札幌&小樽 Drinker’s Guide

October 23, 2012

フレンドリーな大らかさの影に、品質を見抜く眼力がある。お酒の値段は、品質に対してお手頃だ。さまざまなタイプの良質なバーが、長い夜を楽しく彩る。札幌と小樽で選りすぐりのバー6軒と、酒屋1軒をご紹介しよう。

ザ・ニッカバー

当然のごとく、札幌ではニッカのロゴがよく目に止まる。メーカーの名を冠した当店があるのは、大通りのショッピングエリアからすすきのに入る境界の交差点。広い空間を確保した、モダンな準ラウンジ風のバーだ。一辺を占める低いバーカウンターと、ラウンジ席、プライベートルーム(予約可)。空瓶で作ったシャンデリアが、気の利いた内装に花を添えている。
このバーがオープンしたのは30年前だが、より若い層へアピールするために改修を経て現在のスタイルとなった。穐田光秀副店長によると、冬季には観光客がよく訪れるものの、客層は地元の人々が中心。30歳から50歳までの男性が多いそうである。最近は新しいターゲットである若年層も増えてきた。
シングルカスクなど、コア層に向けたニッカのウイスキーを扱っている。スコッチウイスキーのバリエーションは、アサヒビールが輸入する銘柄によって構成されている。
「札幌は東京とあらゆる面で違います。あちらでは皆さんはお金をたくさん使われるようですが、ここではみな慎重。東京に比べると、ドリンクの値段は驚くほど安いと思います。銀座みたいな価格設定でカクテルを出しても、札幌では通用しませんから」

ザ・ニッカバー
住所:札幌市中央区南4条西3丁目 第3グリーンビル2F
電話:011-518-3344
営業時間:18:00〜27:00(日祝18:00〜25:00)
定休日:無休

 

 

BARやまざき

札幌で、いや日本で最も著名なバーテンダーのひとりである山崎達郎さんは、この小振りなオールドスタイルのラウンジバーを53年間に渡って経営してきた。分厚いカーペット。フロック加工の壁紙。ダークウッドの小振りなボックス席。バーとはこういうものだという、古い伝承を思い出させてくれる場所である。この半世紀を振り返り、山崎さんはしみじみと語る。

「大きな変化といえば、女性客の数ですね。昔は女性なんてほとんど来ませんでした。開店した頃は男性のグループが芸者さんを伴って来るぐらいでしたが、今では女性の皆さんがご自分でいらっしゃいます」
そのような女性客に、どんな飲み物を薦めるのだろう。老マスターは即座に答えた。
「定番のクラシックなカクテルか、私のオリジナルです。お試しになりますか?」
ウォツカ、アマレット、ベルモット、シャルトリューズ・グリーンが手際よく混ぜ合わせられる。
札幌という名前のカクテルです。どうぞ」
なるほど、これはいける。
私たちは、古い時代について語り合い、ウイスキーの消費が変遷して、また元に戻った現状について語り合った。
「ハイボールはアメリカ流の飲み方でしたね。でもここの常連客は、水を添えるスコッチ流の方を好みました。竹鶴さんがこの店にいらしたときも、そのように飲まれましたよ。そう、彼はいつもゴールドニッカを『スコティッシュ・スタイル』で召し上がりました」
竹鶴という名に対する私の反応を確かめながら、山崎さんはそう回想する。
日本最高齢のバーテンダーにうかがいたい。駆け出しの若いバーテンダーへのアドバイスは?
「自分が好きな飲み物を、お客さんに押し付けないこと。一番大切なのは、お客さんの好みを見つけることです。親しげにふるまいながらも、個人的なところまでは立ち入らないこと。バーテンダーは大工のようなものです。皇居の奥にまで入って天皇陛下と話すことはできても、友達になれるわけじゃないから」
彼は笑みをうかべ、また飲み物を作り始めた。


