米国内のイノベーションを先導し、世界の需要増に応えるアメリカンウイスキーの最重要地域。ケンタッキーの最新情報を網羅する3回シリーズ。

文:マギー・キンバール

 

ケンタッキーバーボンは、今でも大きな成長を続けている。ケンタッキー州では驚くべきスピードで生産施設の建設が進み、毎月のように新しいブランドが誕生しているのだ。

新しいウイスキーファンは、今までよりも厳密にバーボンの品質を評価している。そのようなニーズに応えているブランドの代表がミクターズだ。

米国の観光業全体は低迷しているのに、バーボンの原産地であるブルーグラス・ステイト(ケンタッキー州の愛称)には記録的な数の観光客が訪れている。バーボンブームの勢いは、留まるところを知らないようだ。ウイスキー愛好家にとっても喜ばしい現象である。

この現象から垣間見えるのは、量より質という価値観だ。ケンタッキーバーボンは、ようやく品質と複雑な香味を評価される時代に入ったといってもいい。そんな見地から喜びを語っているのは、ミクターズで熟成マスターを務めるアンドレア・ウィルソンだ。

「アメリカンウイスキーは、アメリカ国内だけでなく世界中で人気がうなぎ登りです。ミクターズでは品質への一貫したこだわりを強調していますが、この方針のおかげでブランドの人気が加速し続けてきました。現在は蒸溜、熟成、ボトリングなどの生産工程をスケールアップするために大規模な投資を続行中です」

ミクターズの量産計画は本格的だ。2022年には週5日間、1日24時間という密度の高い蒸溜スケジュールに移行し、2023年には週7日間で24時間という年中無休の操業体勢までに拡充する。みずからが打ち出した「最も偉大なアメリカンウイスキーづくり」という目標に照準を合わせ、将来にわたって投資の継続を約束している。

ミクターズだけでなく、ケンタッキー州内の他の蒸溜所も人気を追い風にして継続的な事業拡張に乗り出している。倉庫機能の拡大、糖化設備の増強、スチルの大型化、発酵槽の増設、乾燥棟の増築などが各地で進行中だ。

ケンタッキー州北部のニューリフ蒸溜所は、新たに3槽の発酵槽を増設することで年間生産量を8000バレルから1万2000バレルにまで増やしたばかり。敷地面積1万2千坪の貯蔵庫新設にも着手し、4万樽以上の樽を貯蔵できるようになる。創業者のジェイ・エリスマンによると、貯蔵庫機能はさらに拡張の余地もあるという。
 

坂茂の設計による蒸溜所が着工

 
ケンタッキー州バーズタウン近郊で、総工費1億5千万米ドル(約200億円)の蒸溜所を建設中なのがケンタッキーオウルだ。一度は建設計画が頓挫したものの、再び動き出すことになった。ケンタッキーオウル不動産の社長を務めるデービッド・マンデルは、経緯を次のように説明している。

「過去18カ月間、建設予定地に水が溜まって地形が変わってしまいました。そのため敷地の再評価が必要になったんです。周囲の環境の美しさも重要ですが、建築可能なエリアを調整する必要もありました。坂茂(ばん・しげる)さんが率いる設計チーム、それに地元の建設業者とも話し合い、この機会に敷地の運用を検討しなおしました」

増産を進めるケンタッキー州北部のニューリフ蒸溜所。新しいアメリカンスタイルの創造者として注目されている(メイン写真もニューリフ蒸溜所)。

チームが新たに作成した建築計画は、全体で3段階に分かれている。第1段階では仮設ビジターセンター、ケンタッキーオウル・ピラミッド蒸溜所、貯蔵庫2棟、小さな手作業のボトリングラインを備えたビジター用貯蔵庫を建設予定。仮設ビジターセンターの基本設計は完了しており、その他の建物の基本設計も進行中だとマンデルは言う。

「今年の秋の終わりから初冬にかけて、敷地内の工事を開始する予定です」

このような設備投資は、ケンタッキー州全域でおこなわれている。ほとんどの計画で、ビジター体験が最重要視されているのも特徴だ。エンジェルズ・エンヴィは、約370坪の拡張工事を終えたばかり。新しいテイスティングルーム、イベントスペース、ツアー客向けのボトリング体験コーナーを備えている。

