アイリッシュウイスキーの革命 【その3/全3回】

August 26, 2013

 アイルランドの蒸溜業界レポート第3弾。既存の蒸溜所も続々と拡張し、新たな蒸溜所も建設されている。北海道と同程度の面積の島に起こるウイスキー再興の波は、どこまで広がるのだろうか?

アイリッシュウイスキーの革命 【その1/全3回】
アイリッシュウイスキーの革命 【その2/全3回】
その他の拡張計画、新規蒸溜所3ヶ所、新規ボトリング

アイリッシュ・ディスティラーズ
ジェムソンという巨大トラックの行く手を阻むものは今のところ何もなさそうだ。アメリカにおけるアイリッシュウイスキー市場の70%という莫大なシェアを有する第一人者として、ジェムソンの世界販売量は 2010年に300万ケースを超え、以後も着実に増加している。
あらゆるアイルランド製酒類に対する関心を高めたこと、またこぞってアメリカ市場を目指す他のアイリッシュウイスキー・ブランドの復活に関して、ジェムソンは実に役立ったと言える。
マーケットリーダーという地位に安住することなく、同社では多くの計画が進行中だ。いずれさらに多くのポットスチルウイスキーが必要になることが見込まれるため、蒸溜所では3,000万リットルのアルコール生産能力を6,000万リットルに倍増しつつある。分かりやすく言うと、3,000万リットルといえはグレンリベット蒸溜所またはグレンフィディック蒸溜所の3倍、あるいはボウモア蒸溜所のおよそ15倍に等しい。

ブッシュミルズ
高品質のウイスキーを世界中に送り出し続けているこの北アイルランドの蒸溜業者も、拡張計画を進めている。
スポークスマンによると、「3年前に年中無休24時間の生産体制に移行し、10基目のスチルが設置されました。オールド・ブッシュミルズ蒸溜所では熟成・貯蔵複合施設の拡張が続けられ、2005年のディアジオによるブッシュミルズ買収後は(平均して)9〜12ヶ月ごとに新たな貯蔵庫を1ヶ所建設しています。来年中にはおよそ500万リットル蒸溜する予定で、現在の蒸溜量は400万リットルです」

ベルファスト・ディスティラリー・カンパニー
宝くじに当たったベルファストの実業家、ピーター・ラバリーは、ベルファストでは100年ぶり以上になるウイスキー蒸溜所の建設を公約した。彼はベルファスト北部にある旧クラムリンロード刑務所の一部を蒸溜所に変える計画を発表した。
500万ポンドを投資して、候補建物のA棟が彼の既存ウイスキーブランド「タイタニック・ウイスキー」「ダニー・ボーイ」用の専門蒸溜所に改造される。ビジターセンター、テイスティングルーム、バー、レストラン、ショップも併設される予定で、このプロジェクトにより60人の雇用創出が見込まれるそうだ。

アイリッシュ・ウイスキー・ソサエティ
この団体は2009年に初めて非公式の会合を持って以来急速に拡大し、今ではウイスキー関連全般にわたる専門知識を求めて、蒸溜業者とメディアの両方が頻繁に相談を持ち込んでいる。
そして最近、アイリッシュ・ディスティラーズ社(IDL)の指導のもとにメンバーが選んだ最初のソサエティ公式ウイスキーをボトリングするという、同団体の発展にとって記念すべき日を迎えた。
これはミドルトン蒸溜所のシングルポットスチルウイスキーを入れて1995年1月13日からミドルトンの貯蔵庫「no. M09」に寝かされていたバーボン樽、カスクナンバー1038という樽を使用。17年以上の熟成を経て貯蔵庫から出されたウイスキーは、2012年10月17日にカスクストレングス55.2% でボトリングされた。

ビーム・グローバル社
2011年にクーリー蒸溜所を買収したこのアメリカ大手は、同社のプレミアム・アイリッシュウイスキーとしてキルベガンに重点を置き、世界的な知名度を高める予定だ。

西部では
マスターディスティラー ジョン・マクドゥーガルの監督のもと、ポットスチル3基がディングル蒸溜所に届けられ、設置された。
所有者のポーターハウス・グループはファーストバッチ(「ファウンディング・ファーザーズ(創始者)」と呼ばれる最初の投資家向け)としておよそ500リットルを蒸溜し、5年間熟成する予定だ。集めた資金はビジターセンターにも投資される。
スコットランドのスプリングバンク蒸溜所でヘッドディスティラーをつとめていたジョン・マクドゥガルが、このプロジェクトのコンサルタントとして働いている。ジョンは他にもバルヴェニー、ラフロイグ、トーモアといったスコッチブランドの蒸溜に携わってきた。

小さな島でも動き出した
2012年が終わる直前、アイルランド共和国に属する蒸溜所がまたひとつ増えるというニュースが入ってきた。
コーク州のすぐ南にあってエイドリアン・フィッツギボンが所有する、ホース・アイランドという私有島に関する計画申請書が提出されたという。彼の会社、ロアリング・ウォーター・ファーム&エンタープライズ社が、マッシングエリア、スチルハウス、ビジターセンター、ウイスキーバー併設レストランカフェ、貯蔵庫の建設計画を提出した。

WMJ追記:当記事は英語版109号に掲載されたものだが、その後さらに新たに蒸溜所が建設されるという情報が入った。The Slane Castle distillery だ。コーニンガム家はクーリー蒸溜所の原酒でブレンデッドウイスキーをつくり販売していたが、ビーム社がクーリー蒸溜所を買収したため原酒の供給が停止。自社でウイスキーの製造をすべく、1701年より一族で所有するミース州のスレイン城で蒸溜所の建設を申請した。今年の年末から建設に着手し、2014年末には操業開始予定。ちなみにこのスレイン城はローリングストーンズ、マドンナ、U2などがコンサートを行った会場としても有名。
ますます賑やかになるアイリッシュウイスキー界、今後も楽しみである。

 

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