四半世紀以上にわたって上質なスピリッツをボトリングしてきたフランスのワイン商。ドゥニ・シャルパンティエが手掛ける最新のスコッチウイスキーは、パリジャンらしいこだわりに溢れている。

文:クリストファー・コーツ

 

日本にゆかりの深いワイン商として出発し、高品質なシャンパンやコニャックなどで知られるようになったドゥニ・シャルパンティエ。父の影響でスコッチウイスキーにも傾倒し、リチャード・パターソンのアドバイスを得ながら1990年代後半に独自のブレンデッドウイスキーをつくり始めた。

「ウイスキーは繊細で、優雅で、滑らかでなければなりません。そして重要なのは、ウイスキー本来の味がすること。樽香にスピリッツが圧倒されているのはいただけません。個人的に、現代のウイスキーの多くは、樽熟成の影響が強すぎると感じています。大切なのはスピリッツ本来の特性が味わえること。フィニッシュが強すぎるものは、もはや本物のスコッチウイスキーとは呼べないのではないかと考えています」

このように確固たる信念を心に抱きながら、ドゥニはさまざまな熟成年と熟成樽で貯蔵原酒のブレンドを実験した。自身初となるブレンデッドウイスキーの開発に18ヶ月以上を過ごしたという。その間に、ゆっくりと頭に浮かんできたのがダイヤモンド型デキャンタのイメージだった。

「ダイヤモンド型のデキャンタをデザインしながら、この新しいスコッチウイスキーのシリーズ名は『エタニティ』にしようと考えるようになりました。これはダイヤモンドが永遠の輝きと称賛されることにも関連しています」

最初のダイヤモンド型デキャンタには、21年熟成のブレンデッドウイスキーが瓶詰めされた。それに次いで、5年熟成のブレンデッドスコッチウイスキー「エタニティD」も1997年に発売。この年には自作のウイスキーで初めてのIWSCトロフィーを獲得した。今は亡き偉大なウイスキー評論家のマイケル・ジャクソンは、「エタニティD」について「フレーバーが美しいまでに統合されており、磨かれたオーク材やナッツを感じさせる見事なまでの深みがある」と評している。

「IWSCでベストブレンデッドスコッチウイスキーを受賞したのが、わずか5年熟成のウイスキーであるというのが画期的なことだと思っていました」

ドゥニが言う通り、この受賞は誇るべき快挙であったといえるだろう。その次に発売されたのが「エタニティ 16年」で、これもまた1998年のIWSCでベストブレンデッドスコッチウイスキーのトロフィーを獲得している。この年はドゥニの息子であるドゥニ2世(ジュニア)が生まれた年でもある。そして2000のIWSCでは「エタニティ 21年」がベストブレンデッドスコッチウイスキーを受賞してハットトリックを達成。なお同年には娘のマミカも生まれている。

このような成功を手にした秘訣は、辛抱強さと細部への徹底したこだわりである。ドゥニ・シャルパンティエは、自分のスピリッツづくりのアプローチが困難を伴うもので、なおかつ長大な時間を要することを承知の上だった。

「入手できる最上のスピリッツを使わなければなりません。ブレンドの試作品は何度でもテイスティングします。ウイスキーを飲む前にいろいろな料理を食べて感覚の変化を理解したり、食中に料理とあわせてみたり。加える水の量も少しずつ変えて、ノージングを繰り返します。これを3〜4週間おきに何度もやるのです。この間に浮かんだ新しいアイデアを試して、またブレンドを組み立て直すのが私のやり方です」

 

ブレンデッドとシングルモルトが混在したラインナップ

 

そして今年、ドゥニは4種類のスコッチウイスキーからなる新しいラインナップをスタートさせる。まずはブレンデッドウイスキーの「ロイヤルリザーブ」。そしてオロロソシェリー樽でフィニッシュしたブレンデッドウイスキー「エタニティ ダイヤモンドリザーブ」(NAS)。さらにはシングルモルトの「エタニティ プリンスリザーブ アメリカンオークマチュアード」(NAS)。 最後に12年熟成のシングルモルト「エメラルドリザーブ」だ。

「息子のドゥニ2世や、才能あふれるチームのメンバーが開発したアメリカンオーク熟成のシングルモルトが目玉です。このラインナップよりもスムーズなスコッチウイスキーを探し出すのは難しいと思いますよ」

妻の美加と2人の子供たちに囲まれてくつろぐドゥニ・シャルパンティエ。2020年発売のウイスキーやジンは、父子の共同作業によってつくりあげている。

そう説明するドゥニは、息子と一緒に開発したスピリッツの出来栄えに満足気だ。ドゥニ2世が事業に参画したのを機に、会社も初めてブラウンスピリッツの世界を抜け出す冒険を開始した。新しいフレンチジン「バロンD」を発売したのだ。

「ボンベイサファイアやタンカレーのようなジンはもともと好きです。どちらも極めて繊細につくられていますよね。年を重ねることで、青春時代に楽しんだ魅力的なジンを自分でもつくってみようと思い始めたのです」

父親のドゥニがそう説明する。新しいジン「バロンD」は、父子が共同で開発した最初の商品だ。このコラボレーションは、今では他の商品分野でもおこなわれている。息子のドゥニ2世が口を開く。

「若者が飲みやすい極めてスムーズなジンをつくろうと考えました。ヒントにしたのは、ヘンドリックスなどの革新的なクラフトジンです。バロンDには、カシス、ライム、洋ナシ、柚子などのボタニカルが調合されています。柚子を選んだのは、母の祖国である日本の文化に敬意を表したかったから」

2020年初等に発売された「バロンD」は、すでにIWSCでブロンズを受賞して、ワールド・ジン・アワード2020で「ベスト・フレンチ・クラシック・ジン」の栄誉にも輝いている。ドゥニ2世はまだ21歳だが、スピリッツづくりへの情熱と鋭敏な嗅覚は父譲りであるらしい。

社名もメゾン・ドゥニ&ドゥニ・II・シャルパンティエに変更し, 新しいコニャックのシリーズも発売する。父子の協働と若きドゥニ2世の活躍で、さらなる新商品を開発中だという。ドゥニ・シャルパンティエのコニャック、スコッチウイスキー、フレンチジンは、新しいラインナップで2020年夏より日本、英国、欧州で発売予定。シャルパンティエの名は、引き続きスピリッツの世界を賑わしてくれそうだ。