ケンタッキーの躍進(1) フォアローゼズ蒸溜所

November 2, 2016

バーボンの本拠地で進行中のさまざまな取り組みが、数年後には消費者への恩恵となって現れるだろう。ケンタッキーの躍進を牽引する3つの蒸溜所を、日本在住ジャーナリストのステファン・ヴァン・エイケンが訪ねる。

文・写真:ステファン・ヴァン・エイケン

 

現在のフォアローゼズには、高揚感がありありと漂っている。昨年9月に旧任のジム・ラトリッジ氏に代わってブレント・エリオット氏がマスターディスティラーとなり、彼の舵取りで進むブランドの未来も視界良好だ。2005年に品質管理部門のアシスタントマネージャーとしてフォアローゼズにやってきたブレント氏は、蒸溜所とウイスキーを細部まで熟知している。ここ数年間で手がけてきたスペシャルエディションの内容を見るに、彼が手持ちのさまざまな原酒から的確な表現を打ち出す才に秀でていることは明らかだ。

この原稿を書いている段階で最新のスペシャルエディションは、シングルバレルの限定ボトル「エリオッツ・セレクト」。フォアローゼズがここ数年で発表してきたウイスキーのなかでも最高品質のひとつに数えられるだろう。今の時点で、この14年熟成のボトルが日本市場に導入される可能性は不明だ。少なくとも、アメリカでは瞬く間に売り切れてしまった。

レシピが異なる原酒を、それぞれニューメイクと熟成済みでテイスティングすることができた。フォアローゼズのスペシャルエディションは大人気で、アメリカでは発売後すぐに売り切れる。

ブレント氏はさらなる特別ボトルのリリースを用意している最中であり、幸運にも彼のラボでその計画の一端を味わうことができた。まだ多くは語れないが、今後のフォアローゼズの動向からは目が離せない。

1888年に創業したフォアローゼズはケンタッキー屈指の歴史を誇り、禁酒法時代にも操業を許されたほんの一握りの蒸溜所のひとつでもあった。1943年にブランドを買収したシーグラムは、アメリカ産ストレートバーボンではなくブレンデッドウイスキーのカテゴリーに位置づけた。しかし2002年から親会社となったキリンは、再びフォアローゼズをストレートバーボンウイスキーのブランドとして定義しなおした。当時のフォアローゼズには潤沢な在庫があり、まさに機は熟していた。数十年間の低迷期を乗り越え、バーボンは再び急激な需要上昇の時代を迎えていたのだ。キリン傘下に入ったことも幸いして、フォアローゼズは再びトップクラスの品質を誇るストレートバーボンとして認知されるようになる。

 

品質は変えず、生産量を倍増させる計画

 

さらなる市場の拡大を見込み、現在のフォアローゼズは野心的な設備投資プログラムの最中にある。ローレンスバーグ近郊にある蒸溜所の近くに、新しい生産拠点を建設して生産力を倍増させる計画が進行中だ。

現在、蒸溜所では23槽の発酵槽と1槽のビアーウェルが使用されている。これらの多くは木製(旧式はアメリカヒノキ製で、新式はベイマツ製)だが、一部スレンテス製もある。フォアローゼズの生産拡大方針は、設備を倍にしながらスペックは現状を保とうというもの。つまり発酵槽の数を倍に増やしつつ、木製とステンレス製の割合は同じにする。コラムスチルとダブラーについても同様だ。それぞれ新しい設備が、現在使用しているものと完全に同じスペックで拡張工事期間中に導入される。

フォアローゼズでは、2種類のマッシュビルと5種類の酵母菌株が使用されており、これが10種類の異なったレシピを生み出している。発酵槽の8槽分を1バッチとして、月に22バッチを生産する。発酵時間は84時間で、1日に採用するレシピは1種類のみである。

コックスクリークにある6段積みの貯蔵庫。この敷地だけで35万樽のフォアローゼズ用バーボン原酒が熟成中だ。

マスターディスティラーのブレント・エリオット氏によると、レシピにはそれぞれ固有の特徴があり、熟成プロセスのピークも異なってくる。7~8年で熟成完了の状態になるものもあれば、12~15年かけて最高の状態に至るものもあるという。

