南投酒廠復活の道のり

 

南投酒廠は、1973年にTTL(台湾酒公司/元専売局)傘下唯一のフルーツワイン専門醸造所として設立された。初の台湾製ワイン「金台美酒」を含め、TTLのフルーツワインは全て南投酒廠で生産している。南投酒廠は、他の醸造所と比べ地元との関わりが深く、農家と契約を結び密接な関係を保っている。酒類が専売制から自由化されて、南投酒廠は次第に競争力を失った。更に、1999年に発生した921大地震の被害は深刻で、貯蔵庫数棟が焼け落ち、高価なブランデーが大きな損失を被り、醸造所は解散の危機にまで追い込まれた。

当時の工場長林錦淡は、この危機を乗り越えるべく、市場で人気の高いウイスキーに活路を見出そうとした。南投酒廠はそれ以前にもウイスキーを販売していたが、輸入した原酒を使ったブレンデッドモルトで、仕入れ先と品質が安定しないという問題があり、売れ行きも芳しくなかった。そこで林錦淡は以前スコットランドのHeriot-Watt大学でウイスキー醸造技術を学んだ経験を活かし、自社製の原酒と輸入原酒を混ぜ合わせ、品質の安定した安価な酒を作ろうと考えた。

輸入ウイスキーの原酒をブレンドして製造した南投酒廠ウイスキー第一弾

2008年、長らく赤字の状態が続いていた南投酒廠は、新たに醸造所を建設する資金に乏しく、やむなく各地の醸造所から遊休設備をかき集めた。そのため、南投酒廠のウイスキー醸造所は「寄せ集め」から始まったと言ってよい。ウイスキー蒸溜棟にある4基のポットスチルは、形や造りが一様ではなく、イギリスのA.Forsyth A & Son(Rothes)社製とベルギーのFrilli Engineering Spa社製がある。ポットスチルごとにラインアームの角度が異なるため、抽出される風味も違うものになる。ポットスチル4基を使い蒸溜2回を経て生産される原酒がどんなものになるのか、初めは誰にも分からなかった。

蒸溜室写真

2012年、南投酒廠の工場長(当時)の潘結昌は、4年物の原酒の優れた風味と品質に気づき、ウイスキーの専門家を招いて樽試飲を頼んだところ、予想以上に良い反応を得た。これに自信を得た南投酒廠は原酒の発売を決め、シングルモルトウイスキーを発売、オマー・ウイスキーの第一歩を踏み出した。

2013年、南投酒廠が初めて「オマー・カスクストレングス」を発売すると、ウイスキー愛好家たちの間で一気に噂が広まった。問い合わせが殺到し、直接醸造所を訪れて並ぶ人々まで現れた。試飲室の販売スタッフは、「あれほどの盛況は久しぶりだった」と語る。毎年1.9億の損失を出していた南投酒廠は、逆転勝利を収めた。ウイスキーが南投酒廠を救ったのだ。

南投酒廠は、2013年に初めてウイスキーを発売して以来、オマー・シングルモルトウイスキー46%、ウッドフィニッシュ(ライチ、梅、ワイン)を次々と発売し、世界中で好評を得ている。2017年には台湾ピーテッドモルトウイスキー第一弾を発売、2018WWAベストシングルモルト・タイワン賞を獲得した。現在、南投酒廠はフルーツワインの醸造とオマー・シングルモルトウイスキーの成功により、再び安定した成長の道を歩み出している。更に、オマーに対する世界中の消費者の需要に応え、南投酒廠が新たな境地を切り開くために、工場を拡張する計画もある。

コガマと樽

愛好家のお勧め:
オマー・ピーテッドモルト・カスクストレングスウイスキー
:ピートの煙で麦芽を乾燥させて製造するシングルモルトウイスキーは、明るく澄んだ黄金色で、台湾の風土が息づき、ドライ龍眼や焼き芋のようなスモーキーな香りと、烏梅の蜜漬けや龍眼蜂蜜のような甘みがある。甘く潤いのある長い余韻と、心地良いスモーキーな香りが、脳裏に幼い日の食卓を思い起こさせる。(参考小売価格(税抜)18,000円)

ピーテッドモルトウイスキー