蒸溜所とボトラー、どっちがエラい?

September 29, 2015

ウイスキーのビッグイベントが相次いだ2015年9月の東京。英国から有名蒸溜所の代表者が続々と来日し、ジャパニーズウイスキーの重要人物も一堂に会した。そんなイベント内でのトークで勃発したのが「蒸溜所とボトラーはどちらがエラいのか?」という論争。互いに一歩も譲らない激論の軍配やいかに。

文:WMJ


シルバーウイーク初日の9月18日。アキバ・スクエアのステージ前では、オーディエンスの拍手と笑い声が響いている。特設ステージでは「蒸溜所 vs インディペンデントボトラーズ」という論争の真っ最中だ。蒸溜所チームにはデービッド・アレン(スプリングバンク蒸溜所)とピーター・ウィルズ(キルホーマン蒸溜所)、インディペンデントボトラーズチームにはアンドリュー・ホーガン(ダンカンテイラー)とマーク・ワット(ケイデンヘッド)という面々が陣取り、顔を赤らめながら互いの主張を叫んでいる。

モダンモルトマーケットでの公開討論会は笑いと喝采に包まれた。左からアンドリュー・ホーガン(ダンカンテイラー)、マーク・ワット(ケイデンヘッド)、デイヴ・ブルーム(ウイスキー評論家)、1人おいてデービッド・アレン(スプリングバンク蒸溜所)、ピーター・ウィルズ(キルホーマン蒸溜所)。

「そもそも、ウイスキーをつくっているのは誰だっけ? 蒸溜所がなければ、ウイスキー自体が存在しないんだよ」(蒸溜所)

「蒸溜所はつまらない。幅広いチョイスが提供できるのはボトラーだ。ウイスキーの革新はいつもボトラーが始めて、蒸溜所はただ真似をしてきただけだ」(ボトラー)

「でも君たちはせっかくのウイスキーを台無しにして、ひどいシロモノを売ってくれたりするじゃないか」(蒸溜所)

「ごくたまにね。でも君たちが売れないウイスキーを買い取って、おいしく熟成してボトリングしているのも俺らだ」(ボトラー)

「そのボトリングを、君たちはうちの蒸溜所の設備を使ってやっているじゃないか!」(蒸溜所)

「そうさ、そうやってコストを抑えて、美味しいウイスキーを安く消費者に提供しているんだよ!」(ボトラー)

行司役のデイヴ・ブルーム(ウイスキー評論家)は、仲裁するどころか火に油を注いで楽しんでいる。ステージ前に集まった大勢のオーディエンスは、ひとつひとつの主張に唸ったり、爆笑したり、賛同の声援を送ったり。白熱した議論への鮮やかな反応に、日本のウイスキー市場が達成してきた本物の成熟を見る思いがした。

この「モダンモルトウイスキーマーケット」は、2006年から三陽物産がプロ向けに開催してきたウイスキーイベント。開催10回目を迎えた今年、一般客も参加できるようになり、約300種類ものウイスキーをテイスティングできるチャンスとなった。イベントはウイスキーマガジン・ジャパンがプロデュースし、プロ向けイベント(大阪と東京)を含む総入場者数は過去最多となる約2,750人(昨年は1,400人)を記録している。

 

ジャパニーズウイスキーのトップランナーが集合


この9月は、ウイスキーファンにとって嬉しいイベントが目白押しの月だった。ビル・ラムズデンが参加した9月2日のグランドモルトテイスティング(MHDディアジオモエヘネシー主催)を皮切りに、前述のモダンモルトウイスキーマーケットが大阪と東京で開催。そして18日の夜、パークホテル東京ではもうひとつのビッグイベント「ウイスキーライヴ・パーティ2015」が開催されていた。

パーティーのホスト役となったのは、ウイスキー評論家のデイヴ・ブルームである。登壇した肥土伊知郎ベンチャーウイスキー社長が、再会の喜びを口にした。

「デイヴが2年ぶりに来日してくれて本当に嬉しい。初めて会ったとき、私はまだ何も成し遂げていない無名の存在でした。蒸溜所建設の夢を話して『いつか僕のウイスキーを味わってほしい』とお願いしたら『いいとも』と励ましてくれたのを憶えています。こうやってまた日本で約束が果たせることを幸せに思います」

ウイスキーライヴ・パーティでは、ジャパニーズウイスキーを支えるトップランナーたちが集合した。左からベンチャーウイスキーの肥土伊知郎社長、キリンビールの田中城太チーフブレンダー、ウイスキー評論家のデイヴ・ブルーム、ニッカウヰスキーの佐久間正チーフブレンダー、サントリーの福與伸二チーフブレンダー。

やがて壇上では、サントリーの福與伸二チーフブレンダー、ニッカウヰスキーの佐久間正チーフブレンダー、キリンビールの田中城太チーフブレンダー、ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎社長が集合した。日本のウイスキーづくりのトップランナーたちが、このように勢揃いする機会は珍しい。特別な夜に集まってくれた来場者を前に、世界を飛び回るデイヴが世界のウイスキーの現況を語ってくれた。

「スカンジナビア、フランス、ドイツ、オーストラリアでも新しいスタイルのウイスキーが生まれています。台湾の亜熱帯熟成のような革新もあり、これからも世界のウイスキーはしばらく成長し続けるでしょう。今日はぜひ自由な気持ちでウイスキーを楽しんでください」

DJガイ・ペリマンによる音楽とともに夜は更け、ウイスキーライヴ・パーティの参加客はそれぞれのウイスキー体験を楽しんだ。50名限定のプレミアムゾーンもチケットは早々に完売し、女性のウイスキーファンの多さが印象的だった。

日本では2000年に初開催されたウイスキーライヴも、今年で10年目のモダンモルトウイスキーマーケットも、まだウイスキー市場が下火だった頃から地道に回を重ねてきたイベントである。ウイスキーづくりと同様に市場の育成は時間がかかるが、洗練された消費者はこれからも増えていくことだろう。蒸溜所とボトラーを巡る終わりなき論争の結末は、ひとまず来年に持ち越したい。

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