「最適なレシピについてはまだ研究中です。例えば、軽やかでフルーティーな特徴をもたらす『Qイースト』でつくったバーボンは、ほとんどが5~6年熟成の商品に使用されています。これはさほどリッチな風味を生み出すわけでもないのですが、10年くらい熟成させると非常に面白く変化してくるのに気づいて驚きました」

すべてのバッチは4年熟成した段階で評価され、7年時にも再び吟味しなおされる。手間がかかるのはシングルバレル商品だ。あるバッチが素晴らしい品質であると判明したとき、フォアローゼズではバッチ内のバレル280~290樽をひとつ残らず調べるのだ。蒸溜所の拡張プログラムは2018年中に完了する予定だが、その後はブレント氏もチームメンバーもさらに多忙を極めることだろう。

拡張計画で興味深いのは、現存の蒸溜所を建築したジョセフ&ジョセフという建築会社が、新しい蒸溜所施設の施工も担当することである。フォアローゼズ蒸溜所の建物は、ケンタッキーでは珍しいスパニッシュ・ミッション・スタイルで1910年に建設された。この同じ建設会社が、1世紀以上前の設計図や建築材料などを参照しながら拡張工事も手がけるのである。精確なレプリカを建てるのが目的ではないが、現存の建築物と高い親和性を保った建築が構想できるのは利点だ。現在は蒸溜所で生産と見学者の受け入れも継続しつつ、建築プロジェクトをいくつかのステージに分けて遂行することに苦心している。

 

もうひとつの生産拠点、コックスクリーク

 

フォアローゼズのバーボンは、蒸溜所から車で1時間ほど離れたバーズタウン近郊のコックスクリークの貯蔵庫で熟成される。ブレンデッドウイスキーの大手だった全盛期のシーグラムはケンタッキー州内に5つの蒸溜所を保有していたが、このコックスクリークを熟成の本拠地とした歴史がある。

現在のコックスクリークは、フォアローゼズ専用の熟成とボトリングをおこなう場所。12万平米(30エーカー)以上の敷地に20棟の貯蔵庫があり、数年内に4~8棟が新設される予定だ。かつてこの敷地内では約30頭の牛が草を食んでいたが、拡張工事のため3年前に他所に移されている。

貯蔵庫はすべて平屋建てだ。同じサイズで1950年代に建てられ、屋内ではバレルが6段積みになっている。室内の温度調整は窓の開閉のみ。各貯蔵庫にはバレル24,000本が収納できるが、大半は樽の追加や移動がしやすいように70%ほどの収容率で稼働させている。施設内では、現在約バレル35万本が熟成中。ちなみにここから車で5分のジムビームでは約200万本、ケンタッキー州全体では約600万本のバレルが眠っていることを知れば、数値のイメージがつかめるだろう。

蒸溜所が稼働している日は、1日にタンクローリー2台分のニューメイクが蒸溜所からコックスクリークまで運ばれてくる。そしてここでインディペンデント・ステイブ社が供給する「チャー4番」の処理を施したウイスキーバレルに1日約300樽ペースで樽詰めする。

コックスクリークから、タンクローリーに入れられて日本に向かうバーボン原酒。ボトルの輸送コストを抑えるため、フォアローゼズ商品の一部は日本とヨーロッパでもボトリングされている。

コックスクリークではボトリングもおこなわれる。今年前半には、世界的な需要増大に応えるべく新しい瓶詰め設備が導入された。これまでのボトリングホールは1分間に40本という瓶詰め速度だったが、新しい設備はその4倍速で1分あたり160本を瓶詰めできる。この高速ラインは、イエローラベルとスモールバッチのボトリングに採用されている。高速ラインの隣で瓶詰めされているのはシングルバレル商品。このラインは旧式ラインのような形式と処理時間だが、設備自体は最新のものだ。スタッフによると、シングルバレル1本分を約10分で瓶詰めするという。

コックスクリークには大勢の訪問客がやってくる。そのため新しいボトリングホールを設計するときも、フォアローゼズはビジターの視点を忘れずに考慮した。ボトリングホールの一辺全体に伸びる中2階があり、来訪者はそこからすべての作業が見渡せる。新しいボトリングホールは、2016年10月から稼働している。

 

 

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