラフト精神に学んでいる。ビールから始まった革新が、新しいウイスキーに結実する日は近い。

文:マルコム・トリッグス

 

米国と英国のクラフトドリンクを見ると、その伝統には潮の満ち干にも似た相互作用がある。何世紀にもわたる英国のビール醸造の歴史を基盤にしながら、アメリカでは素晴らしいクラフトビールが造られるようになった。その出来栄えに驚いた英国のメーカーは、自分たちが造ってきたビールにもまだ変革できる余地がたくさんあることに気付かされた。

そして今度はウイスキーだ。アメリカで次々に生まれたクラフト蒸溜所は、英国のウイスキーづくりの伝統を参考にしながら、バーボンやライウイスキーだけではない新しいウイスキーの可能性を鮮やかに提示している。

そのような蒸溜家の一人が、ジェイソン・パーカーだ。長年にわたって手づくりに近いビール醸造、製麦、蒸溜を提唱してきた人物である。クラフトビール業界で1989年から働き始め、化学と微生物学の学位も取得。その経験と知識を駆使して、シアトルのコッパーワークス・ディスティリング社の共同創設者兼会長として新しいウイスキーづくりに着手している。

成功したビール醸造家であるジェイソンは、発酵こそがビールのフレーバーを高める唯一の最重要事項であると考えている。その一方で、伝統的なスピリッツメーカーは、たいてい高品質なビール醸造とは必ずしもいえない技術でウォッシュ(ビア、もろみ)を造っている。つまり発酵の温度は高めでスピードを重視し、ウォッシュを煮沸したり品質を調整したりしない。

コッパーワークスが造るウォッシュは、熟成感があって高品質なビール(ホップなし)に似ている。このウォッシュには、未発酵のまま残存した糖が高濃度でに含まれている。この糖は、蒸溜を経てもフレーバーとテクスチャーの双方を保持させてくれる性質のものだ。良いビールは、良いウイスキーの土台になるのか。ジェイソンは、この疑問に答えを出そうと努力を続けてきたのだと振り返る。

「それが、いちばん興味深い問題でしたから。そして、答えはほとんどいつもイエスです。良質な酵母を使って丁寧に発酵させれば、ウイスキーの品質も上がります」

コッパーワークスは、独自のウォッシュを用意することに細かなこだわりを持って臨んでいる。だがジェイソンによると、ここからどんな新しい成果が生まれてくるのかはまだ未知数の部分が大きいのだという。

「モルトのフレーバーが、そのまま蒸溜後のフレーバーになるという訳でもありませんから。スチルでの蒸溜や木樽での熟成を経て、最終的に得られる成果とのバランスがフレーバーを決定します。モルトを変えただけで十分ということはありません。発酵の状態、酵母株の選択、スチルの形状と加熱の仕方、蒸溜時のカット、樽入れ時の度数、樽材、貯蔵庫の環境など、すべてが組み合わさってフレーバーを作り上げるのですから」

これは間違いなく、ビッグデータで解析するのに相応しい問題なのかもしれない。だがジェイソンは、コンピューターで解決できることだと考えている訳でもない。

「解決の糸口は、いつも人々の実験にあります。素晴らしい味わいの商品として世に出るウイスキーは、それに先立つビール醸造の実験に基づいているのです。ウォッシュが実験の基軸でなければならない理由は、ウイスキーのフレーバーが穀物を発酵させることで引き出されたものであるから。そこには正しい酵母の選択と発酵の環境が必要なのです。どんなケースであってもはっきりしているのは、まず諦めなければならないのがいつも収率であるということです」

 

熟成に頼りすぎないスピリッツの個性

 

ウイスキーの伝統(少なくともマーケティングにおける伝統)によると、ウイスキーのフレーバーの3分の2は木樽から授けられるということらしい。だがクラフトウイスキーとクラフトビールが世界中で台頭することで、そのような既存の常識をさまざまな形で疑う機会が増している。

アバディーンシャーのバーンオベニー蒸溜所は、ライウイスキーを含む多彩なモルト原料から独創的なウイスキーをつくる。原料を供給するのはクリスプモルト社(メイン写真)だ。

バーンオベニーは、スピリッツで蒸溜所のハウススタイルを表現しながら、熟成樽の影響とバランスをとることに苦心している。その方針としては、最初に必要なフレーバーを加えておくことで、樽材の責任をなるべく減らそうという考え方だ。

メーカーがこのような信念を掲げる一方で、ウイスキーファンの知識や情熱もウイスキー業界が伝えようとしてきた既存の定説を凌駕するようになっている。ホリールード蒸溜所は熱心なフォロワーたちに呼びかけ、一緒にウイスキーの新しい可能性を探るプロジェクトに乗り出している。そしてクリスプモルト社のコリン・ジョンストンも、クラフトディスティラーとの協働が双方に市場シェア増大という利益をもたらすチャンスだと信じている。

クラフトウイスキーメーカー各社がウイスキー業界の未来をすぐに大きく変えられるかといえば、そんなに簡単な話でもないという人はいるだろう。だが米国のクラフトビールが起こした業界の変化が、クラフトウイスキーの世界でも起ころうとしている歴史の現実を無視することも難しい。

最新のビール醸造の慣行をウイスキーづくりにも取り入れることで、生産地の個性が表現されたフレーバーを表現しようというムーブメントを先導できる。それがジェイソン・パーカーの信念だ。そのような個性が表現されれば、きっと生産地での消費も促すことができるようになるのだ。

「同じ町に2軒のビール醸造所があっても、原料の調達や生産工程で違いを出すことはできます。すると消費者は、まず何よりも味わいからビールを識別するようになるでしょう。私たちは、それと同じことをウイスキーでやろうとしている矢先なのです。これからのウイスキーは、かつてないほど多様性が豊かになっていくことでしょう。とても楽しみです」