スピリチュアルな理想主義に則った穀物栽培。バイオダイナミックなウイスキーは、エコ路線の先端を走るスピリッツメーカーたちに注目されている。

文:ポール・アーチボルド、フェリーペ・シュリーバーク

英国エイブベリー近郊のウィルトシャー・ダウンズで自分の農場「イェーツベリー・ハウス・ファーム」を営むリチャード・ガントレット博士は、ブルックラディにバイオダイナミック大麦を提供している。現地生産にこだわるブルックラディにとって、ここは唯一のスコットランド以外の原料調達先だ。

博士はバイオダイナミックの肥料調合などを高く評価している。土壌の生物多様性、炭素隔離、作物の健康増進の観点から、バイオダイナミック農法の実用化が生み出す利益に焦点を当てた科学者だ。バイオダイナミック農法が土壌の健全性、雑草対策、作物生産に与える影響について論文を発表し、レディング大学農学部の博士課程を修了している。

バイオダイナミック農法を取り入れた農家のアラン・ムーニー。土壌の改善を実感した農家は、そこに科学的な根拠があると信じている。

地中に埋めて肥料化された牛糞(通称「500P」)を回収しながら、ガントレット博士は「今まで見たなかで、これ以上ないほど完璧な最高の土」とその出来栄えを表現している。この溶液を畑に散布することで、「牛に備わっている土壌肥沃度向上力を広める」ことに役立てているのだ。こうやって独立した循環型の生態系を開発し、大麦を栽培した成果を誇りに思っている。

トレバー・ハリスは、ウォーターフォードが契約する5人のバイオダイナミック大麦生産者の1人だ。有機農業を1999年から営んできたが、バイオダイナミック農法の結果にも感激している。

「一般的な有機農家だった頃は、土がうまくまとまっておらず、土地を肥やすには他の栄養素が必要だとわかりました。でもバイオダイナミック農法を採用したことによって、私の土壌はまるで命を宿したかのように元気になり、すぐにその違いを実感できました。土壌の活性化に必要なマクロ栄養素と微量栄養素が手に入ったのです。今ではバイオダイナミック農法こそ最も持続可能な農業の形だと考えるようになりました」

バイオダイナミック・ウイスキーは、ウォーターフォードとブルックラディで小規模に生産されている。ウォーターフォードでは毎年樽200本樽ほどの生産量だが、今後はその数を増やしていく予定だ。だがコミュニケーション部門の責任者であるマーク・ニュートンによれば、問題は原料の供給量であるという。

「アイルランドで栽培されたバイオダイナミック大麦のすべてを私たちが使用しています。なぜならウォーターフォード以外にバイオダイナミック大麦の栽培を依頼する業者がいないから。そのためまだまだ多くの生産者にバイオダイナミック大麦への切り替えを説得する必要があり、その点が大きな課題になっているのです」
 

テイスティングで証明された高品質

 

ブルックラディでの初期の試みは、環境面はもちろん生産面でも実り多いものだったという。ブルックラディのヘッドディスティラー、アダム・ハネットは次のように語ってくれた。

「大麦を製麦業者に送ったら、その製麦所で働く人たちがたくさん連絡をくれたんです。『こんな品質の大麦は見たことがない、このモルトからつくったスピリッツの収量は素晴らしいものになるよ。モルティング業者の目から見ても、夢のような大麦だ。蒸溜所でスピリッツが出来上がったら、その成果を教えてくれないか』ってね」

バイオダイナミック・ウイスキーの生産を進めるウォーターフォード蒸溜所(メイン写真も)。環境にやさしいだけでなく、収率や香味の改善も実感している。

そして最も重要なこと。それはウイスキーが美味しいという事実だ。マーク・ニュートンいわく、ウォーターフォードの社内ブラインドテイスティングを実施したところ、バイオダイナミック大麦からつくったスピリッツの評価が明らかに高かった。「フルーティー」および「モルティ」の香味指標で、常に最高得点を獲得したのだという。

「バイオダイナミック大麦は、オーガニック大麦よりも濃厚な風味をもたらします。それは私たちが求めていることであり、ワインの世界でも実証されていることです」

事実、UCLAの研究によると、第三者機関によって公式にバイオダイナミック認証されたワインは、専門家のブラインドレビューおよびセミブラインドレビューにおいて、従来型生産のワインより平均11.8%も高いスコアを出す傾向がある。またバイオダイナミックワインは、従来の有機認証ワインより高いスコアを出すことが証明されている。

ブルックラディがリリースした「バイオダイナミック・プロジェクト」は、キャラメル、クリーム、コーヒー、チョコレートの香りが印象的だ。蒸溜所チームも「バイオダイナミック大麦が、スピリッツに優れたフレーバーを付与する役割を果たした」と賞賛している。このようなウイスキーの成功は、両蒸溜所に新しい課題を与えている。それはバイオダイナミック農法と相性のいい大麦品種の特定だ。

ウォーターフォード社では、他の伝統的な大麦品種と新しい品種を交配させたいと考えている。ウォーターフォードとブルックラディは、大麦の風味への影響だけでなく、原料調達先のサプライチェーンに対する働きかけを重視し始めている。これはウイスキー業界にとって自然な流れであるといえよう。バイオダイナミックは、世界全体で進んでいる大きな流れの一部である。作物の品質よりも収穫量にこだわる風潮に、根本から疑問を投げかけているのだ。

バイオダイナミックが注目するのは、大麦や土壌の健康状態だ。怪しげな起源や風変わりな方法にもかかわらず、現代で再び評価が高まってきた。この流れによって、最終的にはより環境にやさしいウイスキーづくりが主流となることを期待したい。そしてもちろん、スピリッツの味わいが進化してくれることも。