ヘブンヒルは、1,900万ドル(約25億円)をかけて改装したバーボン・ヘリテージ・センターをオープンし、その直後に総工費1億3,400万ドル(約1,594億円)に及ぶバーズタウン蒸溜所の新設計画を発表した。またバッファロートレースは12億ドル(約178億円)の設備投資を進めており、新しいコラムスチルを追加した。

ラックス・ロウは、ライウイスキーの有力メーカーであるインディアナ州のミッドウエスト・グレーン・プロダクツと合併し、現在400万ドル(約5億3千万円)をかけて拡張工事中である。ホース・ソルジャー・バーボンは、ケンタッキー州サマーセットに製造拠点のアーバン・スチルハウスをオープンし、カンバーランド湖の近くでも総工費2億ドル(約266億円)の蒸溜所を建設している。

バーズタウン・バーボン・カンパニーは、2,870万ドル(約38億円)の設備拡張を計画している。ウィルダネストレイル蒸溜所は年間で2万バレル分の生産力をアップしようと計画し、新しい発酵槽をいくつか追加して貯蔵庫も新設する予定だ。創業者のジェームズ・E・リッパーは、同社初のリックハウスを着工し、完全に自社内で蒸溜した初めてのバーボンをまもなくリリース予定である。
 

老舗ブランド各社も大型投資を断行

 
クラーモントにあるジムビーム蒸溜所は、昨年フレッド・B・ノウ蒸溜所をオープンしてフレディ・ノウを責任者に据えた。そのフレディは、ジムビームの8代目マスターディスティラーに任命されている。昨年オープンしたばかりのログ・スティル蒸溜所は、バッファロー・トレースの元ホームプレイス開発ディレクターであるメレディス・ムーディをチーフ・エクスペリエンス・マネージャーに招聘している。

伝統あるジムビームの8代目マスターディスティラーに任命されたフレディ・ノウ。紛れもなくバーボン新世代を象徴する人物の一人だ。

またジム・ラトリッジが設立した新ブランドのブルーラン・スピリッツが、ウイスキーディレクターにワイルドターキーの地域アソシエイト研究開発サイエンティストだったシェイリン・ギャモンを任命した。

キャッスル&キーは、ケンタッキー・ブラック・バーボン・ギルドと提携して、今年初めにようやく初のバーボン商品「アントールド・ストーリー・オブ・バーボン」を発売。ヘブンヒルのエヴァン・ウィリアムス・バーボン・エクスペリエンスは、サムソン&サリー(シカゴとブルックリンにアメリカンウイスキーの蒸溜所を所有)を買収した。ケンタッキー州外にも拠点を拡大する直前に、自前の蒸溜所内で蒸溜した初のバーボン商品「スクエア6」をリリースしている。バザーズ・ルーストは昨年より数々の賞を受賞し、革新的な新しいウイスキーをリリースし続けている。

2022年に創業25周年を迎えたウッドフォードリザーブは、マスターディスティラーのクリス・モリスとアシスタントマスターディスティラーのエリザベス・マッコールが精査した最新のディスティラリーシリーズ「トーステッドオーク・オートグレーン」をリリースした。ブラウン・フォーマンの元社長でケンタッキー・アーティザン蒸溜所の創設者でもあるスティーブ・トンプソンが2021年9月に79歳で他界した直後の動きである。トンプソンは生涯のウイスキーの知識を携えて旅立った。

米国と英国は、大西洋をはさんだ鉄鋼とアルミニウムの追加関税をめぐる問題が解決されて安堵している。同様にウイスキーの相互関税の問題もついに収束し、双方のウイスキー関係者が歓迎しているところだ。これはケンタッキー州のウイスキー業界全体の財政状態にとっても良い兆候である。

メーカーズマークは、サステナビリティへのコミットメントを示すBコーポレーションの認証を取得。さらにはウィスキードロッププログラムを開始し、バーズタウン郊外に宿泊可能な歴史的家屋「サミュエルズ・ハウス」をオープンさせた。

ケンタッキー蒸溜酒業者協会(KDA)は、「ケンタッキーバーボン」の公式ブランディングを発表。最近はプライベートバレルピックの慣習に異議を唱えられ、その後ケンタッキー州議会によって救われるという一時の危機に対処した。

ジェームズ・B・ビーム研究所は、人材育成の切実なニーズに応えるべく業界初のウイスキー人材の見習いプログラムを提供。蒸溜酒製造業界で働きたい人々の養成に取り組んでいる。
(つづく)