グレンフィディックの長い旅【後半/全2回】

February 25, 2016


決して変えてはいけない伝統がある。未来を切り開く革新も必要だ。ブライアン・キンズマン氏は、この2つの価値観を恐れることなく両立させ、現代最高のグレンフィディックを表現する。6代目モルトマスターが思い描く、ウイスキーの未来とは。

文:WMJ

 
ひなびたダフタウンの町外れにあるグレンフィディック蒸溜所は、ビジネスの隆盛に合わせて生産規模を拡大してきた。それでもまだ1887年の創業時からの建物は健在であり、昔ながらのウイスキーづくりも維持している。

モルトやイーストの品種は自然の流れの中で変わっているが、スピリッツの味は不変でなければならない。原料や環境の変化で発酵状態が変わったり、それによってフレーバーが変わったりすることは許されない。生物化学者たちとテストを重ねながら、ウォッシュやビールの味に変化がないよう毎日目を光らせているのだと、モルトマスターのブライアン・キンズマン氏は説明する。

ウイスキーづくりは、発酵工程で最初の大きな山場を迎える。蒸溜所には容量10tのマッシュタンが2槽あり、24時間稼働している。ここで抽出された大麦麦芽の糖分を古風な木製ウォッシュバックで発酵するのだ。

「青リンゴや柑橘のような香りには、やや長めの80時間発酵が欠かせません。発酵工程でしっかりとフレーバーを固めてしまわないことには、その後でどんなに頑張っても私たちの望むフレーバーが引き出せないのです。発酵工程で生まれる酸やエステルがフルーティーさを生じさせ、このフルーティーさは蒸留されることでまた異なったエステル香を放ち、カスクの成分とも反応を起こして変化します」

大規模蒸溜所にそぐわない、小さなスチルもグレンフィディックのシンボルだ。ウィリアム・グラントが使っていた初代スチルとまったく同じ寸法で、同じボール型とランタン型の組み合わせ。直火で加熱する古風なスタイルも守っている。

「これまでも同型のスチルを増設して需要増に対応してきました。最初は3基だったスチルが31基になっただけ。スチルは決して変えてはならない蒸溜所の心臓部です」

蒸溜所内に樽工房があるのも、現代のスコッチメーカーとしては珍しい。アメリカのバーボン樽も、スペインのシェリー樽も、届いた樽の品質確認は怠らない。熟練した樽職人が1日平均16樽を用意して、長い熟成の準備を整える。70年以上前の古酒を含め、現在抱えている樽の数は約80万本。20世紀初頭に建てられた貯蔵庫を筆頭に、47軒の貯蔵庫がこの谷で大切なウイスキーの原酒を熟成している。

グレンフィディックは、マリイングタンと呼ばれる2,000Lの巨大カスクで3ヶ月間原酒を寝かせて熟成を仕上げる「マリイング」を独自におこなっている。このような特殊なカスクも、樽職人たちが日々管理することで他にはないユニークな風味を生み出す。原酒の豊富なバリエーションは、グレンフィディックの大きな強みである。
 

伝統から生まれる本物の革新

1963年に世界に向けて初めてシングルモルトウイスキーを発売したグレンフィディックは、生粋のパイオニアとしての遺伝子も持っている。ブライン・キンズマン氏が、モルトマスターの仕事を「伝統と革新の橋渡し」であると定義しているのもそのためだ。

「例えば1963年以来のスペシャルリザーブの品質を守っていくことが、伝統の継承にあたります。既存の約束を繰り返し、数十年後のお客様が味わう風味を一定にするために細心の注意を払わなければなりません」

このような保守業務は、簡単な仕事とはいえないものの管理可能な領域であるとキンズマン氏は語る。だがモルトマスターの責務は、昨日までの前例を繰り返すことだけではない。「21年 グランレゼルヴァ」や「18年 スモールバッチリザーブ」のような新しいフレーバーで、新旧ファンの期待に応える必要もある。

「伝統よりも、より難しい領域が革新です。みんなを驚かせるようなウイスキーは、比較的容易につくれます。しかしそれが、グレンフィディックのブランドに合っていなければ意味がない。私たちの伝統をしっかりと反映させた上での革新的なウイスキーなのかという整合性が必要なのです」

シングルモルト最古参のグレンフィディックでも、日々さまざまな試行錯誤を重ねているのだとキンズマン氏は明かす。カスクの種類、形、大きさはもちろん、蒸溜や発酵の工程でも細かな工夫を凝らし、常にその実験の記録をとっておく。

「ウイスキーづくりは長い年月をかけて考えていく必要があります。どのような変化をしていくのかをじっくりと調べていくことで、実現可能なアプローチを見極めます。小規模な実験は100種類をゆうに超えていますが、実際に商品になるかどうかはわかりません」

ウイスキー界に新しい価値をもたらすチャレンジは、いつもエキサイティングだと語るモルトマスター。伝統と革新を両立させる決断に、迷いはないのだろうか。

「比較的簡単な基準を設けているんです。それは、出来上がったものをみなさんの前でプレゼンするときに、本当に満足して自分で誇りに思えるものであるかどうか。100%の自信がなければ、それがいくら美味しいウイスキーであったとしても、グレンフィディック向けではありません」

そしてキンズマン氏が「100%の自信」を持ってリリースしたウイスキーが、今ここにある。19世紀に1人の男が始めた挑戦は、世代を越えて受け継がれながら進化を遂げ、最高のかたちで私たちの手元に届いたところなのだ。

 

グレンフィディック 21年 グランレゼルヴァ

700ml  希望小売価格(税別) 25,000円  40%

 

21年以上熟成したヨーロピアンシェリー樽原酒とアメリカンオーク樽原酒をブレンドし、カリビアンラム樽で4ヶ月間熟成。バニラやフローラルを思わせる香りとやわらかな口当たりが特長で、まろやかながらも複雑な味わいを楽しめる。

 

※掲載価格は販売店の自主的な価格設定を拘束するものではありません。

グレンフィディック 18年 スモールバッチリザーブ

700ml  希望小売価格(税別) 10,000円  40%

 

18年以上熟成したスパニッシュオロロソシェリー樽原酒とアメリカンオーク樽原酒をブレンドし3ヶ月以上熟成。熟した果実やシナモンを思わせる香りで、深い味わいと長く続く余韻が特長。

 

※掲載価格は販売店の自主的な価格設定を拘束するものではありません。

 

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