大好きなウイスキーを味わうのは至上の喜び。だからこそ、時にはグラスから離れる時間も作りたい。ウイスキーのプロフェッショナルたちが、お酒との上手な付き合い方を説く。

文:グレッグ・ディロン

 

日々の喜びのためにウイスキーを購入し、大切な人たちと分かち合い、テイスティングやコレクションを楽しんでいる私たち。成熟した大人の嗜みであるからこそ、責任ある飲み方や節度を守った楽しみ方も大切にしたい。

世界的に有名なウイスキーのブランドアンバサダーたちは、言うなれば世界中の人々と一緒にウイスキーを飲むことで収入を得ている人々だ。エネルギーに満ち溢れ、愉快な時間を愛する人ほど、自分自身の健康には人一倍気を配らなければならない。飛行機の中で年間数百時間を過ごし、世界中の都市を次々と訪ねながら土地ごとの料理を食べ、不規則な生活を続ける人たちだからなおさらである。

私自身も仕事の関係でたくさんのテイスティング会を開催している。レビューや個人的探求のためにウイスキーを飲む。だがこれは仕事の一部に過ぎず、InstagramやFacebookでコミュニケーションをしているときを除けばいつもプレゼン資料の準備に没頭している。ミーティングやイベントの合間に利用する電車、飛行機、タクシーのなかでも作業は続く。

健康のバランスを守るため、私は計画的な目標を立てて実行に移している。週のうち何日かは禁酒日を設ける。これは毎日大量のアルコールを摂取しているからということではなく、15mlのサンプルを3杯飲んだ日や、ミーティングで少しテイスティングした場合も「飲んだ日」にカウントするのである。ルールを厳格に運用することで、グレンケアンのグラスと適切な距離を置く原則が守られるのだ。自宅ではスカッシュや毎日の5キロランで正気を保ち、身体を休めながらエネルギーや体重も管理する。1日約3リッターの水を補給し、毒素や不要物を排出できるように心がけている。

ウイスキーを長きに渡って楽しむには、心身を健康な状態で維持する必要がある。グレンフィディックのマーク・トンプソンは、自分自身の健康を保つのもインフルエンサーの務めであると語る。

普段のルーティンや生活管理方法は自分次第だ。グレンフィディックのグローバルブランドアンバサダーを務めるストゥルアン・グラント・ラルフも次のように説明している。

「バランスのとれたライフスタイルを維持することには、配慮しすぎるということがありません。エクササイズ、ダイエット、体調管理、マインドフルネス、十分な休息が自分の健康維持に役立ちます。楽しく仕事しながら、成功も勝ち取れる原動力になるのです」

またグレンフィディックのブランドアンバサダーを務めるマーク・トンプソンも過去を振り返りながら語る。

「ウイスキー業界では長らく暴飲暴食の風潮もありましたが、今では遠い過去の思い出です。スターバーテンダーたちが健康的なライフスタイルを推奨してくれたおかげで、一般消費者も飲料業界に好ましい印象を持つようになりました。注目を集めるインフルエンサーたちには、自分自身の健康を守る責任も生まれています。遊びにも仕事にも全力を尽くす時代は終わり、今ではスマートに働いて健康を維持する必要があるのです」

かつてアスリートとして国内トップレベルにあったマーク・トンプソンは、もともと身体の鍛錬が好きだった。仕事を離れたらすぐ自転車に乗ったり、ランニングシューズで家を飛び出したりするのが自然なのだ。

「仕事柄とても旅行が多いのですが、スーツケースにはいつでもランニングできるキットが入っていますよ」

 

正しく向き合い、長く付き合う

 

バカルディのウイスキー部門でグローバルブランドアンバサダーを務めるジョージー・ベルは、ウイスキー業界で働く者が心身のバランスを保つ重要性を力説している。

「時にはお酒から離れること。エクササイズの予定が最優先です。週に6日はワークアウトをこなし、特に旅行中は休まないよう心がけています。飛行機で飲酒しないこと。そして週に2日は飲まない日を作ること。健康的な食事も大切なので、善玉菌を摂って昆布茶を飲むのが日課です」

アイリッシュ・ディスティラーズのマスターブレンダーを務めるビリー・ライトンは、ウイスキー業界で40年以上のキャリアがある。

「解決法はひとつではありません。ウイスキーづくりに関わっている人が、その役割の大小に関わらず、少しずつ意識を変えていくことで大きな流れが作れるはずです。大好きなウイスキーのフレーバーやアロマについて理解を深め、生産プロセスにも思いを馳せる。お酒にしっかりと向き合うことで、自分の体内に入るものについて深い関心を持つことができます」

だが祝いの席にはお酒がついて回る。新しい友達が出来たときの一体感や、旧交を温める嬉しさを増幅させてくれるのもお酒のパワーだ。ディアジオでグローバルウイスキーマスターを務めるユアン・ガンが語る。

「正しい態度でお酒を楽しむことが大切です。最高に楽しい夜は、自分自身が主体的に関与して作り出されるもの。お気に入りの服を着て、美味しいカクテルを頼んで、友人たちと生涯に一度の素晴らしい時間を共有する。楽しみながらも自制を保ち、お酒の量よりも質にこだわる。そして到着時と同じくらい粋な様子でバーを去るのが大人の嗜みです」

バカルディのジョージー・ベルは、旅行中も週6日のエクササイズを欠かさない。飛行機では飲酒せず、週2日の禁酒日を守って昆布茶を飲んでいる。

節度のある飲酒は、健康な身体で末長くウイスキーを楽しむのに不可欠な条件だ。だがお酒には、消費者だけでなく生産者もいる。スコットランドやアイルランドなど、世界の生産地の多くは貧しい田舎だ。酒類業界だけでなく、関連するさまざまな雇用を支えながらこの先何十年も地方の経済や共同体を維持していかなければならない。ビリー・ライトンは、我々が長らく触れていなかった側面についても語ってくれた。

「ニュースにお酒がらみの話題が登場するとき、たいていはネガティブな内容です。アルコールで問題を抱えている人々は確かに存在するし、病気、暴力、濫用などの大きな問題を引き起こしている事実も重く受け止めています。でもその一方で、アルコール飲料のポジティブな側面はあまり語られることがありません。お酒は喜びを生み出し、人々を連帯させ、祝いの席に彩りを添え、貧しい地方で多くの人々の雇用を長期的に支えています」

ストゥルアン・グラント・ラルフもまた、ネガティブな問題については正面から向き合っている。

「残念なことに、国によっては今でも節度を欠いた飲酒文化が横行しています。ウイスキー愛好家の仲間として健康上の懸念を伝えようとしても、なかなか浸透しない側面があることも事実。私はお酒のブランドを代表する者として、節度とバランスを守った消費を呼びかける責任を感じています。これからはブランドが率先してそのような機運を高めるイベントを開催する必要もあるでしょう」

それでもマーク・トンプソンは、お酒の楽しみ方がまだまだ進化できると信じている。

「我を失って、記憶をなくすような飲み方はもうやめましょう。節度さえ守れば、時折リラックスするくらい一向に構わないのですから。いつかはマラソンの前にカーボローディング用のカクテルを飲む時代が来るかもしれませんよ。まあ、そんな未来はまだまだ先ですね」