開発担当ブレンダーに聞く 新生「シングルモルト宮城峡」の魅力(後半/全2回)

September 21, 2015

新しいニッカのシングルモルトには、これまでのように熟成年数が表示されていない。急激な需要増大による原酒不足だけが理由なのか。「シングルモルト宮城峡」の開発に携わった綿貫政志主席ブレンダーが、ウイスキーファンの疑問に正面から答える。
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文:WMJ

これまでニッカのシングルモルトには、10年、12年、15年といった熟成年数の表示があった。それが今回ノンエイジの「シングルモルト余市」と「シングルモルト宮城峡」に集約されたことで、エイジング神話が強い日本ではさまざまな憶測が飛び交っている。
 

多彩な絵の具を使用することで、初めて鮮やかな印象の絵画が描けるようになる。ブレンドの創造性は、ノンエイジステートメントによって大きく広がった。

シングルモルトを再編した理由のひとつが、需要増大による原酒不足を回避するためであることをニッカは認めている。だが今回の刷新は、ウイスキーの品質にもメリットをもたらしているのだと綿貫氏は説明する。

 
「これまでのレギューラー品には熟成年ごとの特徴がありましたが、我々が宮城峡の特徴として挙げる『フルーティーで、軽快で、華やか』な個性を、各商品が完全に併せ持っているとはいえませんでした。それは宮城峡らしさの鍵となる原酒が、さまざまな熟成年数に偏在しているからです。それが年数表示をなくしたことで、より宮城峡らしい理想のウイスキーを組み立てやすくなりました」

 
熟成年数にとらわれず、使いたい原酒を自由に構成できる。これは絵画と絵の具の関係にもよく似ている。長期熟成の原酒は、暗い色調の絵の具のようなもの。このような絵の具だけで絵画を描けば、やや古色蒼然とした重々しさが基調の作品になるだろう。だがそこに明るい絵の具も加えると画面に光が差し込み、より鮮やかで広がりのある世界が描ける。この明るい色調の絵の具が、若い原酒に相当するのである。

 
新しいニッカのシングルモルトも、20年以上の長期熟成原酒を含む多彩な原酒をブレンドしながら理想のウイスキーを追求している。熟成年数10年以下の若い原酒は、その重要なピースのひとつになるというのが綿貫氏の考えだ。

 
「熟成具合は樽ごとに異なりますが、一般的に若い原酒はフレッシュなエステル香が顕著で、ブレンドするとフルーティーで爽やかな香りが立ちやすいウイスキーがつくれます。宮城峡の特徴の一部は、ニューポットの時点ですでに持っている資質でもあり、それが歳を重ねると円熟した落ち着きに変化するもの。だから宮城峡らしさを効果的に表現するには、10年未満の若い原酒の力も必要なのです」

 
熟成年数を示さないノンエイジステートメント(NAS)の商品は、スコッチウイスキーでも増えている。世界的な原酒不足という背景も確かにあるが、ブレンダーにとっては理想のウイスキーを生み出す自由度を広げ、その味わいを楽しむ消費者にも恩恵がある。

 
また今回は3,000本の数量限定で「シングルモルト宮城峡 シェリーカスク」も同時発売された。レーズンのような甘い香りや麦芽のふくらみが際立ち、宮城峡でしか表現できない領域へさらに踏み込んでいる。

 
「シェリー樽熟成原酒は宮城峡のキーモルトのひとつ。その甘い香りは宮城峡特有の華やかさによく合います。宮城峡のフルーティーさ、華やかさ、甘味などが、果実のようなシェリー香とマッチした魅力を味わっていただきたいと思います」

 
 

世界に伝えたい宮城峡らしさ

綿貫政志氏は神戸市に生まれた。父親が酒造メーカーに勤務していたというから、お酒にはもともと縁があったのかもしれない。

 
「大学は畜産系の研究室で、教授が好きだったブラックニッカをよく一緒に飲む機会がありました。ある日、その先生がブラックニッカの味が変わったと言い出し、ウイスキーファンはここまで味の変化に敏感なのかと驚いたものです。今思えば、きっと間違えて『ブラックニッカ クリア』を飲んだのでしょうけれど。また学生時代、仲間とドライブしながらたまたま宮城峡の付近を通りかかった思い出もあります。霧の中から異国情緒が漂う蒸溜所の影が見え、ニッカの看板が現れました。いかにも職人気質の人たちが多そうな会社だと思いましたが、入社してみると実際にそうでしたね」

 
2004年に入社して、弘前工場に配属。シードルやワインの品質管理に携わりながら、毎年上京してマーケッターへの新商品提案会にもブレンダー室員と共に参加した。弘前で5年半が過ぎた2009年、突然ブレンダー室への異動が決まった。

 
「当時はウイスキーの専門知識もなかったので驚きました。自分からブレンダーを志望したこともないし、審査があるわけでもない。実際のところはわかりませんが、小さな会社なので、誰かが私の仕事を見ていてくれたのかもしれませんね」

 
意外なことだが、ニッカ社内でブレンダーになる典型的なキャリアパスは存在しない。任期の長さもまちまちで、佐藤茂生氏(第3代マスターブレンダー)や杉本淳一氏(前余市蒸溜所工場長)のように長年に渡ってブレンダーを続けるのはむしろ例外的なケースである。現在も佐久間正チーフブレンダーを除けば、三十代のブレンダーが商品開発と処方管理の重責を担っている。若手を積極的に登用するのが、ニッカ流の技術継承なのだ。

 

ブレンダーは、過去と未来のさまざまな人々に対して責任がある職業。ハイレベルな品質を維持することで、綿貫政志氏は大きな期待に応えている。

「ブレンダーになって、お客様はもちろん、目の前のお酒を造った先人たちや先代ブレンダーの思いなど、いろんな人のことを考えるようになりました。30年前の原酒と向き合いながら、先人たちの努力のおかげで仕事ができる幸せを感じます。香りを確かめながら、お客様はどう思うだろう、期待を裏切ってしまわないか、先輩ブレンダーがここにいたらどう思うか、ニッカらしいブレンドになっているだろうかと自問します」

 
今回発売されたニッカのシングルモルトでは、特に宮城峡に対する関心の高さが目立っている。昨年の年間販売数量を見ると、シングルモルト宮城峡シリーズは余市シリーズの4分の1程度であったが、今回発売されたシングルモルト宮城峡はシングルモルト余市とほぼ同程度の数量が出荷されており、これは想定をはるかに上回る初動であったという。余市と宮城峡をセットで扱ってもらうように提案した販売戦略も功を奏したようだ。宮城峡は、もはや余市の影に隠れた存在ではない。

 
「いままで宮城峡をしっかり味わったことがない人たちにも、その魅力を認識してもらえるチャンスだと思っています。さまざまな原酒を駆使して、蒸溜所ならではの個性が表現できました。ぜひ華やかな味わいをお楽しみください」

 

 
2015年9月1日に発売された「シングルモルト余市」と「シングルモルト宮城峡」の詳しい商品情報はこちらから。

 

 

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