ケンタッキーの躍進(3)コッパー&キングス【後半/全2回】

March 2, 2017


徹底した手づくりを貫く理由のひとつには、やがて訪れるであろうブランデーブームへの準備もある。クラフトディスティラリーが隆盛する米国で、世界の先駆けとなるかもしれないコッパー&キングスのアプローチを学ぶ。
 
文:ステファン・ヴァン・エイケン

 

コッパー&キングスのセラー(貯蔵庫)は2棟ある。1棟に約1,200本、もう1棟に約2,000本のバレルを貯蔵している。ともに大規模なソレラシステムを採用しており、中身のスピリッツは頻繁に移し替えられたり循環させられたりしている。ここがウイスキーの発想と大きく異なる点だ。ウイスキーはヴァッティング、マリイング、後熟、ボトリングなどの段階までスピリッツと樽を1組のペアで考えるため、ここまで複雑な樽の移し替えはおこなわない。

2棟あるセラー(貯蔵庫)では、ソレラシステムで頻繁な詰め替えがおこなわれる。地元で簡単に調達できるバーボン樽の他に、シェリー樽も並んでいる。

コッパー&キングスの主力製品たち。手づくり感いっぱいの高品質なスピリッツばかりだ。

セラーを眺めていても、ソレラシステムの様子を把握することは難しい。それでもコッパー&キングスで誰もがすぐに気付く独特の熟成法がある。それは「ソニック熟成」だ。各セラーに5台のサブウーファーが設置され、熟成中のお酒に音楽を聴かせているのである。ブランドンが説明する。

「コッパー&キングスはみんな音楽好きですが、それも生半可ではありません。音楽を流しながら樽に触れると、中でブランデーが踊っているのを実際に感じられるんですよ。個人的にはブルーグラスが好みですが、あらゆるジャンルの音楽をかけています」

こんな細部へのこだわりや慈しみは、ボトリングのために樽空けするときにも変わらない。

「チルフィルターは使用しません。ここまでさまざまな努力で獲得したフレーバーの一部を、チルフィルターで取り除くなんて考えられませんから。ボトリングのために度数を下げるときでさえ、 フレーバーを損なわないようスムーズな移行を心がけています」

樽入れ時の度数は134プルーフ(67%)で、加水なしのオードヴィーがそのまま投入される。ボトリングの前に、熟成済みのスピリッツは樽から大小2種類のタンクに移される。大きなタンクは主力製品用で、小さいタンクは限定品用だ。大きなタンクを使って度数を下げる例をブランドンが説明してくれる。

「4〜5日ごとに、度数を2〜3%ずつ落としていきます。そのため例えば115プルーフ(57.5%)程度まで下げるのに1カ月ほどかかります。その後、タンク内の3分の2だけをボトリングします。3分の1は残しておいて、そこに新しく樽空けしたスピリッツを加えるのです。これは製品の一貫性を保つという意味だけでなく、あらゆることをゆるやかにおこなうためのアプローチです」

言うまでもなく、ここでは熟成感を底上げするような砂糖、カラメル色素、フレーバーなどの添加物は一切使用しない。

 

アブサンもブランデーがベースの本格派

 

ブドウとリンゴのブランデーに加え、コッパー&キングスでは4種類のアブサンと樽熟成のジンをつくっている。このアブサンは、よくあるニュートラルなグレーンスピリッツを使用するのではなく、ブドウのブランデーをベースにした由緒正しい製法を採用している。

アブサンのボタニカルは初溜を終えたローワインに12時間ほど漬け込まれてから2回めの蒸溜に入る。蒸溜後にフレーバーや色素を注入することはない。アブサンの種類は、レギュラー、ラベンダー、シトラス、フレッシュジンジャーの4種類。社長がジン好きとあって2種類のジンも樽熟成でつくられており、数量は少ないが「ストレイキャット」レーベルで商品化されている。

コッパー&キングスの生産期間は9月から6月まで。2015年までは週5日の操業だったが、昨年から年中無休の24時間操業に変わった。

「これで必要な原酒のストックが確保できるようになりました。それに昨年はカリフォルニアのブドウの出来がとてもよかったという理由もあるんです」

ビジターセンターやショップは、コンテナをリサイクルした建造物。こんなところにも環境に配慮する企業の姿勢が見て取れる。

コッパー&キングスでは誰もが忙しく働いているが、蒸溜所の仕事は上質なスピリッツをつくることだけに留まらない。ここでは地域コミュニティとの関係も密接だ。蒸溜所を建設するときは40社以上の地元企業と取り引きがあり、会社施設もたびたび地域のチャリティやイベントの会場になっている。建物の2階にはアートギャラリーがあり、環境保護活動にも熱心だ。蒸溜所の周辺はオオカバマダラなどの蝶が繁殖できる庭に取り囲まれている(蒸溜所のシンボルカラーはオオカバマダラと同じオレンジと黒だ)。さらに18枚のソーラーパネルを設置して、環境への影響を最小限に留めているのだとブランドンは語る。

「残念ながら、会社の敷地は広さが限られています。それでも面白いことに、ここでソーラーパネルを取り付けたあとから、近隣でも同じ動きが広まったんです。蒸溜所の屋上から見渡すと、たくさんのソーラーパネルが見えますよ。環境保護のために、みんなが動き出しているんです」

コッパー&キングスの製品は、まだ日本で取り扱われていない。だがこの国の目利きたちが、素晴らしい品質に気付くのは時間の問題だろう。日本にもブドウと蒸溜技術はすでにある。現在のクラフトウイスキーブームの後に、日本で小規模なブランデーやアブサンのメーカーが出現してきても不思議はない。それがコッパー&キングスのような精神を持った生産者なら、まさに大歓迎である。

 

 

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