伝統への追随に背を向け、21世紀の潮流を先取りするイングリッシュウイスキー。サーカムスタンス蒸溜所は、完全に新しいスピリッツの歴史を切り開こうとしている。

文:ヤーコポ・マッツェオ

 

サーカムスタンス蒸溜所では、ウイスキーのほかに個性的なグレーンスピリッツを駆使した「サーカムスタンシャル」シリーズも製造している。このシリーズは、独自の斬新な製法と複数の熟成工程を組み合わせ、最終的にユニークな風味を生み出したシリーズだ。

もう一人の共同創設者、リアム・ハートの実験エリアは樽熟成が中心。オーク材以外の木材も使用して新しい香味を創造している。

サーカムスタンスの共同創設者であるリアム・ハートが説明する。

「熟成に使用する樽は、ほとんどが穏やかなファーストフィルのバーボン樽。樽材の香りがゆっくりと浸透するので、ニューメイクスピリッツのフレーバーとうまく調和してくれます」

サーカムスタンス蒸溜所の仕事は、大半がこのような方針で進められるのだとハートは語る。

「でも他の種類の木材で熟成させたグレーンスピリットやウイスキーも実験してみたいので、蒸溜所には少しずつ変わり種の樽も入れています。アンデスオーク、シェリー(オロロソなど)、マデイラ、ソーテルヌ、ラム、栗材などもありますよ」

創設者であるリアム・ハートとダニー・ウォーカーは、スピリッツづくりを壮大な実験になぞらえている。そんな哲学を刺激する樽の種類も増え、蒸溜所の樽コーナーはますます賑やかになってきた。

熟成樽の種類について、ウォーカーは次のように説明してくれた。

「数が一番多いのはバーボン樽で、次がヨーロピアンオークの新樽です。初期に発売されるウイスキーの多くは、これらの樽の影響を強く受けており、1〜2種類の原酒をブレンドした商品がリリースされる予定です。その後は、シングルカスク商品をいくつか発売し、特別な樽熟成をフィーチャーしたリリースも検討しています。特別な樽といっても後熟に使うのではなく、ほとんどがフルタイムの熟成となる予定です」

ライ麦原料のウイスキーは発売済み。すべての商品が実験精神の成果である。

現在、スチルのすぐ向かいにある樽コーナーでは、大きさも形もさまざまな樽がたくさん並んでいる。色とりどりに飾られた樽もあり、蒸溜所内でも特に楽しげな撮影スポットだ。

大麦、小麦、ライ麦を原料としたスピリッツを入れた樽には、それぞれ青、黄、赤のラベルが貼られて中の液体が識別できる(メイン写真)。ハートいわく、これらの樽に入れられたサーカムスタンスのグレーンスピリッツやウィスキーは酒齢4カ月から4年以上とさまざまである。

「チェリー、ヒッコリー、イングリッシュオーク、バーチなど、普通の樽工房では入手できない木材も使用しています。もちろん、すべてをウイスキーとしてリリースするわけではなく、通例の方法から外れた熟成を施したスピリッツがどんな香味を獲得するのか確認したいだけです」

特定の木材の影響を確かめるため、一部のスピリッツには木製のスピンドル(回転軸)も使われているのだとハートが説明する。

「まずニューメイクスピリッツとスピンドルをプラスチックのドラム缶に短時間移します。不活性な環境を用意することで、木材が液体に与える香りの影響を注意深く観察できるのです。その後、酸素の供給を促すために樽に移し、時間をかけて熟成させます」
 

樽も原料も酵母も実験の対象

 
チームにとって、「サーカムスタンシャル」シリーズはフレーバーの実験を続けるための口実だ。新しいアイデアを開発し、最終的に革新的なウイスキープロジェクトとして樽に注ぎ込むのが目的なのである。

最新作は、ダークモルトとスモークモルト(ただしノンピート)を含む7種類のマッシュをブレンドし、スピンドルを使ってイングランド産オーク材で風味づけしたもの。蒸溜所で最も古い原酒(4年以上前のもの)が含まれており、フレッシュさを表現するためにニューメイクスピリッツも加えられている。またオーツ麦と大麦を5対1の割合で使用したニューメイク(クリーミーでチョコレートのような風味)もいずれ登場するという。

「現在、私たちの発酵の10回に1回は実験的なものです」

起業家精神を体現したようなサーカムスタンス蒸溜所のチーム。厳しい規制に縛られないイングリッシュウイスキーから、21世紀の新しいメインストリームが生まれても不思議ではない。

ハートいわく、3つのコアレシピにこだわるつもりはない。穀物や酵母を理解するため、さまざまなレシピを試みている。

これまでの実験では、風味豊かなイギリスの春大麦の代表品種であるゴールデンプロミス、イギリスを代表するエールモルトであるマリスオッター、プルマージュアーチャーモルト、そして米も原料に使用した。

最近では、発酵工程でラガーイーストの使用も試みている。一般的にビール工場では10℃前後に管理された状態で使用される酵母だが、サーカムスタンスでは常温で発酵させる。理由は「ストレスを与えたときにどんな風味が出るか」を確かめるため。そんなプロセスから生まれた原酒も、現在はじっと樽の中で審判の時を待っている。

ビール酵母への熱い思いもまた、チームがビール造りから学んだ重要な遺産のひとつなのだとハートは語る。

「今はやや一般的になってきましたが、当時はウイスキーに変わり種の酵母を使う人はそんなにいませんでした。でもビール醸造家にとっては、何世紀にもわたって酵母が試行錯誤の中心にありました。独自の風味を生み出す上で、非常に重要なものだったのです」

今後半年間で、サーカムスタンスからは2種類のウイスキーが発売される。しばらくはニューワールドウイスキーの愛好家を飽きさせないだけのネタが仕込み済みだ。しかしそれだけではなく、新しいプロジェクトもすでに進行しているのだとウォーカーは明かす。

「第3弾以降のリリースについて、ちょうど話し合っているところです。その内容はもう決まっていて、とても楽しみにしています。私たちは常に新しいアイデアを持ちより、何年も先のことを考えながら仕事をしています。下の階に行けば、少なくとも3年半以上は日の目を見ないウイスキーがたくさん熟成中ですよ」