木内酒造額田蒸溜所とジャパニーズウイスキーの革新【後半/全2回】

September 27, 2016

クラフトビールファンにはおなじみの木内酒造が、ウイスキーづくりに乗り出した。アメリカのクラフトディスティラリーを参考にした額田蒸溜所から、真に革新的なジャパニーズウイスキーが生みだされる日は近づいている。

文・写真:ステファン・ヴァン・エイケン

 

バーボンカスクはシカゴのコーヴァル蒸溜所から調達した。ウイスキーにイノベーションを起こす日米の同志である。

開拓者精神が旺盛な木内酒造は、蒸溜酒づくりでも革新的な手法を模索している。2016年2月に稼働したばかりの額田蒸溜所では、ウイスキー以外の蒸溜酒も生産することになるはずだ。だがまずは同社の基本的なウイスキーづくりの工程について解説しよう。

ウイスキーづくりの最初のステップはマッシュだが、やはりビールメーカーとあって既存のビール醸造の設備でマッシュがつくられる。初めての蒸溜から6ヶ月が経った現在、額田蒸溜所のスタッフは主にドイツ産の二条大麦をウイスキーの原料に採用している。国産の小麦を試験的に使用したこともあったが、当面の計画では2005年から栃木県で栽培されている新しい大麦品種「サチホゴールデン」を原料にしたウイスキーをつくることになっている。

約4,500リットルのマッシュ2回分が、蒸溜所そばにある12,000リットルのタンクに移され、約3日間にわたって発酵される。イーストはおおむねドライタイプのウイスキー用酵母を使用しているが、木内敏之氏によるとベルギー産の上面発酵酵母を使用したバッチもいくつかある。この酵母を使用するとスピリッツに繊細なスモーク香が加わるため、「スモーキーウイスキー」へのユニークなアプローチになると木内氏は考えている。ピーテッドモルトを使用しなくとも、発酵時にスモーキーなフレーバーが生成されるのは実に興味深い。

発酵が終わったウォッシュは、3槽の貯蔵タンクに送られて蒸溜を待つ。蒸溜設備は、木内酒造の要望で細かく仕様を決めた中国製の特注品だ。蒸溜責任者のサムことイサム・ヨネダ氏(両親は日本人とスコットランド人)が、蒸溜プロセスを詳細に説明してくれた。

「ここではポットスチルにコラム式スチルを付設したハイブリッドスチルを使用しています。アメリカのクラフトディスティラリーではかなり人気の高いタイプですが、これを初めて日本で導入したメーカーのひとつが木内酒造なんです」

ポットスチルの容量は1,000リットルだが、ポットの最上部に触れたりラインアームに溢れだしたりしないよう、蒸溜時にはおよそ700リットルぐらいまでしかウォッシュは入れない。ポットスチルはスチーム加熱で、気化したアルコールが水平のラインアームを通ってコンデンサーに向かう。

一部のスピリッツはコラムまでたどり着き、フィルターのように銅との接触機会を増やす4つのプラットフォームを通って再び上昇する。たくさんあるサイドバルブもアロマ、フレーバー、純度、アルコール度数などに影響を与えるのだという。

「このような蒸留器の設計が、蒸溜中にどのような影響を与えているのかは、蒸溜後のスピリッツの香りと味を確かめてみるまでわかりません。スピリッツは水とグリコールに分かれて冷却タワーの上を通過して、気体だったアルコールが液化します。これがスチルから流れだして、ドラム缶に注がれるのです」

 

独自のアプローチでジャパニーズウイスキーの新境地へ

 

特注したハイブリットスチルがウイスキーづくりの要。来春にはもうひとつの新しいスチルが加わる予定だ。

木内酒造額田蒸溜所の生産量は、まだかなり小規模である。700リットルのウォッシュから最終的に得られるニューメイクは60〜80リットルほど。しかし設備の拡張計画は着々と進んでいる。木内酒造は新しい5,000リットルのハイブリッドスチルを、同じ中国のメーカーに発注済みだ。すべてが計画通りに進めば、スチルは2017年の初頭に納品される予定である。

現在のところ、ニューメイクを貯蔵するカスクは包装用倉庫の2階にある蒸溜所の隅に保管されている。最初の半年間で使用したカスクは9本。シェリーバット4本、バーボンバレル2本(シカゴのコーヴァル蒸溜所で使用された110リットルの小樽)、バージンオークのヘリテージバレル2本、ヘッドを桜材で作った特殊な桜バレル1本という内容だ。すべてのカスクをテイスティングさせてもらったが、まだ貯蔵したばかりにも関わらず、特にシェリーカスクと桜カスクが驚くべき熟成の兆候を見せていた。

木内敏之氏は、「真のジャパニーズウイスキー」をつくることが目的であると断言している。技術面やウイスキーづくりの思想において、あえてスコットランド流を踏襲せずに、元気なアメリカのクラフトディスティラリーを参考にしたのもそのような理由からだ。さほど規制が厳しくないアメリカでは、冒険や実験の余地も多分に残されているのである。

大麦であれ、樽材であれ、地元産の原料を使用するのは、酒づくりに携わるものとして至極当然のことだと木内氏は考えているようだ。ヨネダ氏が語ってくれた言葉も、その意思を裏付けている。

「国産の原材料をもっとマッシュに入れられる道があるのなら、積極的に試してみたいと考えています。例えば米をそのまま焼酎にするのではなく、何らかのかたちでマッシュビルに加えることも検討していますよ」

これまでに見たこともないような、新しいジャパニーズウイスキーづくりの歴史はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

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