根強いファンに愛されるシングルモルトウイスキー「オールドプルトニー」が、新しいコアレンジを発表した。マスターブレンダーのスチュアート・ハーヴェイ氏に、ラインナップ刷新の真意を訊く。

聞き手:ステファン・ヴァン・エイケン

 

スチュアート・ハーヴェイさんは、マスターブリュワーとマスターブレンダーの肩書を併せ持つ業界唯一のマスターとして有名です。これまでの来歴や、インバーハウスでの役割について教えてください。

 

ストラスクライド大学で理学士(優等学位)の学位を取得したあと、1987年にビール業界に入りました。7年半にわたってロンドンとヨークシャーでビール醸造に携わり、醸造蒸溜研究所が主宰するマスターブリュワーの試験に合格しました。ウイスキー業界に入ったのは1995年のことです。グラスゴーに住んでハイランド・ディスティラーズで働き、そこでウイスキーのノージングに関する知見を蓄積し始めました。ハイランド・ディスティラーズが1996年にマッカランを買収したときに、マッカラン蒸溜所で常勤するためにスペイサイドへと移住。その後、2000年にロッホローモンド蒸溜所で働くため、再びスコットランド中部に戻ってきました。

 

そして2003年6月にはインバーハウスのマスターブレンダーに就任されました。このような決断をされた経緯を教えていただけますか?

 

当時インバーハウスのマスターブレンダーだったエディー・ドラモンドが、36年のキャリアを終えて引退することになっていました。そこで新しいマスターブレンダーの職に応募したんです。マスターブレンダーになれるチャンスはそんなに多くないし、インバーハウスは複数の卓越した蒸溜所と仕事ができる素晴らしい会社でしたから。

 

インバーハウスは5軒のモルトウイスキー蒸溜所を運営しています。プルトニーの他にバルブレア、ノックデュー、スペイバーン、バルメナックがありますね。

 

5軒とも、それぞれまったく異なった特徴を持つ蒸溜所です。マスターブレンダーにとっては、この5種類のモルトウイスキーがブレンドの核となり、それぞれに個性の際立ったシングルモルトも生産できる恵まれた環境といえるでしょう。

 

「オールドプルトニー」のラインナップ刷新についてうかがいます。英国ではもう8月に公表され、日本でも2019年1月から販売される予定ですね。多くの人に愛されていたおなじみのコアレンジを変更しようと考えた理由を教えてください。

 

私がインバーハウスに入社した当時は、すでに「オールドプルトニー12年」がありました。そこでまず確認したのが、18年ものや25年ものを生産できるストックがあるのかどうかということです。調べてみたら、その時点で17年ものと21年ものがリリースできそうでした。会社は私の希望を聞き入れ、2004年に「オールドプルトニー17年」と「オールドプルトニー21年」を発売しました。それでも18年ものや25年ものを世に出したいという希望はずっと変わらずに抱いており、昨年に原酒ストックを調査したところ、今なら可能であるとわかったのです。

 

それぞれのボトルの中身についてお尋ねします。新しい「オールドプルトニー12年」は、旧来の12年ものと同じレシピでつくられていますか? それとも何か微調整を加えたのでしょうか?

 

「オールドプルトニー12年」の中身はまったく変えていません。変わったのはパッケージのデザインだけで、ウイスキー自体はみなさんがご存じの愛すべき「12年」です。

 

新しいノンエイジステートメント(年数表示なし)の商品が「オールドプルトニー ハダート」です。プルトニー蒸溜所の所在地であるハダート通りから取った名称で、そもそもはプルトニーの町と港を建設したジョセフ・ハダート船長(英国漁業協会の水路測量技師としても活躍)に由来するものですね。この新ボトルは、クラシックなスタイルのオールドプルトニーに、ヘビリーピーテッドのウイスキーを熟成したバーボン樽でのフィニッシュを加えたものです。2016年のワールド・ウイスキー・アワード(WWA)でベストシングルモルト(全世界)を受賞した銘酒「1989 オールドプルトニー リミテッドリリース」を思い出すファンもいるでしょう。

 

おっしゃる通りです。「ハダート」は、1989年の大成功をヒントにつくられました。かつてマルコム・ウェアリング蒸溜所長と最初の「17年」と「21年」に使用する原酒を求めてノージングしているとき、「1989」の発端となる樽の一群を見つけました。ピート香のするバレルが14本あり、残りはノンピート。これらの樽がグラスゴーから送られてきて、樽詰めしたときのことをマルコムは憶えていました。当時のプルトニーではブレンド用の原酒も生産していたので、ヘビリーピーテッドのウイスキーを詰めたカスクもあったのです。そこでこの樽を限定エディションに使おうと考えて温存し、最後は「1989」として発売したといういきさつでした。一方、今回の「ハダート」はノックデュー蒸溜所の樽を使用しています。まずはプルトニーのスピリッツをセカンドフィルのバーボンバレルだけで熟成し、さらにノックデューでヘビリーピーテッドのウイスキーを貯蔵した樽に移し替えます。本当に素晴らしいウイスキーで、これまでに味わった方々はみな大ファンになっていますよ。

ボトルデザインを変更し、船出を果たしたばかりのオールドプルトニー新艦隊。変わらぬ味わいの「12年」、それぞれにアレンジを加えた「15年」と「18年」、ピートがほのかに香る「ハダート」が2019年1月から日本でも発売される。


 

この「ハダート」をノンエイジステートメントで発売された理由はなぜでしょう?

 

実を言うと、2010年の原酒をノージングしていたときに素晴らしいセカンドフィルのバーボンバレルを見つけてしまったんです。その樽の一群がフィニッシュに使用できる状態だったので、「ハダート」をこのタイミングでリリースしようと考えました。とにかくウイスキーが理想的な状態だったというのが理由です。

 

次に「15年」と「18年」についてうかがいます。どちらも似たような熟成のスタイルですね。まずはセカンドフィルのアメリカンオーク樽やバーボン樽で熟成し、その後からファーストフィルのシェリー樽でフィニッシュしています。もちろん樽熟成の期間が3年違う訳ですが、他にも2つのウイスキーに違いはありますか?

 

「オールドプルトニー15年」はアメリカンオークとスパニッシュオークのバランスが素晴らしく、多くのウイスキーファンのみなさまに気に入っていただける味わいです。「オールドプルトニー18年」は「15年」よりもスパニッシュオークの影響を強めることで、また異なった嗜好のみなさまにアピールできる設計にしました。

 

先日オールドプルトニー蒸溜所を訪ねたとき、貯蔵庫で最古の樽についてうかがいました。1968年に樽詰めした原酒が2本あるそうですね。計算すると、ちょうど今年は大台に乗る年のようですが・・・。

 

お察しの通りです。「50年」の発売も計画中ですよ。今後の動向にもぜひ注目してくださいね。

業界でただひとり、マスターブリュワーとマスターブレンダーの肩書を併せ持つスチュアート・ハーヴェイ氏。15年にわたってインバーハウスのマスターブレンダーを務め、新しいオールドプルトニーのコアレンジでシングルモルトの理想を具現化した。