蒸気になったもろみやローワインを再び液化することで、スピリッツを精製するコンデンサー。蛇管式(ワーム式)に代わって主力となった多管式(シェル&チューブ式)コンデンサーの仕組みを学ぼう。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

多管式(シェル&チューブ式)コンデンサーは、蒸溜所によって大したデザインの違いがない。それでも使用されている環境はそれぞれに異なっており、蒸溜室内に設置されていることもあれば、屋外に設置されていることもある。置き方も縦長に立たせたり、横に寝かせたりとさまざまだ。冷却用にコンデンサーを通す水の温度も蒸溜所によって異なる。このような細かな違いは、スピリッツの品質にどんな影響を与えるのだろうか。

多管式コンデンサーが開発されたのは19世紀後半だが、広く使用されるようになったのは1960年代からだ。それまでは、とぐろを巻いたパイプを容器に入れてそこに冷水を流して冷やす蛇管式(ワーム式)が主流だった。蒸溜設備全般を注文生産しているフォーサイスのリチャード・フォーサイス会長は語る。

「新しく建設される蒸溜所の95%は、多管式コンデンサーを選びます。伝統的な蛇管式に比べてエネルギー効率がよく、場所もとらないからです」

グレントファース蒸溜所の多管式コンデンサー。マニュアルで稼働する蒸気バルブの背後に置かれている。メイン写真はグレンギリー蒸溜所の多管式コンデンサー。

多管式コンデンサーは、「シェル&チューブ式」という英名の通り、シェル(またはジャケット)と呼ばれる縦0.5〜1m×横3mほどの銅製容器に入っている。リチャード・フォーサイス氏が説明する。

「シェルの中には、直径25mmの銅管が250本ほど入っていて、銅製の天板と底板でそれぞれの銅管を固定しています。管と管の間には10〜12mmの隙間があり、管とシェルの間には15〜20mmの隙間があります」

蒸溜がおこなわれている間、蒸気はラインアーム(ライパイプ)を通って、コンデンサーの最上部にある「蒸気室」に進む。細いパイプから出てきた蒸気は、この広い空間で拡散し、湾曲した盾のような受け板にぶつかる。この受け板には無数の穴があいており、下に向かって蒸気が均等に流れるような仕組みになっている。

シェルの中にある銅管には、コンデンサーの底側から冷水が送られ、上側に向かって排出される。流水によって冷やされた銅管に接した蒸気は、銅管の表面で液化される。この液体は銅管でコンデンサーの底に運ばれ、別の容器に流れ出す。

この蒸溜のメカニズムも、明確な場所で起こっている訳ではないという。シーバスブラザーズでエンジニアリングを管轄しているユアン・フレーザー氏が語る。

「コンデンサーの上部では、まだ100%が蒸気(気体)です。それが真ん中くらいまで降りてくると、50%が気体で50%が液体になります。銅管の表面は4分の3ほどが蒸気に触れており、それより下はすべて液体です。蒸溜自体は銅管の上部で始まり、下に行くほど進んでいきます」

 

冷却水の温度で酒質が変わる

 

コンデンサーを通す水が冷たいほど、液化のスピードは上がる。つまり水が冷たいほど、気体でいられる時間は短くなって、液体の状態が長くなる。気体でも液体でも銅に接触することには違いないが、その度合いは異なっている。ウィリアム・グラントで蒸溜所の開発戦略を指揮するスチュアート・ワッツ氏が語る。

「気体が液化するときに、たくさんのエネルギーが消費されます。このときこそ、銅との交互作用がもっとも強く起こるタイミングです。硫黄成分が大幅に減らせるのはこのときなのです」

発酵時に生成される硫黄成分には、肉や野菜や汗のような風味があり、この風味がエステル香(フルーティな香り)や甘みなどの繊細な風味を覆い隠してしまう傾向がある。つまり硫黄成分の含有量を減らすことで、この繊細な香りが前面に出てくることになるのだ。ただし硫黄成分には、一定の複雑さを加えてくれる効果もある。

また蒸溜所によっては、冷却水の温度が季節によって変わる場合もある。この変化による影響を最小限に抑えて、一貫性を保つ方法はいくつかある。 ユアン・フレーザー氏が説明する。

「コンデンサーに入ってくる冷却水は、環境温度と同じなので通常は5~15℃くらい。水がぬるい季節には、水流を速くすることで温度による違いを埋め合わせています」

ラッセイ蒸溜所のコンデンサー。スピリットセーフ(中央)を囲むように、多管式コンデンサーが配置されている。

ダルモアでは冬季の冷却水が4~5℃で、夏季には18℃にまで上昇する。 ここまでの違いをどうやって調整するのだろう。ダルモア蒸溜所長のスチュアート・ロバートソン氏が教えてくれた。

「夏は冷却器を通すので、コンデンサーに入るときは約8〜9℃になっています。こうすることで、夏と冬の温度の違いは無視できる程度にまで縮まるのです」

バルブレアの水源の温度は、冬なら4〜5℃で、夏は12℃ほどだ。最近は15〜18℃まで上昇することもあるという。この温度差を調整して、標準的な温度に保たなければなたない。インバーハウス・ディスティラーズのゼネラルマネージャー、デレク・シンクレア氏がその方法を説明する。

「冷却水にお湯を入れて、20〜25℃にまで上げるんです。コンデンサーの上部から引き出した約80℃のお湯を入れて水温を調整します」

もうひとつの面白い比較は、初溜と再溜におけるコンデンサーの役割の違いだ。液化を促す機能は同じだが、そのダイナミズムが異なってくる。
  
「初溜時の目的は、ウォッシュからできる限り多くのアルコールを取り出すこと。でも再溜時の目的は、ある特定の風味特性を生み出すことが主体となります」

スチュアート・ロビンソン氏がそう語る。カリラ蒸溜所の蒸溜所長を務めるピエリック・ギヨーム氏も、意見は同じのようだ。

「初溜時のコンデンサーは、馬車馬のような労働が求められます。それとは対象的に、再溜時のコンデンサーはまるでオーケストラの指揮者ですよ」

 

設置場所のいろいろ

 

ではなぜ環境温度の影響を受けやすい屋外にコンデンサーを設置する蒸溜所があるのだろうか。デレク・シンクレア氏が答えて言う。

「バルブレアで古い蛇管式のコンデンサーを多管式コンデンサーに付け替えたとき、蒸溜棟の中には十分なスペースがありませんでした。そのため蛇管式が置かれていた屋外の場所に設置したのです。夏でも冬でも、重要なのはコンデンサーに流れ込む水の温度であり、屋外の気温が直接重視されることはありません」

ダルモアとマクダフでは、初溜釜(ウォッシュスチル)に縦型のコンデンサーを取り付けて、再溜釜(スピリットスチル)に横型のコンデンサーを取り付けている。この違いはいったい何なのだろう。スチュアート・ロバートソン氏が説明する。

「液化はコンデンサー内の同じ場所で起こるのですが、横型のコンデンサーは縦型よりも液体が排出されるのに長い時間がかかります。縦型の場合は銅管を伝ってすぐに液体が滴り落ちますが、横型の場合はしばらく銅管の表面にとどまってからゆっくりと落ちるのです。そのためスピリッツがより長い時間をかけて銅と接触できる構造だといえるでしょう」

グレンアラヒーは1967年に蒸溜所を建設したが、横型のコンデンサーのみにしている。その理由を蒸溜所長のリチャード・ビーティー氏が答えてくれた。

「横型のコンデンサーのほうが、蒸溜液を長時間かけて排出する構造になっています。その分だけ銅との接触が多く、軽やかでフルーティな酒質が得られるのです」