エルギンからさらに東へ移動し、ひなびたキースの町へ。ここには絵葉書のように美しいストラスアイラ蒸溜所がある。

文・写真:ステファン・ヴァン・エイケン

 

北スペイサイド地方に焦点を絞った「1週間だけのウイスキー旅行」シリーズも今回で5回目。エルギンから東に移動して、こぢんまりと魅力的なキースの町にやってきた。この町には数軒の蒸溜所があるが、まずはストラスアイラを目指そう。

黒板にスタッフが手書きした生産データ。古き良き時代にタイムトラベルをしたような驚きが、ストラスアイラ訪問の魅力である。

2つのパゴダと水車を擁するストラスアイラは、絵葉書のように美しい蒸溜所として知られている。伝統的なスコットランドの蒸溜所そのものといった光景で、間違いなくスコットランドで屈指のフォトジェニックな蒸溜所である。過度に演出された美しさではなく、まさに歴史的な美観だ。実際にストラスアイラは、スコットランドで公式に酒造免許を取得した最古の蒸溜所として知られている。

もともと蒸溜所の敷地には地元の修道院があり、ビール醸造所が併設されていた。それが1786年に蒸溜所に改装され、蒸溜酒の酒造免許を取得した。当時の蒸溜所の名称は「ミルタウン」で、それが後に「ミルトン」に改名される。蒸溜所は1800年代に何度か売却されてオーナーが変わり、名称も幾度となく変更された。1870年には「ストラスアイラ」という名前になったが、1890年には「ミルトン」に戻され、そして1951年に再び「ストラスアイラ」に落ち着いたのである。

1940年代になると、ジェイ・ポメロイなる悪漢が大株主となって、蒸溜所の経営を乗っ取った。だがほどなく脱税で監獄行きとなり、会社も1949年に倒産してしまう。その1年後、競売にかけられた蒸溜所をシーグラムが首尾よく購入した。2001年からはペルノ・リカールの所有となっている。

 

古き良き蒸溜所の内部を歩く

 

ストラスアイラ蒸溜所を訪ねる理由はたくさんある。小さな黒板にスタッフが手書きした細かな生産データを見るだけでも、ウイスキーおたくを自認する諸氏にとっては貴重な体験となるだろう。このような古風なチョークと黒板が、さまざまな工程でたくさんの部屋に掲げられているのだ。例えば粉砕室では、今日のバッチで使うグリストの詳細が記されている。同様に糖化室の黒板を見れば、4回の糖化工程で投入されるお湯の詳細がわかるといった具合だ。

1965年にポットスチルが増やされた蒸溜棟。初溜釜と再溜釜のデザインが微妙に違う。ストラスアイラのモルト原酒は、シーバスリーガルに欠かせない存在だ。

ストラスアイラ蒸溜所では、1回のバッチで5.12トンの大麦モルトが使用される。糖化は銅製の天蓋が付いた伝統的な糖化槽でおこなわれ、1回あたり約6時間かかる。つまりフル稼働で1日4回の糖化が可能だ。発酵の時間は54時間である。発酵槽もすべて伝統的な木製だ。内訳はベイマツ製が7槽とカラマツ製が3槽という組み合わせになっている。

初めて訪れる者にとって、蒸溜所の内部は迷路のように複雑だ。蒸溜棟は窮屈だが魅力的な光景である。もともと1対のポットスチルで蒸溜していたが、1965年にもう1対が追加された。もうスペースに余裕がないので、ここでさらにスチルを増やすのは不可能であろう。

スチルはみな背が低くずんぐりとした形をしている。2基の初溜釜はランタン型で、ラインアームは下向きだ。だが再溜釜の方にはボイルボールが付いていて、ラインアームもやや上向きになっている。生産量は純アルコール換算で年間約250万L。ニューメイクスピリッツはすべてタンカーで持ち出され、巨大なシーバスの貯蔵庫で樽詰めがされる。

ストラスアイラは、世界第4位の売上を誇るブレンデッドウイスキー「シーバスリーガル」のキーモルトである。そのためシーバスリーガルブランドの本拠地という位置付けも明確だ。シーバスリーガルで発揮される卓越したブレンディング技術が、ビジターセンターではひときわアピールされている。

