映画『ウイスキーと２人の花嫁』が全国公開
ナチスによるロンドン空爆が激しさを増す第二次世界大戦中、スコットランドの小島の沖合で大量のウイスキーを積んだ貨物船が座礁した。実話をベースにした映画『ウイスキーと２人の花嫁』は、すべてのウイスキーファン必見の美しい物語である。
文：WMJ
時は1941年。対ドイツとの戦況が悪化し、スコットランドの小さな島ではウイスキーの配給がついに途絶えてしまう。島民たちは無気力に陥り、恋人との結婚を望む姉妹にも諦めムードが漂いはじめていた。
だがある夜、島の沖合でニューヨーク行きの貨物船が座礁。沈没寸前の船内には、5万ケースものウイスキーが積まれているという。島民たちは闇に紛れてウイスキーを持ち出し、つかの間の宴に酔いしれる。だが盗難に気づいた者の通報で、本土の税吏たちが島に迫りつつあった。
この映画は、ある実話をもとにしている。第二次世界大戦中、スコットランドのエリスケイ島沖で大量のウイスキーを積んだ貨物船「SSポリティシャン号」が座礁した。ドイツ軍のUボートを避けるため、リバプールから北上してアウター・ヘブリディーズ諸島を経由したのが裏目に出たのだ。冬の嵐と濃霧のせいで、岩礁の多いエリスケイ海峡に迷い込んだのが運の尽きだった。
浸水した大型貨物船は大きく傾いたが、乗組員全員は近隣の漁民が救助。だが船に大量のウイスキーが積まれていると知った島民たちは、沈没寸前の船から可能なかぎりのウイスキーを持ち出した。船にはウイスキーだけではなく、2千万ポンド相当のジャマイカドルも積まれていた。ヒトラーが英国を支配する前に、王室をジャマイカへ避難させる計画があったことを裏付ける証拠ともいわれている。
ウイスキーを盗んだ島民は、14名が実刑を受けて収監。エリスケイ島からは、いまだに当時の島民が隠したウイスキーが発見され続けているという。ちなみに座礁船には「ホワイトホース」「バランタイン」「デュワーズ」「アンティクァリー」「キングスランサム」「ジョニーウォーカー」など、おなじみの銘柄が積まれていたそうだ。
スコットランドの魅力が満載の名作
全編を通して、美しい映像と音楽が心を打つ。舞台となるトディー島は架空の島だが、本作はアウター・ヘブリディーズ諸島らしい特徴を備えたアバディーンシャー北岸のポートソイ村で撮影された。3週間にわたるロケでは、地元の人々が大勢エキストラとして参加。他にもトム湖、ローモンド湖西岸のルス、ヘレンズバラ郊外の邸宅、セント・アバズの崖、セント・モナンズのファイフの漁村など、スコットランド各地の名勝が隠れた見どころだ。
映画はフィクションであるが、貨物船の座礁以外にもたくさんの真実が描かれている。「強者と弱者」はスコットランド史に通底するテーマ。人間味あふれる島民たちのスコットランド訛りが、偉そうな税吏たちのロンドン訛りと鮮やかなコントラストをなしている。スコットランドの人々がウイスキーを密造していた時代には、幾度となく見られた光景であろう。躍起になって島中を調べる税吏たちにひと泡吹かせる島民は、権力に屈せず人生を謳歌するスコットランド人の心意気を象徴している。
スリリングな筋書きだが、物語の展開はコミカルだ。愛娘に弱い頑固な父、自力で運命を切り拓く娘、母親に支配される若い男、酒に目がない牧師、間抜けで憎めない敵役の夫婦。そして敵も味方も隔てなく、誰もがウイスキーを愛している。
今宵の一杯をいっそう美味しくしてくれる極上の映画だ。
ウイスキーと２人の花嫁
監督：ギリーズ・マッキンノン 原作：コンプトン・マッケンジー「Whisky Galore」(1947) 脚本：ピーター・マクドゥガル 製作：イアン・マクリーン、アラン・J・ワンズ 出演：グレゴール・フィッシャー、エリー・ケンドリック、ナオミ・バトリック、エディ・イザード、ショーン・ビガースタッフ、ケヴィン・ガスリー、ジェームズ・コスモ他 撮影：ナイジェル・ウィロウビー 音楽：パトリック・ドイル 美術：アンディ・ハリス 編集：アン・ソペル 衣装：ギル・ホーン 原題：WHISKYGALORE! 2016年／イギリス／英語／98分／ビスタ 字幕翻訳：安本熙生 配給：シンカ 2018年2月17日（土）よりヒューマントラストシネマ有楽町・新宿武蔵野館ほか全国公開 公式ウェブサイト：www.synca.jp/whisky |
