冬に訪れたいモルトバー【3】「Speyside Way」

February 13, 2013

春はもうすぐそこ、とはいえまだまだ寒い2月。早めに仕事を終えた日に駆けつけたいモルトバーが自由が丘にある。きっと帰り道を暖かい満足感で満たしてくれるだろう。名店「Speyside Way」へ、酔っぱライター 江口まゆみが訪れた。

6時の開店と同時に、常連さんがカウンターを埋める。テーブル席も瞬く間に埋まり店内はすぐに満席状態となる。深夜2時までノンストップで客が途切れることはない。そんな幸せな大繁盛店が、自由が丘のスペイサイド・ウェイだ。

席料が無料で、料理人によるおいしいつまみや食事メニューが、手頃な値段で食べられるのも人気のひとつだが、店長の千根稔さんのお酒愛にあふれたドリンクのラインナップと接客が、リピーターをひきつけてやまないのである。
バックバーには1,400本のお酒が並び、そのうち1,000本はウイスキーだ。そしてカウンターの中のビアサーバーを見て、おっ!と思う。ハウスビールとして、よなよなリアルエールがつながっているのだ。ほかの2本はローテーションで、全国のクラフトビールが入ることになっている。ちなみに本日はベアードブルーイングのIPAと、大山Gビールのヴァイツェンだ。
「うちはビールもそうですが、カクテルもあり、ワインやシャンパンもあり。もちろんモルトもありますが、ウイスキーだけがウリではないので」と千根さん。

1杯目はソーダ割りをオーダーしてみた。
すると、80年代のブラック&ホワイトの2リットル瓶が出てきた。80年代に流通していたものが、イタリア周りで日本にたどりついた稀少品だ。
ソーダで割り、レモンピールをふりかける。
飲んでみると、瓶内熟成しているのでアルコール感がない。枯れた味わいで、驚くほど飲みやすいではないか。使われている薄張りの木村グラスも、唇に心地よい。

次になにか珍しいモルトを、と言うと、樽買いしたオリジナルボトルがあるという。
お店の8周年につくったのがラフロイグ1988、10周年にはロングモーン1975、11周年にはグレンファークラス、12周年にはアードベック、13周年にはグレンロセス1970、14周年にはストラスミル、15周年にはグレングラント1972、というラインナップだ。
すべてここでしか飲めない一期一会のモルトである。しかもハーフショットとはいえ、1,000円という破格のお値段なのだ。
それでは、ということで、私の好きなグレンロセスをいただくことに。もともと甘くフルーティーなモルトだが、このボトルはよりスムーズで繊細。最後にちょっと酸と草のような香味があるのが特徴的だ。熟成しているので複雑さが増しているのだろう。おいしい!

シメの一杯は、これも私の好きなラフロイグをチョイス。
千根さんによると、60年代はボウモア、70年代はアードベック、80年代はラフロイグが良いそうだ。とくに80年代のラフロイグは、非常に入手困難で、ここにももう最後の1本しか残っていない。
では飲んでみよう。びっくりするのは、あの特徴的なヨード臭が全然しないことだ。グレープフルーツの白い部分のような、ほろ苦い柑橘系の香味があり、そしてもちろんスモーキー!これは旨い!!

「でもこういうお酒は、誰にでも出すわけじゃないですよ。常連さんになって、好みやウイスキーの知識レベルがわかって、この人ならと思った人に出すのです」
ということは、私はとってもラッキーだったわけだ。旨い酒にありつくには、努力も必要。6時の開店と同時に入店し、席の争奪戦に勝ってカウンターに座り、千根さんに顔を覚えてもらって……。こうした道のりの険しさも、バーの楽しみの一つである。

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