アードベッグ、ラフロイグ、キルホーマン、カリラ、ブナハーブン、ブルックラディなどの有名蒸溜所でも、革新的なプロジェクトが進行中。アイラにはウイスキーの未来を変える底力がある。

文:ライザ・ワイスタック

 

アイラ島に点在する著名な蒸溜所たちも、国際的な需要と観光客の再急増に備えている。2021年4月、アードベッグの真新しい蒸溜棟が稼働した。効率的な熱回収システムを備えた建造物で、コロナ禍による遅れを乗り越えた3年越しのリニューアルだ。

新しい蒸溜棟が加わることで、アードベッグ蒸溜所の年間生産量は280万Lにまで拡張される。これは以前の生産量を倍増させる大きな変化だ。アードベッグのビジターセンターマネージャーを務めるジャッキー・トムソンによると、今年の生産量は250万Lを目指しているのだという。

このような大型改修は、蒸溜所長のコリン・ゴードンにとって最初の試練であったに違いない。ゴードンは前職でポートエレン・モルティングスの施設運用マネージャーを務め、長年アードベッグ蒸溜所長を務めてきたミッキー・ヘッズから2020年10月に名誉ある現職を引き継いだ。着任当時は、まだすべてが工事中だったという。

アードベッグ現蒸溜所長のコリン・ゴードン(左)と、前蒸溜所長のミッキー・ヘッズ(右)。蒸溜棟の新設による増産体制が完了した。

蒸溜棟の工事と並んで、ビジターセンターも改修が進められてきた。ここはかつて地元民たちの憩いの場としても親しまれたキルン・カフェがあった場所だ。新しいビジターセンターが開業すれば、ここにはビストロスタイルのレストランが併設され、それとは対照的にカジュアルなアードベッグのフードトラックも軽食を販売する予定だ。

このトラックは敷地内に駐車され、野外フェスティバルのような活気を蒸溜所にもたらしてくれるだろう。観光客の増加を見込んで、4月からツアーやテイスティングプログラムの内容も一新されている。

ラフロイグもまた重要な役職に変更があった。蒸溜所長のジョン・キャンベルが、昨年11月に同職を退き、現在は家族経営のベンチャー事業としてエアシャーに創設されたロッホレア蒸溜所で生産部長を務めている。

ラフロイグは2棟の貯蔵庫を新設する計画を提出し、2021年6月に地元の評議会が認可している。キャンベルの後任となる新しい蒸溜所長は、生産量が増加したラフロイグの現場を管轄することになるだろう。

キルホーマン蒸溜所にも、明るい未来が約束されている。今年の1月には2250万英ポンド(約36億円)の資金調達に成功し、これからおよそ40%の増産を目指すことになる。スタッフの数を増やし、貯蔵庫も新たに建設する予定だ。

2019年、ディアジオはスコッチウイスキー観光に1億5000万英ポンド(約240億円)の投資をおこなうと発表した。計画の土台となるのは、昨年エディンバラにオープンしたジョニーウォーカー・プリンセスストリートの開業だ。これは8階建てのアトラクションで、没入感いっぱいの体験やバーの利用が楽しめる。

これだけでなく、ディアジオが保有する他の蒸溜所の改修にも予算は回される。カリラ蒸溜所では、水辺にある広大な貯蔵庫の改修プロジェクトがコロナ禍で中断していたが、現在は建築工事も再開している。完成すると新しいビジターセンターに変身し、水辺を見渡すバーや新しいビジター体験が併設されることになる。

また長らく開業が待たれているポートエレン蒸溜所と併設のビジターセンターは、基礎と鉄骨の工事が進んでいる。今後さらなる遅れが発生しなければ、2023年の春までには蒸溜所の工事が完成して、生産を開始することになるだろう。

ブナハーブン蒸溜所でも増産に向けた動きがあり、蒸溜日が週に5日から7日に増えることになる。おそらくシングルモルトウイスキーの出荷量も増えていくことだろう。それと同時に、親会社であるディステル・インターナショナルは生産工程全体をサステナブルに変えようとしている。新しいバイオマスセンターはほぼ完成に近づき、650万英ポンド(約10億円)の巨費を投じた改修によって、年間3,500トンもの炭素排出を減らす。ブナハーブンはアイラ島で最初のネットゼロ蒸溜所となる予定だ。
 

驚きのエネルギー改革を先導するブルックラディ

 
ブルックラディにとっても、サステナビリティは引き続き取り組むべき最重要の課題となる。2021年にはバイオダイナミック・プロジェクトを発表。最初のリリースは、10年熟成のシングルモルトウイスキーだった。バイオダイナミック農法で収穫されたスコットランド初の大麦を原料としているのがユニークだ。

このバイオダイナミック・プロジェクトは、持続可能な事業のみならず、従業員、顧客、環境、地域社会への貢献を重視する「Bコーポレーション」(B Corp)の認定を受けたブルックラディらしい取り組みである。大麦を育てるテロワールについて、多角的な研究を続ける従来の方針とも一貫性がある。

テロワールにこだわるブルックラディ蒸溜所が、バイオダイナミック農法からつくったシングルモルトウイスキー。メイン写真はヘッド・ディスティラーのアダム・ハネット。

しかしこのバイオダイナミック・プロジェクトは、酒質への影響といった関心よりも遥かに大きな視点をもたらしているようだ。ブルックラディCEOのダグラス・テイラーは語る。

「最初は、テロワールがもたらす香味への影響を理解したい一心で始めたプロジェクトです。でも結局は、大地の健やかさについて真剣に考えさせられることになりました。環境全体にも直結する問題で、ある意味で土は樹木よりも影響力があるとわかったのです」

バイオダイナミック農法には、シンプルな昔ながらの農法とは程遠い複雑さがある。しかしそれを凌駕するテクノロジー開発も進行している。それは何と水から水素を取り出すエネルギー革命だ。

ブルックラディは2025年までに蒸溜工程の脱炭素化を図っており、それを実現させる代替燃料を模索している。その第一候補が水素エネルギーなのだ。英国政府からの資金提供を受け、ブルックラディ蒸溜所は「ハイラディ」と題された研究によって首尾よく実現の目処をつけた。

このプロジェクトでは、ダイナミック燃焼室と呼ばれる未来的な設備が導入される。これは水を電気分解し、真空燃焼によって液体の分子を分割するという驚きのテクノロジーだ。分解によって生じた水素は高温の蒸気を発生させ、有害物質を排出することなく蒸溜機器の熱源となる。

すべてが計画通りに進んだ場合、ブルックラディは蒸溜所の生産力も増大させる。最終的には同様の機器がアイラ島全体に配備され、アイラ島のウイスキー産業全体で環境負荷を著しく減少させることになるだろう。この奇跡のようなモルトの聖地は、そうやって再びウイスキーの歴史における地位を確固たるものにするのだ。