ローランドの復興を象徴する出来事のひとつが、ローズバンク蒸溜所の復活だ。ウイスキー王国と呼ばれたフォルカークとファイフでも、多くの新しい試みが始まっている。

文:パトリック・コンネッリ

 

フォルカーク(Falkirk)

 

本格的な復興を待ちながら、長期熟成原酒で「ローズバンク30年」を発売したローズバンク蒸溜所。フォルカークは再びウイスキーファンに注目を浴びている。メイン写真は、ローズバンクのマルコム・レニー蒸溜所長。

セントラルベルトと呼ばれるスコットランドの中央低地を横切ると、長い歴史のあるフォルカークの町に出る。ここでは新旧2つの蒸溜所が建設中だ。新しく創設された家族経営のフォルカーク蒸溜所は、まもなく復元されるローズバンク蒸溜所から車でわずか10分の場所にある。

フォルカーク蒸溜所の創設者は、ジョージ・スチュワートと娘のフィオナ・スチュワート。構想から10年の歳月を経てウイスキー蒸溜所建設の夢を実現し、2020年に生産を開始した。閉鎖されたスペイサイドのキャパドニック蒸溜所(別名「グレングラント第2蒸溜所」)のスチルを再利用して、普遍的な魅力を持つ軽やかなローランドモルトをつくろうと動き出している。

一方のローズバンク蒸溜所も、復興計画が本格的に進んでいる。アバクロンビー・コッパースミス社が製作したオリジナルの蒸溜器の設計図をもとに、新任のマルコム・レニー蒸溜所長がフォーサイス社に銅製スチルの設置を特注した。

ローズバンクの新しいオーナーとなったイアン・マクロード・ディスティラーズは、この蒸溜所の歴史、影響力、ウイスキー界での評価を深く理解している。同社でグローバルブランドアンバサダーを務めるゴードン・ダンダスは次のように語った。

「ローランド地方の王者と呼ばれていたローズバンク蒸溜所だけに、その遺産を反映させるだけでなく、新しいシングルモルトを現代の市場ニーズに応えたウイスキーとして製造する責任があると認識しています」
 

ファイフ(Fife)

 
ファイフ州には、現在5軒以上の新しい生産拠点がある。ウイスキー王国と呼ばれたかつての名声を取り戻し、再び単独でウイスキー観光の目的地となれるように各社が努力を続けている最中だ。

インチデアニー創業者のイアン・パーマーは、ローランドでも随一の革新的なウイスキーづくりを実践している。

ウィームス・ファミリー・スピリッツのオーナーであるウィームス家は、廃墟となっていた農場を買収して2014年にキングスバーンズ蒸溜所を創設した。この蒸溜所では現在年間約60万リットル(純アルコール換算)のスピリッツが生産できる。2019年には最初の商品「ドリーム・トゥ・ドラム」が発売され、多くの反響を呼んだ。

キングスバーンズからほど近い場所にあるダフトミル蒸溜所は、2005 年に設立された小さな農場蒸溜所。まだ新参の部類ではあるが、近隣の老舗蒸溜所に囲まれながらゆったりと操業している。数年の準備期間を経て、初めてスピリッツが蒸溜されたのは2008年のこと。この最初のバッチが熟成に入って以来、ウイスキー愛好家たちは創業者であるフランシス・カスバートとイアン・カスバート(兄弟)に高い関心を持ちながら見守っていた。ダフトミルが操業するのは、夏季2カ月および冬季2カ月のみ。そのような希少さも手伝って、2018年に初めて発売されたウイスキーは瞬く間に完売となった。

ファイフ州キングラッシー郊外にあるインチデアニー蒸溜所は、2014年に初めて創業計画が発表されてからも謎に包まれた存在だった。それでも業界で長年の経験を有するイアン・パーマーが少しずつ内幕を明かすようになると、非常にユニークなウイスキーづくりの方針が注目され始めた。

インチデアニー蒸溜所のスピリッツ生産には、これまでほとんど議論されたことのない斬新な技術も含まれる。その詳細は「高比重発酵」「マッシュ変換技術」「酵母の培養」などの専門用語で論じられている。ハンマーミルとマッシュフィルターを使用して麦汁の透明度と品質を簡単にコントロールし、スコットランドでは初めてとなるライ麦原料のシングルグレーンウイスキー「ライロー」を完成させると話題は沸騰。創業者みずから「夢の結晶」と語るインチデアニー蒸溜所は、これまでの常識を覆すような数々の取り組みを進めている。

リンドーズアビー蒸溜所が建つのは、1191年に創建されたリンドーズ修道院の跡地。古き良きローランドモルトへの回帰を志向している。

インチデアニーよりも伝統的なアプローチでウイスキーをつくっているのが、同じファイフのリンドーズアビー蒸溜所だ。所在地はスコットランドで初めてウイスキーが蒸溜されたという記録が残っている場所。原料に使用する大麦の調達先は、蒸溜所から半径2km 以内にある2つの農場に限定している。

リンドーズアビーを創業したマッケンジー・スミスは、素晴らしいファイフのウィスキールネッサンスで中核をなす存在だ。蒸溜所を運営する家族一同が、そんな評価を誇りに思っている。この歴史的なウイスキー産地の保存と普及を目指し、蒸溜所の敷地を巡る素晴らしいオーダーメイドのツアーも開催されている。

セントアンドリューズにあるイーデンミル(エデンミル)蒸溜所は、旧セギー蒸溜所跡地に建てられた製紙工場の一角に建設された。ここはジン、ビール、ウィスキーのすべてを敷地内で製造できるスコットランド初の多品種蒸溜所兼醸造所とされている。ビールやスピリッツの生産が伝統的に盛んな土地柄なのに、このような業態の生産拠点がほとんどなかったのはちょっと不思議な感じもする。
(つづく)