スペイサイドの型破りな男たち 【後半/全2回】

September 18, 2013

どの世界にも、「はみ出し者」はいるものだ。ウイスキー業界においてはなおのこと。スペイサイドという伝統を重んじる地域で、枠にはまらず独自のスタイルを貫く蒸溜所をニール・リドリーがレポート。

独立の精神 ― グレンファークラス

独立と言えば、グレンファークラスグラント一家をおいてほかにない。しかし、疲れを知らないジョージ・ グラントは型破り・異端児と形容されてはたして嬉しいだろうか?
「私の考えでは、異端児とは独立独歩の人々だと思いますから、答えは『イエス』ですね」と彼は言う。
「グレンファークラス蒸溜所が何をするにしても、大会社のやり方や言い分に従う必要はありません。やりたいようにやっています。生産面ではまだ直火焚きスチルを使っていますからこの地域では珍しいですが、それよりも私たちにとって重要なことは、ここではとても素早く物事を変えられる点でしょうね。それはウイスキー業界ではあまりよくあることではありません」
それではグレンファークラスがそのような自由な操業方式を採用しているからこそ、ジョージは数多くのオリジナリティあふれるアイデアが生みやすいのだろうか?
「その通りです。小規模な蒸溜所で、必要なものはすべてここにあります。何かをしようと思ったとき、誰かにメールを送って許可を求める必要はありません。自分たちですぐに決定できます」と彼は語る。
「その一例が、数年前の1967コニャックカスクのリリースです。私たちはこのウイスキーを貯蔵庫で発見し、ドイツのサプライヤーに電話しました。2日後にはボトリングされて出荷の準備が整っていましたよ」
グレンファークラス流儀のもうひとつの例は、クォーターカスクで25年熟成したウイスキーだ。これは明らかに、レパートリーに変わったアイテムを加えるというグレンファークラスの熱意を明確に示している。
「個人のセラーからクォーターカスクを10樽買い戻したのですが、そのひとつが実は35年モノだと判明しました」とジョージは微笑む。「それで、すべて一緒にバッティングして25年モノとしてリリースすることにしたんです。サンプルを仕込んでみたら、その結果に仰天しましたよ」

アイディアマン ― ザ・マッカランのケン・グリア

スペイサイドのゆるやかに連なる丘を見る限り、世界的な高級品市場を鋭敏に察知している自由な発想の持ち主がいそうにはとても思えない。しかし、エドリントン・グループのモルト・ディレクター、ケン・グリアこそ、ザ・マッカランを「尊敬されるストイックなシングルモルト」から「世界に名を馳せる前衛的な蒸溜所」に変えた、多くの革新的なキャンペーンの生みの親だ。
「ザ・マッカランは常に自由な発想のDNAを持っていました。事実、何年も前には、この蒸溜所は周辺の荒くれ者が働いているところと言われていました」と彼は指摘する。「ですから、私たちはいつも、少し変わっているという評判でした」
その中核には、既成概念に挑戦したいという願望…ケンの言葉を借りれば「敢えて違っていたい」という気持ちがある。「マスターズ・オブ・フォトグラフィ」のリリース全般にわたる著名カメラマンとの契約(ランキンアニー・リーボヴィッツ)から、有名な香水メーカー(ロハ・ダヴ)との提携、ラリック・クリスタルとのパートナーシップに至るまで、ザ・マッカランはおそらく、スペイサイドの蒸溜所としては類い稀なことに、ウイスキーつくりという認識をセレブの世界に移行させた。
「私たちが打ち出すキャンペーンや起用する人たちのせいだけではありません。一部には、費用と便宜性のために他の人々が避けるシェリーカスクを使用しているという事実に根差しています。しかし、すべての根底にあるスローガンといえば、驚きとセンスがあり、革新的な − それでいて美しいものを創り出すことに尽きます。強いコンセプトと素晴らしいウイスキーをもとに、毎回違う、より良いことをしようと挑戦しています」
自由な発想という精神を追求するザ・マッカランの最新のアイデアは、ブランドの関係という点で新たなレベルを達成している。オークリー(アウトドア衣類で有名)のアドバンスド・プロダクト・デザインチームをパートナーとして、地味なヒップフラスクに完全に新たな革命を起こしたのだ。世界最先端の構造技術を取り入れた容器はまるで現代の鎧のようで、これまでに作られた中で最も衝撃に強いヒップフラスクになった。蒸溜所では数台のスーパーカーがこれで「遊んで」、その頑丈さが試される映像まで撮影した。

一方で、キャンペーンはこれまでのところスペイサイドの素朴で伝統的なイメージからかけ離れているように思えるが、同時に、ザ・マッカランを究極の高級品の代名詞にするというグリアの構想には完璧に調和している。
「私にとって、最も重要なスタート地点は、はっきりしたアイデアの中心に何があり、それをどうやって伝えるかということなのです」とケンは物思いにふけるように言う。「私たちのビジネスの強みは、自由な発想に寛容であり、それを支持し、敢えて他と違っていることを認めるところです」

それでは、一匹狼に、掟破りに、そして自由な発想の人々に乾杯しよう。

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