ヘブリディーズ諸島を旅する【後半/全2回】

December 10, 2015

スコッチウイスキーやスコットランドの風土を愛する者にとって、ヘブリディーズ諸島は宝箱のような場所。今回はインナー・ヘブリディーズのスカイ島から、アウター・ヘブリディーズのハリス島とルイス島へ。美しい風土と多彩なウイスキーに出会うチャンスがある。

文:ガヴィン・スミス

【←前半】
スカイ島

タリスカー蒸溜所

1995にスカイ橋が開通して以来、スカイ島は船や飛行機を使わなくとも蒸溜所を訪ねられるヘブリディーズ諸島で唯一の島になった。インバーネスの130kmほど西にあるカイル・オブ・ロカルシュに向かい、「Over the Sea to Skye」と書かれた標識に従う。古いスコットランド歌謡に、この標識と同じタイトルの歌がある。スカイ島に着いたら、A87を北西に進むと、スコンサーでラッセイ島に渡る小さなフェリーターミナルを通り過ぎる。ここにR&Bディスティラーズがクラフトウイスキーの蒸溜所とビジターセンターを建設する予定だが、今現在まだプロジェクトは始動したばかりだ。

スコンサーから4kmほど進んでスリガチャンをA863に左折すると、有名なタリスカー蒸溜所(www.malts.com)がその先にある。タリスカー蒸溜所はハーポート湖の岸辺にあり、目を見張るような素晴らしい景色の只中にある。島の西側からクイリン山脈を見上げ、北東に位置する島の中心地ポートリーへは車で30分ほどの距離だ。

タリスカー蒸溜所は1830年にヒュー・マッカスキルとケネス・マッカスキルの兄弟によって設立され、現在はウイスキー業界のリーダーであるディアジオが所有している。1960年代の大掛かりな改修工事を経て、蒸溜所の外観はかなりモダンだ。それでも蒸溜所内では長年受け継がれてきた5基のスチルからなる独特の設備が出迎え、3回蒸溜をおこなっていた1928年以前の時代に引き戻される。比較的訪問しにくい立地でありながら、ディアジオが保有する蒸溜所のなかで年間訪問者数がナンバーワンであるというのは驚くべき事実だ。

現在、タリスカー蒸溜所はスカイ島で唯一の蒸溜所である。それも島南部のスリート半島に建設中のトラベイグ蒸溜所が完成すると事情は変わる。トラベイグ蒸溜所の建設は、ビジネスマンでありゲール語の熱心な擁護者でもあった故イアン・ノーブル卿の夢であったが、現在蒸溜所が建設されている農場の建物はモスバーン・ディスティラーズが所有している。建物の修復工事は第1フェーズを昨年に終え、すべてが計画通りに進めば、2017年にはスピリッツの蒸溜が開始する。

 

ハリス島

ハリス蒸溜所

スカイ島からスカイ橋で来た道を帰るよりも魅力的な旅程がある。それはスカイ島北部のウイグにあるフェリーターミナルから、1時間40分をかけてアウター・ヘブリディーズのひとつであるハリス島のターバート港へと渡るルートだ。

この港の近所にあるハリス蒸溜所は、2015年9月24日に正式開業したスコットランドでもっとも新しい蒸溜所である(2016年現在)。ハリス・ディステイラーズ社(www.harrisdistillery.com)のコメントを紹介しよう。

「私たちが目指しているのは、ソーシャルな蒸溜所。ハリス島の未来を心に描き、今後何十年、何世紀にもわたって存続できる企業を創設して島を豊かにするだけではなく、この島の言葉では言い表せない魔法のような精神を世界中に発信できるような蒸溜所をつくりたいと考えています」

「ヒーラッハ」と名付けられたシングルモルトウイスキーが、トスカーナ製のスチルから生産されている最中だ。訪問客も週に6日は受け入れているが、日曜日だけはハリス島とルイス島の宗教的な伝統に従って安息日となっている。

 

ルイス島

ハリス島とルイス島は実際にはひとつの島であり、広大な大地の南部分をハリス島が占めている。ルイス島唯一(認可済み)の蒸溜所を訪ねるには、ターバートからA859をストーノウェーに向かい、そこから西へカーニッシュを目指してB9011沿いを行けばアビンジャラク蒸溜所(www.abhainndearg.co.uk)にたどり着く。

アビンジャラク蒸溜所のマーク・テイバーン氏

アビンジャラク(ゲール語で赤い川の意味)はスコットランド最西端に位置する蒸溜所で、ストーノウェーの実業家であるマーク・テイバーンによって設立された。2008年9月より生産を開始し、鮭の孵化場跡地を取り囲むように造られた蒸溜所は、1対の極めて独特なスチルが自慢だ。この地方の古風な温水タンクを思わせる風貌で、まるで魔女の帽子のようなネックがラインアームにつながると劇的にねじれ、1対の木製冷却槽に向かって下降していく。

蒸気で熱する”正統な”スチル1対に加え、アビンジャラク蒸溜所は実際の密造酒づくりに使われたスチルを保有している。このスチルは80Lのサイズで今もときどき使用され、ニューメイクはオロロソシェリー樽に貯蔵される。ここで生産されるスピリッツはほとんどがノンピートだが、毎年ややヘビーピートのモルトスピリッツも蒸溜される期間がある。

2011年3年熟成のシングルモルトを発売したアビンジャラク蒸溜所は、2018年に10年熟成のボトリングをするのが次の目標だ。それまでの間は、例の一見の価値があるスチルを拝むために訪ねてみよう。

ルイス島からターバート港経由でスカイ島に戻ってもいいし、アビンジャラク蒸溜所から車で1時間のストーノウェーに向かってそこからカルマックのカーフェリーでブルーム湾の沿岸にあるアラプールに渡ってもいい。アラプールはインバーネスから北西約90kmに位置する。ストーノウェーからは、各地に飛行機も定期便が飛んでいる(www.flybe.com)。

 

ヘブリディーズ諸島では、極めて変化に富んだ風景と素晴らしいウイスキーが待っている。新しい場所やウイスキーとの出会いを誘う得体のしれない魔力があり、何度でも足を運びたくなる不思議な地域だ。

 

 

 

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