認知度や評価を高めるため、他業界とのコラボを模索してきたウイスキーブランド。近年の興味深い事例を紹介する3回シリーズ。

文:ライザ・ワイスタック

 

ゴードン&マクファイルといえば、スコットランドのエルギンにある家族経営の独立系ボトラーだ。昨年9月、同社が1940年代に蒸溜された希少なスコッチシングルモルトウイスキーを発売した。それが「ジェネレーションズ」シリーズの一角に位置づけられる「グレンリベット80年」。今までボトリングされたスコッチウイスキーの中で、熟成年数が最長の商品である。

人類の偉業と呼んでもおかしくない、博物館的な価値さえある商品だ。このようなウイスキーを平凡なガラス瓶に収納する訳にもいかないだろう。記録破りの商品であり、人類史上初めての偉業だ。クリスタルのデキャンタに、華やかなレタリングをエンボスしただけでもまだ足りない。この希少価値に相応しい堂々たる容器とはどんなものだろう。

世界的建築家のデービッド・アジャイ(メイン写真)がデザインした「グレンリベット80年」のパッケージ。彫刻作品のようなクリスタルデキャンタが、パビリオンと呼ばれる神秘的なオーク材の箱に収められている。

ゴードン&マクファイルは、飲料品業界とまったく異なる分野で偉大な功績を上げている著名なクリエーターを探し始めた。そうやって白羽の矢を立てたのが、建築家のデービッド・アジャイである。数々の建築賞をものにし、英国王室からはナイト爵も授けられている。これまでたくさんの住宅、公共建築、製品、家具などのデザインを手がけ、ワシントンDCの国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館が代表作のひとつだ。

アジャイがデザインした壮麗なデキャンタには、曲線的なくぼみがある。まるでひとつの大きなクリスタルの塊から切り出されたような印象だ。この唯一無二のボトルは、「パビリオン」と名付けられた木製のケースに納められている。パビリオンの側面はオーク材の縦格子になっており、そこから差し込む光がボトルに反射して荘厳な視覚効果を表現する。木々のフィルターを通って光が差し込む「木漏れ日」の効果を狙ったデザインなのだという。

縦格子のデザインは、熟成に重要な役割を果たした樽の象徴でもある。作品名は「Artistry in Oak」(オークの中の芸術性)。ゴードン&マクファイルでマーケティングディレクターを務めるイアン・チャップマンが説明する。

「何しろ、80年もかけて熟成した商品なので、その特別感をしっかり強調したいと思っていました。芸術性とクラフツマンシップの価値を明確に打ち出して、歴史に残るレガシーを創り出したい。賛同してくれるクリエイティブなパートナーを探して、アジャイに説明したら好意的な反応が返ってきました。アジャイの建築デザインは、その多くが明らかにレガシーとクラフツマンシップに立脚したもの。そもそも建物は長期間にわたって評価される分野ですから、今回のデザインも長い目で見た永続的な価値観を反映しています」

ウイスキーは、単独で価値を主張できるような孤高の存在ではない。一部のコレクターや愛好家には単独のライフスタイルであると考える人もいるが、大多数の人々にとっては多彩な人生を彩ってくれるような存在である。社会生活、大衆文化、儀礼、祝典などと一体化したカルチャーの一部だ。ウイスキーブランド各社は、この点をよく理解している。だからこそウイスキーの社会的な価値をうまく利用し、テイスティングノートやカクテルブックよりも遥かに幅広い文化の裾野に向かってアピールしたいのだ。

他分野の個人や企業とタッグを組んで製品なり表現なりを作り上げるプロジェクトは、ウイスキーメーカーにとっても広い消費者層へのアピール機会になる。ウイスキー業界以外でも高名なパートナーの影響力を使って、通常では不可能なレベルにまで注目度を延ばすことができるからだ。このような提携を使いこなせば、示唆に富んだ啓蒙活動も自然な形で実行できる。
 

高級車とウイスキーの蜜月関係

 
グレングラントのマスターディスティラー、デニス・マルコムがウイスキー業界の勤続60周年を迎えた。そのキャリアの大半は、グレングラントで過ごしたこともよく知られている。昨年10月、グレングラントはデニスの偉業を称えるイベントを開催したが、その場所はロンドンにあるロールス・ロイスのショールームだった。

スコッチウイスキーの伝統を象徴するデニス・マルコム。グレングラントとロールス・ロイスの組み合わせは、古い良き英国の伝統をナチュラルに訴える。

熟成60年の記念ボトルを発表するパートナーとして、ロールス・ロイスが選ばれたのは偶然ではない。グレングラントとロールス・ロイスには、歴史的なつながりがあるのだ。創設者であるジェームズ・ブラントは、グラスゴー北部で初めて自動車を所有した人物。その車が、まさにロールス・ロイスだったのだ。

だが高級車メーカーとウイスキーメーカーには、もっと深い部分で共通性がある。親会社のカンパリ・グループで、国際市場に向けたウイスキーの宣伝を担当するロビン・クーパーは語る。

「スピリッツを理想の風味に仕上げていく過程や、できる限り一貫した品質と調和を実現しようというウイスキーづくりの本質が、高級車のイメージにマッチするのです。デニスと話し合いながら、ウイスキーはロールス・ロイスのエンジンのように精密な設計でできているという結論に至りました。蒸溜所の歴史はもちろんですが、ウイスキーと高級車にはさらに深い共通性が見いだせます」

プレミアムウイスキーと高級車のコラボレーションは、グレングラントが初めてではない。2019年12月、ビームサントリーを代表するスコッチシングルモルトウイスキー銘柄のボウモアが、アストンマーティンとの提携を発表した。そして翌年の11月には「ブラック ボウモア DB5 1964」をお披露目。極めて希少な31年熟成のシングルモルトが、DB5 アストンマーティンのピストンをモチーフにしたボトルに容れられている。限定25本のみというボトル1本の値段は、65,000米ドル(約750万円)という超高級酒だ。

これは英国の高級車メーカーであるアストンマーティンが、初めてウイスキーブランドと提携した商品でもあった。その年の暮れには、アストンマーティンの車のイメージをラベルにあしらったクラシックなボウモアのウイスキーもトラベルリテール(免税品)市場で発売。こちらはブラックボウモアほどの希少さがないものの、眼の飛び出るような価格でもない。車とウイスキーが好きな人にとっては、ちょっと特別な高級酒というブランディングだ。
(つづく)