ジム・マレー氏 「ウイスキー・バイブル2015 『山崎』最高得点獲得」を語る

November 30, 2014

「ウイスキー・バイブル」2015年度版において、「山崎シェリーカスク 2013」がジャパニーズウイスキーとして初の最高得点を獲得。その詳細を説明する会見が行われた。

ウイスキー評論家として世界的権威であるジム・マレー氏が発表する「ウイスキー・バイブル」。著者のマレー氏は新聞ジャーナリストとして活躍後、ウイスキー専門の評論家に転身。IWSC(インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション)の審査委員長を務めるなど、ウイスキー評論の第一人者である。

今回発表された2015年度版は12年目の発行であり、広告を掲載せず公正な評価をする世界でも有数のウイスキーガイドブックとして知られている。
2015年度版では4,700銘柄のウイスキーの点数評価をしており、その中で最高得点を獲得したのが「山崎シェリーカスク 2013」なのである。初めてジャパニーズウイスキーが歴代の最高得点に並ぶ97.5点を獲得し、「ワールド・ウイスキー・オブ・ザ・イヤー」を獲得したことで、様々なメディアに登場し話題になっているのは皆さんもご存じのとおり。
11月12日、マレー氏が緊急来日し会見が開かれ、その会見に先立ち、ウイスキーマガジン・ジャパンは単独インタビューのお時間をいただいた。

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ウイスキーマガジン・ジャパン(以下WMJ) 今日はお時間をいただきましてありがとうございます。来日はお久しぶりだそうですね。ウイスキーライヴ東京の創成期には、故マイケル・ジャクソン氏とお力添えをいただきました。
今回「ウイスキー・バイブル2015」にて「山崎シェリーカスク 2013」に最高得点を与えられたわけですが、その経緯をお話し下さい。

ジム・マレー氏(以下JM 私がジャーナリストとして初めてウイスキーの蒸溜所に訪れたのは1975年、タリスカー蒸溜所でした。それ以来世界各地の蒸溜所を訪れ、様々なウイスキーをテイスティングしてきました。
その中で日本のウイスキーに出会ったのは1976年頃だったかと思います。その後80年代には50~60種類程のジャパニーズウイスキーをテイスティングしました。その時の感想としては、“acceptable”(好ましい・悪くない)でした。しかし私は車にせよ電化製品にせよ、日本人の技術の高さや研究心を知っていましたので、きっと今後凄いものが出来るだろうと思っていました。

WMJ その後90年代以降、予測されたとおりジャパニーズウイスキーは世界で評価が高まっていきました。

JM これまではヨーロッパの人々はジャパニーズウイスキーを目にすることもあまりなく、購入する機会もわずかでした。だから「ただ知らなかった」だけなのです。最近ではインターネットの普及や、メーカーの方々の努力で海外でもジャパニーズウイスキーそのものやそれに関する情報に触れる機会が増え、実際にその良さを感じることが出来るようになったのです。

WMJ なるほど、確かに以前に比べれば今は海外でも入手しやすくなっているそうですね。

JM ええ、そして初めてその品質の素晴らしさに気付いた時私は、これはスコットランドのウイスキー業界にとって「アイ・オープナー」になると思いました。スコットランド人たちは、常に自分たちの製品は称賛され、人々に喜ばれるものであると確信していましたし、ある人々は努力して良いものをつくろうという姿勢を失っていました。日本から学ぶことはたくさんあると、私は彼らに訴えていました。

WMJ 「スコットランド人よ、目を覚ませ」と警鐘を鳴らされたと。

JM ジャパニーズウイスキーは、これまでそのような称賛を浴び、自信過剰になるような立場に立ったことがありませんでした。ゼロからの出発です。常に上を見続けていました。
製造工程も、熟成中の樽の管理なども、日本人は非常に細やかに神経を配ります。そのような努力が実って、スコッチを打ち負かすような優れたウイスキーが次々と誕生しました。この「山崎シェリーカスク 2013」に至っては、形容しがたいほど素晴らしいものでした。だからその通りに評価した…それだけのことです。

