ウイスキーづくりという仕事【後半/全2回】

July 9, 2015

蒸溜所で働く人々にとって、「働き甲斐」とは何か?スコッチウイスキーのつくり手たちの本音を探る。

【←前半】

それは、ラガヴーリンの生産マネージャー、ジョージー・クロフォードが「一生の仕事です。本当に良い仕事ですよ。人々は、ウイスキーが素晴らしければ、そのつくり手もリスペクトしてくれる。そして、お給料も申し分ない」と言うような、仕事の安定性と同じくらいに素晴らしく、シンプルなもののはずだ。
もちろん、企業としての安定性を一笑に付すことはできない。特に、今のような不確実な時代には。

しかし、ディアジオ社エドリントングループのようなところが提示する条件がどれほど気前の良いものであろうと、老後が安心というだけだったなら…レスター・サザーランドキース・ムーア、そして前述のマカナキーのような男たちは、ハイランドパーク蒸溜所で 働いた(そして今も働き続けている)期間の半分も、そこで過ごしはしなかっただろう。

「先日、カリラの蒸溜所スタッフを募集する広告を出しました」とクロフォードは言う。
「そのときの応募の数と言ったら…あれほどのものは見たこともありません。今でも十分いい仕事に就いている人たちばかりなんですよ」
そう、そこにはお金以上のものがあるのだ。
それに、レーヴィならこう言うと思うが、ウイスキーづくりは「興味の尽きない仕事」、「熱中できる仕事」で、「難しいがシンプルな仕事」でもある。
「幸せに暮らすには」と、前述のレーヴィの作品の登場人物、石油プラットフォーム設計者であるファッソーネは言う。
「何かすることがなくてはならないが、それは簡単過ぎてはいけない」。

一貫性がポイントかもしれないが、ラガヴーリンのような 絞り込んだラインナップを生産する蒸溜所であれ、キルホーマンのような穀物によって分ける生産ラインであれ、「たまに変わる」という程度以上の難しさが必要だ。
クロフォードが言うように、蒸溜所が一見どれほど全ての結果を考慮しているようであっても、穀物や酵母、水、銅、温度、時間といった不確定要素を扱うウイスキーづくりとなると、完全に保証されるものなどありはしない
例えば、スチルから流れ落ちたニューポットの出来が、ウォッシュから予想した結果にそぐわないとき。キルホーマンのマッシュマン/スチルマンであるロビン・ビッグナルの失望感がうずく。
科学があり、そして科学が間違える。ビッグナルはこのことを知っていて、そのために常に用心している。彼は探求心と愛情を持って、もっと学びたいと思っている –ウイスキー業界だけでなく、あらゆるものづくりの世界で働く職人たちと同様に。毎日が同じようでありながら、全く同じではない。

だが、これでもまだ足りないものがある。ファッソーネは、完成図が予測でき、同時にチャレンジしたくなる困難な仕事だからというだけで橋の建設が好きなのではない。
その仕事が持つ意味…自分だけでなく、世界の人々のニーズを満たすモノをつくっているという事実があり、それゆえ仕事を愛している。
その事実は、単に「モノをつくる」というひとりの仕事から、多くの人々の笑顔を生み出す可能性へと想像を広げる。
有名な「テインの男たち」のひとりであるということは、マッカイの個人的なプライドとはほとんど関係がない。むしろ、そのウイスキーがあまりにも素晴らしいために、オーストラリアや日本、ブラジルといった遠い国の人々を惹きつけていること、そしてそれを世に送り出す蒸溜所の一員であるという事実が彼の誇りになっている。

アリー・マクニールにとっては、今年ボトリングされて世界中に送られたラガヴーリン 16年が、初めての自分の手によるものらしいことこそが、格別の思いにつながる。
グレンガイル蒸溜所のジョン・ウェアラムにとっては、モルティングから蒸溜までの「良いスピリッツ」の製造に関与しているということが喜びだ。
決して忘れてはならない − ウイスキーはただの飲み物以上のものだ。それが重要だ。

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