シングルモルトはもちろん、高品質なブレンデッドウイスキーもスコットランドの古都には相応しい。リースで復活するジョン・クラビーと、ユニークな建築のポート・オブ・リースにも注目だ。

文:ガヴィン・スミス

 

21世紀のエディンバラで最初にウイスキーをつくるフルスケールの蒸溜所は、前回紹介したホーリールード蒸溜所である。だがそれより一足先に、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを樽詰めしたのがジョン・クラビー&カンパニー社だ。樽詰めは2018年にグラントンのチェインピアにある試験工場でおこなわれた。都心から約3マイルのフォース湾に面した場所である。

ジョン・クラビーは19世紀のエディンバラのウイスキー業界を代表する存在だった。ディスティラー、ブレンダー、ボトラーとして、本拠地リースからウイスキーを市場に供給していた。元祖グリーンジンジャーワインも生産し、この成功が後にジョン・クラビー&カンパニー社の名声を高めることになった。現在はアルコール入りジンジャービアーでよく知られているメーカーでもある。

ディスティラーズ・カンパニー、LVMH、ヘイルウッド・インターナショナルと親会社が変遷してきたジョン・クラビー&カンパニー社だが、ここへきてウイスキーづくりのルーツに回帰しようとしている。サードパーティから調達したシングルモルトを熟成年数ごとに商品化し、野心的な蒸溜所新設プロジェクトをリースで進めているところだ。

ジョン・クラビー&カンパニー社の社長(マネージングディレクター)を務めているのは、ウイスキー業界での経験豊富なデービッド・ブラウンである。最近の動きを次のように説明してくれた。

「グラントンで試験的に稼働させている蒸溜所は、いざ新しい蒸溜所が完成したときに備えて私たちがトレーニングを積む場となっています。ジン、モルトウイスキー、グレーンウイスキーをつくっていますが、どれもまだ少量生産ですね」

試験工場には、ドイツのホルスタイン社製のスチルがある。一定した環境で商品の開発ができるようになったので、試験工場の設置は正解だったとブラウンは語る。

「酵母もいくつか違いを試したし、樽熟成の方針を決めるためにも役立ちました。試験で得られた経験は、新しく蒸溜所を建設する際に重要な情報となります。メインの蒸溜所が完成して本格的に稼働したら、この試験工場は閉鎖して貯蔵庫用のスペースにする予定です」

リースにウイスキーづくりの伝統を復活させるため、ヘイルウッドは約700万ポンドの巨費を投じる予定だという。

「蒸溜所の建設地には、グレートジャンクションストリートのヤードヘッズにできるだけ近い場所を選ぼうと考えていました。クラビー社の生産拠点があった場所だからです。その隣にはかつてボニントン蒸溜所もありました。そして私たちの新しい蒸溜所の名前もボニントン蒸溜所になります」

蒸溜所建設を決定するまでは紆余曲折もあった。リバプールに本社のあるヘイルウッド・インターナショナルは、当初アイリッシュウイスキーへの関心を高めていたのだという。

「それでも取締役の幹部とヘイルウッド創業家が、そろそろクラビーを本拠地のエディンバラに復活させてスコッチウイスキーに世界に再参入する機が熟したと判断しました。そこでリースに新しい蒸溜所を建設する計画が通ったんですよ」

前回紹介したホーリールード蒸溜所と同様に、新しいボニントン蒸溜所もLHステンレスとスペイサイドコッパーワークスから設備を購入する予定だ。

「両社にスチルをはじめとするさまざまな容器類の製造を依頼しました。ウォッシュスチルは容量10,000リッターで、スピリットスチルは容量7,500リッターです。年間生産量は純アルコール換算で約500,000リッターになるでしょう。狙い通りのスピリッツを蒸溜できるように、メーカーにはスチルの形状やデザインを一緒に考えてもらいました。リースでつくるウイスキーのスタイルについては多くを明かしたくないのですが、伝統的なローランドのスタイルとは一線を画するものになるでしょう」