WMJ 今回の山崎の最高得点獲得は決して突発的に起こったものではなく、長年の努力の積み重ねであり、同時にスコッチ業界へのカンフル剤となることも期待されているということですね。貴重なお話をありがとうございました。

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その後行われた会見では、改めてマレー氏が「山崎シェリーカスク 2013」を一位に選出した理由を説明。
マレー氏は「世界のどの場所でつくられていようと関係ない。素晴らしいスピリッツを理想的な樽に詰め、適正な熟成をしてきたものが優れたウイスキーになる。私はその過程を経たウイスキーを平等にリスペクトしている」と説明したうえで、「競馬の追い込みと同様、ジャパニーズウイスキーはぐいぐいと追い上げてきた。ここ6年ほどの間に、世界の最高レベルに並んだかと思ったら、あっという間に抜きんでてしまった」と語る。
さらにテイスティングの方法について、「全く何の香りもしない環境―今回のウイスキー・バイブル2015作成にあたっては、人里離れた田舎のコテージで、屋外で食事をするなど室内には一切他の香りを持ち込まないほど厳密な環境を整えて行った。朝7時から夜8時まで、週6日をテイスティングに費やし、5ヶ月かけて1,146種のニューリリースウイスキーの評価をした」と語った。

その後、「山崎シェリーカスク 2013」のサンプルとともに、マレー氏による究極のテイスティング方法が説明された。
マレー氏はテイスティングの合間にブラックコーヒーを飲み、舌を整える。ウイスキーへの加水は一切せず、スワリング(グラスを回すこと)も行わない。
まず香りを確認し、片手でグラスを包み込み反対の手でフタをして、ウイスキーを温める。液体が体温ほどに温まったら、もう一度香りを確かめ、一旦口に含んで吐き出す。この時のフレーバーはカウントしない。
2回目は口の中全体にウイスキーを行き渡らせ、舌を出してアルコールを放出しつつ空気を取り込みながらフレーバーを確かめる。そして同様に3回目を行い、この2回目と3回目で感じられたアロマとフレーバーでウイスキーを評価するそうだ。

実際にその方法で記者もテイスティングを行ってみたところ、確かに3回目ではアルコールの刺激を感じることなく、純粋にウイスキーの柔らかさを実感できた。
シェリー由来の濃厚なボディが発揮され、ベルベットの滑らかさとナッツ、コーヒーのような香ばしさ、トフィーやチェリー、チョコレートの甘みが引き立てられた。2回目では感じられなかったほのかな水仙の香りとハニカム(蜂蜜に入っている蜂の巣)のアロマが徐々に姿を現し、非常に興味深いテイスティングを体験する機会となった。

マレー氏が発表する「ウイスキー・バイブル」は個人によるものではあるが上記のとおり厳正なテイスティング法を駆使したガイド的評価である。一方ウイスキーマガジンにおいて開催する「ワールド・ウイスキー・アワード」は複数の審査員がブラインドで行うコンペティション。他にも世界各国で行われるコンペティションや評論などが多数あるが、すべて人間の官能能力による評価方法であり、それぞれ別の意味合いを持つ。

しかしいずれにおいても、ジャパニーズウイスキーが高く評価され、最高賞を多数受賞していることは事実である。評価が全てではなく、ウイスキーは人それぞれの好みに合わせて愉しむべきものではあるが、こうして専門家に認められたウイスキーの素晴らしさを自身で体感することは有意義なことではないだろうか?
「山崎2013 シェリーカスク」はヨーロッパ限定品ですでに完売しているため国内で味わうことは難しいが、それと同様の品質管理が行われ、同じだけつくり手の愛情が込められた「山崎」のラインナップを、ぜひ改めてじっくりと味わっていただければと思う。

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