長時間蒸溜で研ぎ澄ましながら、シェリー樽に負けないスピリッツを生み出すのがグレンゴインの真骨頂。2回シリーズの後半では、商品によって変化する緻密な原酒構成と大人気のビジター体験について解説。

文:ガヴィン・スミス

 

グレンゴインでは、3基ある蒸溜釜すべてに、銅との接触を増やす「ボイルボール」(首元の膨らみ)が付いている。だがその一方で、ラインアームが下向きだから力強い味わいになる。この力強い風味が、シェリー樽で熟成しても樽香に負けない重厚なボディをスピリッツに授けるのだ。

グレンゴインのシングルモルト商品は、グレンゴイン10年、グレンゴイン12年、グレンゴイン15年、グレンゴイン18年、グレンゴイン21年、グレンゴイン25年というラインナップが中核だ。この他に年数表示のない「カスクストレングス」もボトリングしており、現在バッチ7まで続いている。最近では「レガシーシリーズ チャプター1」が登場して注目を集めたばかりだ。

今年2月に発表された年数表示のないシリーズ「レガシー」は、蒸溜所の歴史やブランドの確立に貢献した人々をテーマにしている。毎年1回のリリースが予定されており、その第1段となる「チャプター1」では1869年より蒸溜所長を務めたコクレーン・カートライトにスポットを当てている。グレンゴインの蒸溜速度を業界標準の3分の1まで落としたのはこの人であり、そのいきさつについて説明したものだ。

インターナショナル・ブランドアンバサダーのゴードン・ダンダスは次のように語っている。

「グレンゴインのウイスキーの色は、その100%がオーク樽の熟成から得られたもの。フレーバーも60%がオーク樽由来です。つまり上質なスピリッツと上質なオーク樽が、素晴らしいウイスキーをつくっているという認識が基本。熟成に時間をかければいいというものでもなく、グレンゴインのように、最高級のスピリッツと樽を使用してこそ長期熟成の価値があります。グレンゴインのラインナップは、すべてシェリー樽熟成原酒を使用。シェリー樽熟成による天然の琥珀色は、昔から変わらないグレンゴインのシンボルとして未来にも受け継がれるでしょう」

定番品の原酒構成についても、ゴードン・ダンダスが説明してくれた。

「グレンゴイン10年の原酒は、30%がファーストフィルのシェリー樽原酒で、残りの70%がリフィル樽原酒です。それがグレンゴイン12年になると、ファーストフィルのバーボンバレル熟成原酒を20%使用しているのでバニラや木のスパイスが強く、そこにファーストフィルのシェリー樽原酒やリフィル樽原酒を加えています。単に熟成期間が2年長いだけでなく、度数も40%から43%に引き上げられているので、まったく異なるフレーバーのプロフィールを感じていただけます」

このような調整でそれぞれの個性を出すのは当然のことであり、長期熟成のシングルモルトウイスキーでも違いが顕著になるという。

「グレンゴイン18年は究極のバランスを志向した味わいで、50%のシェリー樽原酒と50%のリフィル樽原酒によって構成されています。グレンゴイン21年とグレンゴイン25年はどちらもすべてヨーロピアンオークの樽で熟成されているのが特徴。グレンゴインレガシーには、たくさんファーストフィルのシェリー樽が使用されています。グレンゴインでは、シャリー樽が背骨のように重要な役割を果たしているのです」

 

ノンピートの代表的銘柄として地位を確立

 

蒸溜所自体も年中フル稼働しているグレンゴインだが、スコットランドでもっともビジター動員数が多い蒸溜所としても知られている。グラスゴーからも近く、ハイランドに向かう国道A81号線沿いという立地の良さも手伝って、フォトジェニックな蒸溜所には年間約9万人もの人々が訪れる。

ゆっくりと蒸溜する丁寧なウイスキーづくり。スコットランドで最多の訪問者を受け入れるビジター体験。グレンゴイン蒸溜所の人々は、今でも昔ながらの手づくりを基軸にした生産方針を貫いている。

熱心なビジターたちの期待に応えるため、グレンゴインはスコッチウイスキー界では屈指の包括的なツアーメニューを用意している。タンダードなグレンゴインツアーから究極のグレンゴインマスタークラスまで、ツアーには5種類のオプションがある。このグレンゴインのツアーが、幅広さも専門性もスコットランド最高レベルにあると評する人は多い。

マスタークラスのビジターツアーではニューメイクスピリッツ、熟成工程、グレーンウイスキーについて学び、サンプルルームの中で実際にウイスキーのブレンドを体験できる。ツアーの終盤には、自分でブレンドしたウイスキーを200mlボトル入りでゲット。自分の名前が記された特別なグレンゴイン10年のボトルと訪問証明書も付いている。

他の多くのウイスキーメーカーと同様に、グレンゴインもまた環境保護の責任を重く捉えている。だがこの分野での取り組みは、最近始まったことではないのだとゴードン・ダンダスが念を押す。

「近年になって人々の関心が高まってきたから環境問題に取り組んだ訳ではなく、私たちがもう10年以上にわたって続けている方針です。搾りかすやポットエールは、蒸溜所から4km離れた場所にある嫌気性消化装置で処理。その燃料から、400戸の住宅に電力が供給されています。またスペントリーはヨシ原で浄化してから水路に返すようにしています。このヨシ原はたくさんの植物が花を咲かせるので、蜂の巣箱を用意して受粉を促しています。蒸溜所で使用する樽は、サスティナブルな公的基準を満たしたものだけを使用し、二酸化炭素の排出を可能な限り減らすように努めています」

1833年の創業以来、グレンゴインは世界大戦の時期を含めて一定した生産量を維持してきた。これは大いに誇ってもよい伝統であろう。独立心の旺盛なイアン・マクロード・ディスティラーズの下で、今後も引き続き長い道のりを歩んでくれるに違いない。