もともとビジターセンターには古風な趣きがあったが、2018年に改装されて現代的なムードも漂うようになた。併設されたバーではウイスキーをグラスで楽しめるが、多彩なカクテルでシーバスリーガルの万能性を実感することもできる。それぞれのボトルが、巧みなミックスによって洗練された表現を見せてくれるのだ。このアプローチは、ウイスキー愛好家に付き合って蒸溜所までやってきた来客(ウイスキー以外のドリンクも好きな人々)にとって好ましいものであろう。
 

シーバスブラザーズの歴史をたどる

 

美しい内装の「シーバスルーム」でくつろぐ。薪がパチパチと燃えている暖炉のそばでウイスキーを何種類か味わおう。シーバスブラザーズでインターナショナルブランドアンバサダーを務めるケン・リンジーが、シーバスの歴史について説明してくれる。

「1801年に、ジョン・フォレストがアバディーンでワインと食料品の販売店をオープンしました。この事業にジェームズ・シーバスが1838年から参画して、弟のジョン・シーバスも後から引き入れます。シーバス兄弟は、ビクトリア女王と交流がありました。女王は1842年からスコットランドで夏休みを過ごすようになり、翌年にはシーバスブラザーズを王室御用達に認定したのです」

生産効率に優れたグレーンウイスキーが1860年代からつくられ始めると、シーバス兄弟はブレンディンングの先駆者となった。そして1909年には高級ブレンデッドウイスキー「シーバスリーガル」を発売。ケン・リンジーが当時のいきさつを解説する。

「最初に発売されたのは、25年熟成のウイスキーでした。売れ行きは好調だったのですが、第1次世界大戦と米国の禁酒法でウイスキー業界が打撃を受けます。1938年になってシーバスリーガルが復活しますが、このボトルは熟成年数は12年でした。1997年にマスターブレンダーのコリン・スコットが18年熟成のシーバスリーガルをつくり、ブランド誕生100周年を控えた2007年には25年熟成の商品をコアレンジに加えました。それまでシーバスリーガルには3種類のボトルしかなかったのですが、2007年に以降は新商品が11種類も開発されて忙しい時期が続いていたんです」

モルトとグレーンの原酒5種類をテイスティングし、オリジナルのウイスキーが調合できる「ブレンディング・ラボ」。シーバスリーガルの故郷とあって、ビジターセンターではさまざまな趣向が凝らされている。

シーバスリーガルの全ラインナップを試してみたいなら、ストラスアイラ蒸溜所のフィールドデイに合わせて訪ねるとよいだろう。お楽しみは他にもある。ブレンディング・ラボでは、訪問者が自分自身の手でウイスキーのブレンディングを体験できるのだ。これはモルトとグレーンの原酒5種類のウイスキーをテイスティングし、自分なりの配合でレシピを考案するというもの。楽しい試行錯誤を繰り返しながら、200mlのボトルに自分のブレンドを詰めて家に持ち帰ることができる。

また貯蔵庫の一角には「シーバスリーガルセラー」というコーナーがあり、いくつかの樽にさまざまな熟成年のシーバスリーガル(最長で25年)が詰められている。ここでは長期熟成のストラスアイラを樽から直接出してテイスティングもできる。

ビジターセンターでは、500ml瓶で蒸溜所限定商品も販売されている。ストラスアイラ蒸溜所だけでなく、シーバスブラザーズ傘下が所有する他の蒸溜所の商品も豊富だ。現在稼働中の蒸溜所はもちろん、閉鎖された蒸溜所のウイスキーも並んでいる。我々が訪問した際は、シェリー樽熟成のスキャパと、キャパドニックのシングルカスク商品2種類が人目を引いていた。

ストラスアイラ蒸溜所を訪問する前後にキースの町でのんびりしたいのなら、町の中心部にある「ブギウギ」という店がおすすめだ。ナイトクラブのような名前だが、実際には居心地のいいカフェにギフトショップが併設された場所である。いつも地元民(多くは年配の女性)で混雑しており、料理の味もお墨付き。ここでは人生最高の「カレンスキンク」が味わえるという評判だ。鱈のスモーク、じゃがいも、玉ねぎなどが入った地元の濃厚なスープ料理である。

次の目的地までは、わずか数百メートルという近さである。ストラスアイラの姉妹蒸溜所として知られるグレンキースで再会しよう。
(つづく)