 BARやまざき
住所:札幌市中央区南3条西3丁目 克美ビル4階
電話:011-221-7363
営業時間:18:00〜24:30
定休日:日曜日

BAR一慶

「BARやまざき」が古風なバーの典型であるとするなら、21世紀のバーが進むべき可能性を提示してくれるのが当店である。開店から4年、クールでモダンなスペースには弓なりに曲がった22席のバーカウンター。ウイスキーのセレクションも秀逸で、見るほどに興味をそそられる掘り出し物がある。とりわけニッカのヴィンテージボトルには事欠かない。オーナーの本間一慶さんが、北海道を旅行しながら、忘れ去られたような小さな酒屋を訪ねて見つけたものだという。
本間さんが、余市12年とスーパーニッカのハイボールを作ってくれた。スモーキーで繊細なスーパーニッカは、手作りチョコレートの盛り合わせと一緒に味わうと、よりソフトでフルーティーになる。
「20年前からウイスキーの虜ですが、バーを始めたとき、おつまみに何をお薦めすればよいのかわかりませんでした。それで、よりよいバーテンダーになるために自分で料理を作ろうと決めたのです」
その調理の技術が、ウイスキーの魅力を啓蒙する興味深いアプローチに結実している。飲み物1杯ごとに、小皿で添えられる料理。チーズやサーモンのスモーク、ウイスキーソースの豚肉炒めなど、フレーバーはどれも明確だ。
「食べ物との組み合わせを通して、ウイスキーの魅力を知っていただきたい。お出しするのは味の濃いものが多いので、皆さんは味の濃いアルコールが欲しくなります。ハイボールよりも、ストレートとのマッチングに力を入れています」
1970年代の古いニッカG&Gをいただいた。オリーブオイルのような分厚いテクスチャーが舌を包む。私たちは竹鶴について語り合う。古い伝統と、未来へ向かう革新的なアイデアについても。

 BAR一慶
住所:札幌市中央区南6条西4丁目 ジャスマックサッポロNo.6 2階
電話:011-563-0017
営業時間:20:00〜29:00(日祝20:00〜26:00)
定休日:無休

 

BAR無路良 

静かな「BAR一慶」の雰囲気から一転、「BAR無路良」(ブローラと読む)は賑やかな喧噪に包まれていた。店内には、すでに7人の常連客。みなウイスキーを語り合い、時折グラスを交換しながらそれぞれの時間を楽しんでいる。正方形のバー空間を仕切っているのはマスターの山田哲也さん。背後に膨大な数のシングルモルトを従えて、コックピットからお客の進行状況を管理している。
「ボトルは最後に数えたときに400本以上ありました。自宅にもありますよ」
当店には、明らかに通常のバー以上の機能がある。ここは2002年以来、毎夜開催されているウイスキークラブなのだ。東京日比谷にある「キャンベルタウンロッホ」の札幌版といってもいい。しかしエリート主義は感じられない。希少なウイスキーを置いているが、ここでは楽しむことが何よりも重要なのだ。ウイスキーの初心者には、地図と指示棒を取り出して短時間の講義をしてくれる。
キャンベルタウン産の45年モノ(蒸溜所が不明のボトラーズ製品)で口火を切った。トリュフオイル、ヒッコリーの木を燃やした煙、黒ウーロン茶、やわらかい果実などの混じり合った味わい。そして次はこのバーがボトリングを計画しているボウモアのカスクを選び、コニャックを飲み、ドイツのボトラー「ウイスキードリス」の手によるクライヌリッシュ32年にたどり着いた。サフランのような風味が心地いい。
店中で、次々にグラスが運ばれている。ロングモーンのヴァーティカル・テイスティングを始めた者。冗談を飛ばしあうグループ。このBAR無路良で、毎夜のように繰り広げられる光景だ。日本にいるのなら、一度は訪れてみたいウイスキー名所のひとつである。

 BAR無路良
住所:札幌市中央区南5条西3丁目 ラテンビル3F
電話:011-531-7433
営業時間:17:00〜27:00
定休日:月曜日

ザ・ボウ・バー

エディンバラにある最良のウイスキーバー、いや正確にいえばウイスキーパブのひとつが「Bow Bar」である。本間純矢さんは同店に触発され、札幌に出す自分のバーの名前に採用した。エディンバラの本家とは異なり、札幌のボウ・バーは静かな空間だ。その静寂は、世界の銘酒に対して捧げられた敬意でもある。
ウイスキーのセレクションは、膨大かつ印象的。多くが古い希少なボトリングによって構成されている。例えば、サマローリのボトリングによる伝説の「ボウモア・ブーケ1966」がここにはある。これまでに瓶詰めされたシングルモルトの中で、最上のもののひとつではないかと私は思う。
「東京で働いているとき、ボトラーズのモルトに出会いました。古いアードベッグ10年を飲んで啓示を受け、スコットランドに飛んで蒸溜所巡りをしたんです。その旅が終わる頃には、故郷で自分のバーを持とうと心に決めていました」
この店のコレクションは、市場の要請に合わせたものではなく、個人の志向を色濃く繁栄したものだ。私は1970年代に発売されたシェリー熟成の「グレングラント10年」をオールドボトルでうっとりと味わう。
本間さんの愛着の対象は、ウイスキーだけに留まらない。棚にはロマーノ・レヴィ・グラッパのコンプリートコレクション、ヴィンテージ・ポルト、グロワーズのコニャックとアルマニャックなどが並んでいる。
「ここは地方なので、高級酒であってもあまり堅苦しくならずに飲んでいただきたい。私の望みは、お客様にお酒を楽しんでいただくこと。東京にもこのような場所はたくさんありますが、札幌市民の多くは行けません。だからこそ私は、ここで世界第一級のお酒をご紹介したいのです」
札幌のバーに共通の、オープンでフレンドリーな気風を象徴するような言葉である。