デービッド・ブラウンは今後の予定についても教えてくれた。

「容器類はすべて納品され、所定の位置に収まりました。9月にはスピリッツに蒸溜がスタートできると思います。蒸溜所の生産エリアとビジターセンターの間にはガラス窓を取り付けて、訪れる人たちが安全にスチルの写真を撮影できるようにします。蒸溜所内にはイベントスペースも設けようと考えてます。ウイスキーはシングルモルトを重視した生産方針。かつてのジョン・クラビーは独立系ボトラーでありながらウイスキーの生産者でもありました。この伝統を引き継いでいくのが目標です」

デービッド・ブラウンは、ホーリールード蒸溜所のデービッド・ロバートソンと旧友で、2人は同職したこともある。火事になったときに原酒をすべて失うリスクを避けるため、互いの貯蔵庫にある熟成中のウイスキーを樽ごと交換する案についても検討したのだと明かしてくれた。

「他にも協働できるアイデアについて話し合っています。それはエディンバラ・ウイスキー・トレイルを作ること。3つの本格的な蒸溜所がすべて開業したら実現したいですね」

 

第3のビッグプロジェクト、ポート・オブ・リース蒸溜所

 

デービッド・ロバートソンが口にした3つ目の蒸溜所が、ポート・オブ・リース蒸溜所だ。建設される場所はロイヤル・ヨット・ブリタニアが停泊するオーシャン・ターミナルの近くにある。

ポート・オブ・リースを運営者するワイン商のイアン・スターリングと会計士のパトリック・フレッチャーは、エディンバラ出身の幼なじみ同士だ。この蒸溜所は、スコットランドで初めての「縦型」蒸溜所となることが注目されている。最上階のミルでモルトを粉砕と糖化をおこない、その階下へ運ばれて発酵工程へ。最後は1階で蒸溜をおこなうという建築設計になっている。イアン・スターリングが説明してくれた。

「建造物としてもインパクトのある現代的な蒸溜所を建設したいと考えていました。敷地が狭いので蒸溜所に最適な場所とはいえませんが、逆手をとって縦型の構造を思いついたんです。とにかくロイヤル・ヨット・ブリタニアが隣にある立地は最高。ウイスキーが販売できるまでは観光収入が大切になるので、蒸溜所の最上階にはレストランとバーを開業させます」

蒸溜所の建設に着手できるまで、構想から7年の歳月が経ってしまった。だがリースでのウイスキーづくりの伝統復活に大いなる情熱を燃やすイアン・スターリングは、すでにポート・オブ・リース銘柄でオロロソシェリーのボトルを発売するなど大胆な動きを見せている。

「今年の6月に建設を開始して、工期は18カ月間の予定。つまり2020年が終わる前に蒸溜所を始動できるのではないかと計算しています。最終的には純アルコール換算で年間400,000リッターを生産し、年間数万人のビジターを招き入れることも目標としています」

蒸溜所の完成を待つ間は、「イノベートUK」の出資によって酵母と発酵の研究プログラムも進められている。エディンバラのスチュワート・ブリューイングとグラスゴー蒸溜所でも働いたビクトリア・ミュア=テイラーが、ポート・オブ・リース用に独自の研究を進めているようだ。イアン・スターリングが語る。

「この研究の結果は誰でも利用できるようにしたいので、他のウイスキーメーカーも活用できるように何らかの形で共有する予定です」

ジョン・クラビー&カンパニー社がグラントンで試験生産を続けているように、ポート・オブ・リースもまたリースに「タワーストリート・スチルハウス」を設けてジンを生産している最中だ。イアン・スターリングは「ここではウイスキーの開発プログラムもおこなわれる予定です」と請け合う。

すでにエディンバラには「5つ星の観光スポット」と評されるロイヤルマイルの「スコッチウイスキー・エクスペリエンス」があり、プリンセス・ストリートではジョニーウォーカーが数百万英ポンドの巨額を投じた豪華な7階建てのビジターエクスペリエンスもオープン間近だ。

「エディンバラをスコッチウイスキーの生産地として完全に復活させたい」と、ジョン・クラビー&カンパニー社のデービッド・ブラウンは力強く語った。目標達成は時間の問題であろう。