「ジム・マッキュワン ウイスキー エクスペリエンス」レポート

December 8, 2014

11/18に行われた、ジム・マッキュワンによるブルックラディのテイスティングイベント「ジム・マッキュワン ウイスキー エクスペリエンス」をレポートする。

アイラ島伝説の男、ジム・マッキュワン氏。少年時代のラフロイグのピート切り出しのアルバイトから始まり、ボウモアを経て現在のブルックラディに至った、50年以上をアイラ島のウイスキーとともに生きた「生粋のアイラ男」である。

この日、彼は日本の地で教壇に立った。
会場は学校を改装した「アーツ千代田3331」。参加者は作業台のような机を囲み、黒板を背にしたジム氏のレクチャーを聞きながら4種のブルックラディのラインナップを味わうという、ユニークなテイスティング会だ。

ジム氏はまずブルックラディの特色を説明。
ノンチルフィルター、ノンカラーリング…今では、ウイスキー好きの方なら聞き慣れた言葉だろう。しかし、ジム氏はそれを非常に分かりやすく視覚的に説明する。グラスに指を入れ、指先にウイスキーの滴をつける。そのまま会場内を歩き回っても、滴は落ちることはない。
何故か?
ウイスキーに含まれる天然の油分…通常チルフィルター(冷却濾過)をする際に、この味と香りがぎゅっと詰まったオイルも取り除かれてしまう。
ブルックラディではそれを行っていないため、ウイスキーは自然な状態でボトリングされ、本来の魅力を失うことはない。「ありのまま」にこだわるブルックラディのポリシーだ。

そしてジム氏はおもむろにコーラの缶を手にし、ウイスキーの入ったグラスに注ぎ込む。
「さあ、ここにあるのは25年もののシェリー樽熟成のウイスキー…
と、騙されてはいけませんよ。これはE150、カラメルの仕業です。私はウイスキーに色を付けたり、大切なお客様の体に不要なものを入れたりなどしたくありません。もともとのウイスキーが素晴らしければ、こんなごまかしをする必要はないのです」
最初は驚いたり吹き出したりした参加者も、その事実に気づいて真剣な表情になっていく。

それから4つの試飲アイテムについて、ジム氏はじっくり語り始める。
「ブルックラディ スコティッシュ・バーレイ」「同 アイラ・バーレイ」「ポートシャーロット スコティッシュ・バーレイ」「オクトモア スコティッシュ・バーレイ」…昨年発売となったブルックラディのコアレンジである。

そのなかでジム氏が特に力を入れて説明したのが「ブルックラディ アイラ・バーレイ」だ。
アイラの酪農家は、2000年代初頭に狂牛病の影響によってすべての牛を処分せざるを得なくなった。途方に暮れた彼らに、ジム氏は提案した…「私たちのために大麦を作ってくれないか」と。
牛を育て、チーズを作っていた彼らにはもちろん大麦の栽培の経験はない。しかし第一次世界大戦前には確かにこのアイラ島でも大麦は育っていた、そのアイラ産の大麦を取り戻すために、ジム氏と農家の人々は協力して大麦の栽培を始めたのである。
アイラ島は海風が強い。その風に負けないようしっかりと根を張る、また島の中でも異なる土壌に合わせて最適な品種を選んだ。最初は数軒だけだったが、その成功を見るうちに参加する農家が増えた。今では年間1,500トン以上の大麦がブルックラディのために作られている。
ジム氏がウイスキーのつくり手としてだけでなく「アイラ人」として評価されているのは、このように地域の人々と手を取り合ってものづくりを進める姿勢である。島での生産にこだわるのは、ローカルビジネスの活性化に寄与するためでもあるのだ。

「アイラ・バーレイ」だけでなく、「スコティッシュ・バーレイ」シリーズは、その名の通りスコットランド産大麦のみを使用している。つまりブルックラディ蒸溜所のウイスキーは、アイラ島を含むスコットランド産の大麦を使用し、アイラで熟成、ボトリングされ、チルフィルターも着色もなく、自然な状態のまま世界中に送り届けられているのだ。これらテロワールを表現したウイスキーこそ、ジム氏が最もつくりたかったウイスキー…参加者たちはそのジム氏の熱い思いに強く共感し、グラスを見つめながらゆっくりと味わいを確かめる。

  

ウイスキーは長い時間と自然の恵み、そして職人の情熱で生み出される、特別な酒…その素晴らしさは、つくり手から直接話を聞くことで何倍もの濃さで心に沁みていく。セミナーやイベントの醍醐味はまさにここにあると言っていい。

授業の最後では「杯の儀式」…参加者たちは椅子の上に立ち机に足をかけ、アイラの戦士に変身した。
なんとも風変りな教室内の光景だが、ウイスキーに込められたジム氏の想いとブルックラディのこだわりは、間違いなく「生徒」の心のノートに綴られたはずだ。

そして、ジム氏が満を持して世に送り出す新商品―ブルックラディの完成形のお披露目が後日行われた。
その様子は改めてレポートするので、こちらもどうぞお楽しみに。

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