アイラ島におけるジョニー・ウォーカーの故郷。それがリニューアルされたカリラ蒸溜所の新しいキャッチフレーズだ。聖地の巨人を訪ねる2回シリーズ。

文:ガヴィン・スミス

 

カリラ蒸溜所は、アイラ島の最北東部にある。急峻な崖とアイラ湾に挟まれ、やや入り組んだ海岸線が特徴だ。なぜこんな人里離れた海岸場所に蒸溜所が建てられたのか、不思議に思ったら海上から蒸溜所を眺めてみるがいい。一見不便なこの場所が、蒸溜所の所在地として合理的である理由がよくわかるだろう。

アイラ島の蒸溜所らしく、海路へのアクセスを重視した立地にある。アイラ海峡の向こうに、隣のジュラ島が大きく迫る雄大な景色。

アイラ島にある他の蒸溜所と同様に、カリラも海路で運ばれる物資を直接供給しやすいように設計されている。ブリテン島本土とアイラ島を結ぶ海路は、昔から人と物が行き交うハイウェイだった。ここは水源のロッホ・ナム・バン湖にも近く、石灰岩で濾過された良質な湧水がふんだんに得られる。この水は、カリラの語源でもあるアイラ海峡にそのまま注いでいる。

カリラ蒸溜所は、フェリーが発着するアスケイグ港にも近い。ウイスキーの蒸溜所として、19世紀前半に創業された歴史的な生産拠点だ。だが最近の改修によって、カリラは新しいブランドイメージを打ち出すようにもなった。それはジョニーウォーカーのブレンドに欠かせないキーモルトという横顔である。ディアジオが「スコットランドの4つのコーナー」と称える4軒の蒸溜所は、それぞれが大規模な改修プロジェクトで生産設備とビジターセンターの整備に力を入れてきた。3軒の姉妹蒸溜所に続き、このプロジェクトを締めくくったのがアイラ島のカリラ蒸溜所だった。

その3軒の姉妹蒸溜所とは、グレンキンチー、カードゥ、クライヌリッシュのこと。今やカリラは「アイラ島におけるジョニーウォーカーの故郷」として生まれ変わっている。またエディンバラでは、注目のアトラクション「ジョニーウォーカー・プリンセスストリート」も設立され、系列のグレンオード蒸溜所とタリスカー蒸溜所でも大幅な設備投資がおこなわれた。ジョニーウォーカーを支える各地の蒸溜所やビジター用施設への投資は、総額で約1億8,500万英ポンド(約310億円)にのぼる。

このように大掛かりなディアジオの再ブランディングを支えるため、カリラは2019年から2022年8月まで一般公開を休止していた。再開後の現在は、メインの建物を見下ろす丘の上にできた新しい駐車場から訪問客を迎え入れている。一派客はまず新しい歩道橋を通って、古い蒸溜所の貯蔵庫を改装したビジターセンターに入る。
 

リニューアルした蒸溜所でツアーに参加

 
ここからアイラ海峡ごしに見えるジュラ島の山々(パプス・オブ・ジュラ)は壮観だ。この景色があまりにも素晴らしいので、前任の蒸溜所長はわざわざ自分のデスクを窓から離して壁側に移動したのだという。窓の外の景色ばかり眺めてしまうため、仕事がさっぱり捗らなくなってしまったらしい。

広々としたショップとバーのエリアは、スマートで落ち着いた雰囲気である。施設の内装や調度品は、伝統と現代が見事に調和したデザインだ。ジョニーウォーカーが「4つの故郷」に指定した他の3軒の蒸溜所と同様のコンセプトでまとめられている。カリラとジョニーウォーカーのブランドグッズが多数販売されているほか、関連するウイスキーも幅広く取り揃えている。バーでつまめる軽食も購入可能だ。

世界的なブレンデッドウイスキーの原酒として重用され、アイラ島で最大の蒸溜所となったカリラ蒸溜所。大型スチルの愛称は「ジェントル・ジャイアント(やさしき巨人)」だ。

ビジター体験の目玉は「フレーバー・ジャーニー」である。ガイドによると「嗅覚をフルに使った蒸溜所ツアー」なのだという。参加者は、スモーク、焦がし砂糖(クリームブリュレ)、塩水(海藻)、海洋性のスパイス(穏やかなクローブ)などを香りで識別できるようになるため、4つの容器から溢れ出すアロマに晒される。

この4つのアロマは、実際にカリラのフレーバーを構成する主要な4種類の香味要素だ。さらにいえば、「ジョニーウォーカー ブラックラベル」と「ジョニーウォーカー ダブルブラック」にピート香の特徴を授けている重要な原酒の特徴だ。蒸溜所長のサム・ヘイルは、次のように述べている。

「カリラはジョニーウォーカーのファミリーにとって不可欠な存在。スモーク香を効かせて、他のウイスキーの香味をうまく引き立ててくれる役割です」

没入感のあるストーリールームでは、カリラの歴史がジョニーウォーカーの歴史と絡み合うようにして語られている。他の姉妹蒸溜所3軒が併設するビジターセンターと同じ路線だ。カリラは1897年に初めてジョニーウォーカーの原酒として使用されて以来、この世界的なブレンデッドウイスキーと不可分の関係にあるのだ。

資料用のさまざまな画像は、蒸溜所の歴史をいきいきと描き出してくれる。アイラ島におけるウイスキーづくりの起源は、アイラ島領主の医師を代々世襲で務めていたビートン家の物語から始まった。ビートン家は、13世紀にウイスキー蒸溜の技術を携えてアイラ島に上陸したとされる一族だ。
(つづく)