検証 フレーバード・ウイスキー【後半/全2回】

February 13, 2014

フレーバード・ウイスキーの流行によってウイスキー業界にもたらされた新たな波。邪道などと言っていては損をする!?  フレーバード・ウイスキーを掘り下げる連載の後半。

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一方、この流行によりウイスキーは新たな顧客を獲得し、中核ブランドの売り上げをも伸ばしている。カナダのブラック・ベルベット蒸溜所が「トーステッド・キャラメル」を売り出したときには、想定外の需要があった。「ここは大変な騒ぎでしたよ」と蒸溜所マネージャー代理のクリス・スピアマンが私に言った。「でも、需要に追いつくまで普通のブラック・ベルベットの製造を控えることはできなかったのですか?」と私は無邪気に尋ねた。「できませんでした」と彼は、らしからぬ快活さで応じた。「中核製品の需要も同時に増加したんです。今は大丈夫ですが、しばらくの間は本当にてんやわんやでした」。

同様に「ブッシュミルズ・アイリッシュ・ハニー」も、人気が高まるにつれて全ブッシュミルズ製品に新たな愛好家をもたらしている。
この頃では北米がフレーバード・ウイスキーの旗頭だ。「ジャックダニエル・テネシーハニー」、そして「ワイルドターキー・アメリカンハニー」も、中核ブランドの販売量を押し上げた。有名なウイスキーメーカーがこのトレンドを心から歓迎する中、フレーバード・ウイスキー専門に特化した新たな会社がこの新産業になだれこんでいる。

カナダのクリューガー・ワインズ&スピリッツ社には2種類のフレーバード・ウイスキー製品がある。「スパイス・ボックス」は各種の伝統的なフレーバード・ウイスキーを取り揃え、「ソルティレージュ」はカナディアンウイスキーにケベック産メープルシロップを溶け込ませている。そしてアメリカでは、1世紀近い中断の後にカラフルな「チキン・クック」ブランドがスパイス、シナモン、ルートビアーのフレーバー付きで再浮上した。

最も成功したフレーバード・ウイスキー類は、オリジナルのウイスキーが既に持っている品質を高めたもののようだ。グレンフィディック蒸溜所のマスターブレンダー、ブライアン・キンスマンが「ギブソンズ・カナディアンウイスキー」をつくるために招かれたとき、彼は本物のカナダ産メープルシロップをほんの数滴加えた。これによって、既に豊かなギブソンズ・ウイスキーは特徴を損なうことなく、風味の良い樽の香りを増幅した。
さらに、「クラウンローヤル・メープル」ほどウイスキーとメープルシロップの組合せが成功している例はない。ディアジオ・カナダでウイスキー製品のマーケティングディレクターを努めるデイヴィッド・アラードは言う。
「『クラウンローヤル・メープル』は年間通じて全国ベースでカナダ最大のフレーバード・カナディアンウイスキーですし、『メープル』の発売以来、通常ラインナップのクラウンローヤルも目覚ましい伸びを続けています
マスターブレンダーのアンドリュー・マッカイは「クラウンローヤル・メープル」の製造に当たり、親しまれたクラウンローヤルの個性を維持するために大変に気を配った。「バッチをベースにすることが要です」とマッカイはすべてのクラウンローヤルに含まれる原酒を指して言う。
「あのコンデンスミルクのようなクリーミーさ、そして微かなバナナの香りはそこから来ています」。おそらくそう言われたからだろうが、その後にこれを飲むと、これらの要素が直ぐに感じられる。

ジャックダニエルのブレンダーたちは、ハチミツ風味製品を開発する際に別のアプローチを取った。ジャックダニエルの熟成に使われた新しいオーク樽にはバニラと焦げたオークの香りが豊かである。熟成させたウイスキーにハチミツを加えるとこれらの要素が増幅されて、やはりジャックダニエルでありながらも、「自分がウイスキー愛好家だと思ったことのないような人々」でも手にしやすいウイスキーになった。

ウイスキーのフレーバーの中でもクローブ、シナモン、ジンジャーなどのスパイスは特に好まれている部類に入り、これらを加えたウイスキーは例に事欠かない。ファイアーボール・シナモン・ウイスキー」などは、洗練された通人のお気には召さないかもしれないが、新たな愛好家に飛ぶように売れている。

だから、頑ななスコッチ通の方々には無理にはお勧めしないが、フレーバリングに関してはスティーヴン・ユーリーのスタンスが良いだろう。ウイスキーにフレーバーを加え続けて5世紀が経つのだから、最近の偏見など脇に置いて、フレーバード・ウイスキーを楽しむ人々を軽んじるような視線を送ることなく、迎え入れて上げよう。この最新の流行のせいで、ウイスキーファンが昔から好きなものがバーや酒屋の棚から追いやられたわけではないのだから。

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