モリソン家のウイスキーづくりには、いつも人の手と心が寄り添っている。変革の時代だからこそ輝くビジネスの流儀に迫る。

文:マルコム・トリッグス

 

アバラーギー蒸溜所を設立したMSWDは、シングルモルト以外の事業も重視している。インターナショナル・セールス・マネージャーのニール・ヘンドリクスによると、オーナーであるジェイミー・モリソンのビジョンはMSWDを長年にわたって存続させること。そのためには、複数のブランドに投資を続けるのが好ましいという考えなのだ。

いずれ発売されるシングルモルト「アバラーギー」だけでなく、MSWD には2つのブランドを再始動させ、まったく新しいアイラのシングルモルトブランドを立ち上げる予定もある。

歴史あるオールドパースは、ブレンデッドモルトウイスキーのブランドとして再出発した。品質の高さとリーズナブルな価格で幅広いウイスキーファンを惹き付ける。メイン写真はアバラーギー蒸留所。

そのような意図から、製品ラインナップの全面的な見直しに着手した経緯をニールは明かす。

「すべてのブランドについて、根本から検討しなおしました。文字通りボトルをテーブルの上に置いて、この商品の意味は? 立ち位置は? そもそもなぜ存在するの? と問いかけたのです。そして正直なところ、私たちの商品の中には、存在意義がよくわからないものもあると気づきました。そこで一歩下がって、私たちはどんなブランドとして知られたいのか? いったい何者でありたいのか? と問い直すことにしたんです」

まずテーブルに置かれたブランドはオールドパース。モリソン&マッカイが2014年に購入した歴史的なブレンデッドウイスキーで、ニール・ヘンドリクスが参加した時点でさまざまなバリエーションが定番化されていた。

このオールドパースについて、既存イメージを守って同じ味わいを守るのか、それともユニークな新しいブランドイメージを創出するのか。話し合いの結果、MSWDはオールドパースをブレンデッドモルトウイスキーのブランドとして再出発させることに決めたのだ。

「実は自分でもブレンデッドモルトであることを忘れてしまいそうなんです」とニールは語る。ブレンデッドモルトというカテゴリーは誤解されがちで、この変更について伝えるマーケティング上の難しさも垣間見える。今回の決断には、大きな勇気が必要だったはずだ。

だがチームはあえてブレンデッドモルトの道を選んだ。品質を重んじる息の長いブランドイメージとして存続し、一定の販売量も確保できるのがブレンデッドモルトの利点だ。オールドパースの名のもと「オリジナル」「カスクストレングス」「12年」という3種類のボトルが展開されることになった。いずれも100%シェリー樽熟成のスペイサイドモルト原酒をブレンドしたもので、価格設定もリーズナブルだ。ニールは言う。

「オールドパースは、シングルモルト愛好家がふだん飲み用に常備するウイスキー。同時にブレンデッドウィスキー愛好家なら、週末に楽しむ特別なウイスキーでもあるという位置づけです」

次に紹介したいのは、シングルモルトの新ブランド「マクタラ」だ。これはモリソン家とアイラ島との長いつながりに敬意を表したブランドでもある。ジェイミーの祖父にあたるスタンレー・P・モリソンが、1963年にアイラ島のボウモア蒸溜所を購入したことはご存じの方も多いだろう。

マクタラのシリーズには、クラシックなヘビーピーテッドモルトの「テラ」、パワフルなカスクストレングスの「マラ」、シェリー樽とバーボン樽で熟成した「ストラータ」があるのだとニールが説明する。

「マクタラで一番聞かれるのは、『産地はどこ?』という質問です。でも原酒がボウモア、ラガヴーリン、アードベッグなどの有名蒸溜所だからという理由でマクタラを飲んでほしくはない。このブランドを広めるために、他の蒸溜所の名前を使う必要はないと考えています。適正な価格で良質なウイスキーが提供できること、アイラモルトの魅力は一面的でないこと、ピートとスモークだけで語れるほど単純な味わいではないことをみなさん自身で確かめながら飲んでもらいたいのです」
 

ボトリング事業にも本腰

 
モリソンは長年にわたって高品質なウイスキーの生産者であり、卓越したボトラーでもあった。その名声に大きく貢献してきたブランドが「カーンモア」だ。最近このカーンモアのパッケージを一新したMSWDは、ブランドの評判をさらに高めるべく透明性を重視し、何よりも品質を大切に考えながら3種類のカテゴリーで多様なウイスキーを紹介していく予定だ。

アイラ島との縁が深いモリソン家が創始した新ブランド「マクタラ」。3種類のサブブランドで、新しいアイラモルトの魅力を打ち出す。

ニール・ヘンドリクスと話をしていると、彼が今もっとも熱を込めているブランドはカーンモアではないかと感じさせるほどだ。

「独立系ボトラーとしての事業は、発売するウイスキーの品質がそのままブランドの信頼度に直結します。だからこそウイスキーの品質を何よりも優先して考えなければなりません。パッケージが新しくなったことで、価格が上がったり品質が落ちたりするのではないかと心配する人もいました。でも実際にそのようなことは一切ありません」

現在は、少なくともウイスキー業界にとって良い時代が続いている。新しい蒸留所が建設され、さらに新しい開業計画も枚挙にいとまがない。メーカーが増えるスピードは、過去にも前例がないほどだ。ウイスキー観光への投資額も青天井で、実験的なクラフトウイスキーも本場スコットランドから生まれている。

このようなムーブメントの数値を見ただけで、誰もが驚いてしまうような状況である。しかし私が感銘を受けたのは、MSWDの新しい蒸溜所やブランドのポートフォリオだけではない。もっとも印象深いのは、MSWDが何よりも人材を重要していることだ。

実は今回のインタビューで、私はブライアン・モリソンとジェイミー・モリソンの父子から話を聞けるものと思って楽しみにしていた。しかし直前の変更でニールが対応してくれることになった。

ボトラーとしての矜持を表現した「カーンモア」。モリソン家の見識とコネクションをフルに活かした幅広いラインナップが期待されている。

おそらくモリソン家の当主たちが深く関わっているウイスキー事業のストーリーは、社員が喜んで語ってくれることに価値があると悟ったのだろう。もしニール以外のメンバーに話を聞いていても、同じような情熱で違った角度から莫大な投資に関する逸話をされていたのだと思う。ニールは創業家のモリソン父子について次のように語った。

「ブライアンもジェイミーも、業界のロックスターになりたいとは思っていません。いまファミリーの遺産を引き継ぐ立場にあるのはジェイミーですが、父子のどちらも個人として注目されることを求めていないのです。自分たちのウイスキーブランドやウイスキーづくりが自然に会社の評判を高め、定評や物語を築いていくことが望みなのです」

MSWDは比較的小さな家族経営の会社だが、大きな野心を持っているとニールは語る。

「今、私たちのビジネスには本当に素晴らしいメンバーが揃っています。私がセールス・マネージャーを引き受けた当時は、私の他にもう1人いるだけでした。それが今ではセールス3名、ロジスティックス2名、ブランドマネージャー1名、ファイナンスディレクター1名、そして私というチームになりました。モリソン家は最終的なビジョンを見据えて私たちを導いてくれますが、さまざまな意思決定をする権限は彼らが雇った人たちに委ねられています。小さいながらも素晴らしいビジネスは、今後10年で飛躍的に成長するはずです」