ブレンデッドウイスキーは、シングルモルトよりも下位のカテゴリーなのか。もちろん、そんなことは決してない。変わりゆくブレンデッドウイスキーの世界を解説する2回シリーズ。

文:ジャスティン・ヘーゼルハースト

 

「シングルモルトウイスキーしか飲まないんだ。そう公言して憚らない人に会うたび、なんだか笑い出したい気分になっちゃうんですよ。いつの間にか、まるでブレンデッドウイスキーが劣った存在であるかのような話ができあがっているのには困惑します」

そう話すのは、グランツのグローバルブランドアンバサダーを務めるダニエル・ダイアーだ。

ブレンデッドスコッチウイスキーは、スコッチウイスキー業界の屋台骨を支える存在だ。スコッチウイスキーの全売上のうち、ブレンデッドウイスキーは今でも約90%を占める。

だがその一方で、シングルモルトウイスキーの人気も急騰してきた。ここ数十年の間、流通量はまだブレンデッドウイスキーがはるかにリードしているものの、価格ベースでは大きな成長を見せている。

それが意図されたものであるのか、偶然の産物なのかはわからない。それでも各社のマーケティングチームは、世界中のウイスキー消費者にある種の価値観を植え付けることに成功してきた。つまりシングルモルトウイスキーが、ブレンデッドウイスキーよりも上等な製品であるというイメージだ。

その結果として、新しい認識のズレも顕在化している。かつての業界では、ブレンデッドウイスキーがオーケストラに例えられ、シングルモルトウイスキーがソロイストに例えられていたものだ。だが一部のウイスキー消費者には、シングルモルトがコンサートマスターで、ブレンデッドウイスキーが第2バイオリンのような存在だと考えている人もいる。ブレンデッドウイスキーが、依然としてスコッチウイスキー業界の根幹であるという事実にも関わらずだ。

 

ブレンデッドがビギナー向けという時代は終わった

 

それでもここ数年は、英国内の消費者にも思考の転換が見られている。今やスーパーマーケットの棚にはたくさんのシングルモルトウイスキーが並ぶようになり、ブレンデッドウイスキーで初めてスコッチウイスキーを体験するという旧来の図式が崩れてきたのだ。

何気なく手にとった初めてのウイスキーがアベラワー12年である可能性は、それがデュワーズ・ホワイトラベルである可能性と変わらない。それどころか、シングルモルトをきっかけにスコッチウイスキーと出会うほうが自然な場合もある。

このような変化によって、シングルモルトでウイスキーのファンになった消費者が、手頃な価格で目新しいウイスキーを求めるとき、それまで見過ごしてきたブレンデッドウイスキーの世界が手招きをして待っている場合もあるのだ。

ウィリアム・グラント&サンズのグローバルブランドアンバサダーを務めるダニエル・ダイアー。ブレンデッドウイスキーの世界には、シングルモルトに決して劣らない豊かな可能性があると信じている。

同時に、まったく別のトレンドも発生している。それは古いウイスキーへのノスタルジアを反映したオールドボトル市場のブームだ。バランタイン、ベルズ、ブキャナンズなどのオールドボトルは価格も妥当で、シングルモルトウイスキー至上主義のウイスキーファンさえ誘惑されることがある。現在販売されている同ブランドの商品と飲み比べることで、違いを比較することに興味津々だからだ。

そんなブームに乗っているブランドのひとつがブラックボトルである。瓶内熟成の効果によって、古いウイスキーの味わいが好ましく変化することが話題になっている。だが他のブランドは、残念ながらまだブラックボトルほどの注目を集めていない。

ブレンデッドウイスキーのメーカーは、ブランドが目指すフレーバーにあったモルトウイスキーの原酒を各蒸溜所から調達する。シングルモルトの価値が高まるに従って、特に熟成年が増えるほどモルト原酒の価格も上がってきた。また熟成年が長いシングルグレーンウイスキーの人気が高まったことで価格も上昇し、現在のブレンデッドウイスキーの中味も変化を余儀なくされている。

これらはすべて市場のトレンドに対応するための変化である。モルトとグレーンの比率が変わり、生産手法の変化に応じて原料も変わってくる。全体で見れば、原酒の熟成年は短くなっているようだ。ハイランドクイーンのような銘柄を例にとっても、ブランドを保有する親会社が変わることで、以前とはまったく異なる蒸溜所の原酒で中味が構成されることになる。

このような変化を総合すると、近年のブレンデッドスコッチウイスキーの品質は後退する傾向にある といえるのだろうか。確かにそういうブランドもあるだろう。だがすべてのブレンデッドウイスキーが徐々に品質を落としている訳でもないし、性急な断定は避けるべきだ。

「ブレンデッドウイスキーはもっとも飲みやすいウイスキーだけど、もっともつくるのが大変なウイスキーでもあるんだよ」

ダニエル・ダイアーがそう語る。この原則は、今でもまったく変わっていない。
(つづく)