検証 フレーバード・ウイスキー【前半/全2回】

February 10, 2014

最近あちこちで見かけるフレーバード・ウイスキー。ウイスキー愛好家はこれを快く思っていないようだ。しかしフレーバリングはウイスキーの歴史に欠かせないものなのだ。

“強面の男がバーで私の隣に座り、鼻を鳴らして言った。『レッド・スタッグはあるか?』と。フレーバード・ウイスキーが流行っているということだ”
ロサンゼルスを拠点とするフード&ウイスキーブロガー、スティーヴン・ユーリーはそうツイートした。
「正確を期して言っておくと」と、スティーヴは私に言う。「フレーバード・ウイスキーに全く異存はないんだ、自分が飲むことにならない限りは」

2009年にレッド・スタッグが酒屋の棚に並んだとき、ウイスキーのメーカーと愛好家は注目し、直ぐにベストセラーになった。これが最も関心を集めた近年初のフレーバード・ウイスキーで、多くの後続品が続いた。
レッド・スタッグブラックチェリーのような香りと味に風味付けした「ジムビーム バーボン」だ。その大成功を受けてスパイスとハニー系のフレーバーが続いた。しかし、スコッチ 「通」を気取る人々はフレーバード・ウイスキーが「新参者」であるが故に「本物のウイスキーではない」として退けた。
彼らはいかにも偉そうな口調で「フレーバード・ウイスキーは本物のウイスキーを『恐ろしくて口にできないもの』に貶めてしまう困った流行だと思うのは私だけだろうか?」と不平を言う。

しかし、伝統というものは一体いつ始まるのだろう?
記録に残っているスコッチウイスキーの5世紀にわたる歴史のほとんどの間、スコッチにフレーバリングを加えないことなど聞いたことがない。きついウイスキーを快い味にするために、ハチミツ、ハーブ、スパイス、果物、クリームまでもが使われた。スコットランド人やスコットランド/アイルランドの蒸溜業者が移民としてアメリカに住み着いたときには、フレーバリングの伝統も一緒に持ち込まれた。
その後、さらに北の方から税金取りがやってきた。カナダ政府は1887年、ウイスキーを少なくとも1年間樽で熟成させることを求める法律を導入した(のちに最低熟成期間は3年に引き上げられた)。
だが、この法律は熟成やフレーバーとは何の関係もなかった。それどころか、立法者らは極小規模の蒸溜業者がウイスキーを売るまで1年も待てないことを承知していた。そう、熟成制度は、税金を払いそこなうことが一番多い小規模生産者を駆逐するために導入されたのだ。

スコットランドの立法者らはこのカナダの樽熟成制度を注意深く研究し、1873年から78年までカナダの首相を務めたアレクサンダー・マッケンジーと書簡を交わしてまで、その財政的影響を確かめた。1915年までには政府が受ける経済的利益が明らかになり、熟成はスコッチウイスキーについても法的要件になった。スコットランド人がウイスキーをつくり始めてから何世紀も経った後、突如として樽の使用が伝統になったそして、以前にシェリーポートワインなどが入っていた樽、特にまだ中に味と香りがしみ込んでいるものの方が、はるかに良いと言われるようになった。これもまた十分に「フレーバリング」といえるだろう。

2013年、スコットランドの伝統的なウイスキーブランド「デュワーズ」は、1846年の創立当時に流行っていた「ハチミツを加える」製法 を再開した。これまでのところ、「デュワーズ・ハイランダー・ハニー」その伝統を復活させた唯一のスコットランドのブランドで、「スコッチ・ウイスキー・アソシエーション(SWA)」はこれを快く思っていないようだ。

【後半へ続く】

写真協力:カナダ・オンタリオ州観光局

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