ザ・ボウ・バー
住所:札幌市中央区南4条西2丁目7-5 ホシビル8F
電話:011-532-1212
営業時間:19:00〜27:00(祝19:00〜25:00)
定休日:日曜日(日月連休の場合は月曜休)

 

リカー&タバコショップ モモヤ

明るく、広く、清潔な店内。ここ「モモヤ」はただの大型酒店ではない。すすきので100年以上前に開店し、バーテンダーが必要なものをもれなく常備。ワンランク上の品質を好む消費者にも愛される名物店である。
「午前中の動きはゆっくり。午後4時ぐらいになるとバーテンダーの方々が来店して、一緒にコーヒーを飲んだりしますよ」
牧野司店長が指し示す先で、エスプレッソマシーンが湯気を立てている。
「プロの皆さんとの会話をいつも楽しみにしています。札幌の夜のトレンドを知る手がかりにもなりますから。販売のため、バーにもよく行きますよ。地元の繋がりは強いので、当店は専門直販店のような存在なのです」
店は午前2時まで開いており、取引先もあらゆる種類の飲食店をカバーしている。
ウイスキーは、売上構成の重要な部分を占め、独立系ボトラーズやオールドボトル、幅広いバーボンや地元のウイスキーを含む膨大なセレクションを誇る。商品の幅は、ワイン、日本酒、焼酎、ベルギービールまでに及ぶ。
「手を広げ過ぎ? しようがないんです。お酒なら何でも好きですから。この界隈の酒屋はウイスキーをあまり揃えていないので、当店はいっそう専門的になってきました」
不況にも関わらず、商売の状況は堅調だ。購入した樽からオリジナルボトルまで販売するので驚いてしまう。取材時には19年モノのボウモアが売り出されており、2001年の余市をボトリングする計画が進行中だった。
モモヤのもうひとつの柱がタバコ。巻きタバコ、パイプ、シガレット、喫煙用具、そして大きな保湿箱で管理されたキューバやドミニカ共和国のシガーまで何でもある。酒と同様に、全方向をカバーするのが当店のポリシーなのだ。

 

リカー&タバコショップ モモヤ
住所:札幌市中央区南5条西5丁目11 モモヤビル1F
電話:011-521-0646
営業時間:10:00〜26:00(日祝17:00〜23:00)
※一部のシガーは日祝の販売なし
定休日:無休

小樽

電車が終点にたどり着く。北海道西岸の小樽港には、粉雪が舞っていた。賑やかな港の上にある坂道では、水色や黄褐色の四角い家々が軒を連ねている。雪に覆われた静かな街路。オゾンがいっぱいの空気は冷たく、吐く息は白い。冬の太陽がゆっくりと石狩湾に沈む。さあ、そろそろ1杯やる時間だ。

 

BAR HATTA

八田康弘さんが、自らの名を冠したバーを小樽にオープンしたのは1983年のこと。それはほとんど偶然の産物だったと、笑顔で回想する。
「当時はまだ学生で、仕事が決まるまでの一時しのぎのつもりでした。それが結局、ここにずっと留まることになりまして」
この心地よいバーは、街でただひとつの純然たるバーとして人々に愛されてきた。
「店をやろうと思った唯一の理由は、この街にバーが1軒もなかったから。小樽は港町であり、船乗りにはバーが不可欠。それなのに、彼らの行く場所がなかったのです。ホステスを入れてくれという客もいますが、ご覧の通り、ここはそんな場所ではありません」
彼は笑いながら、ウイスキーの棚を見る。無論、ここから20kmほどの場所でつくられた地元産のウイスキーが並んでいる。
おすすめのハイボールをいただくことにした。すぐさま余市10年でハイボールを作る八田さん。外気と同様の冷たさが口内に流れ込み、シルキーなコクが広がった。
地元の蒸溜所である余市が、このバーでよく飲まれるようになったのは近年になってからのことだという。
「地元の人はニッカが好きですが、シングルモルトの需要はそれほどありませんでした。シングルカスクなどはなおさらですよ」
その言葉を聞いて、10年モノのシングルカスク(No407510)が飲みたくなった。サイドには、ボトル入りの小樽の水。このカスクには、余市の数あるシリーズの中でも特に賑やかな味わいが宿っている。柔らかいトロピカルフルーツの香りは、まるでカリブ海の港を襲うハリケーン。その感触は、この店のもてなしのように温かい。

BAR HATTA
住所:小樽市花園1丁目8-18
電話:0134-25-6031
営業時間:18:00〜25:00
定休日:日曜日

カテゴリ: Archive, バー