50年以上前にウイスキー王国のスペイサイドで創業したタムナヴーリン蒸溜所が、シングルモルトウイスキーに本腰を入れ始めた。その歴史と未来への戦略を2回に分けてレポート。

文:ガヴィン・スミス

 

2016年、タムナヴーリン蒸溜所は創業50周年を祝って新しいシングルモルト商品を発売した。というよりも、シングルモルト商品の発売自体がまったく初めての出来事にも見えた。なぜならタムナヴーリンのオフィシャルなシングルモルト商品が前回発売されたときのことを憶えている人はほとんどいないからだ。それでもこの記念ボトルはフランスでよく売れ、年間の販売量は3万ケースに達したという。熟成年は表記されていないが、12年熟成ではないかと推測されている。

どんな業界でも、創業から半世紀が経った企業は称賛に値する。だがここはスペイサイドで、しかも歴史あるスコッチウイスキー業界だ。タムナヴーリンから半径20マイル以内に、19世紀から続く蒸溜所は20軒もある。醸造担当のサム・ダグラスは「スペイサイドの中じゃ、まだまだティーンエイジャーみたいなものですよ」と冗談めかして話す。

タムナヴーリンという名は、ゲール語で「丘の上のミル」という意味。蒸溜所はダフタウンととトミントールの間に広がる美しい自然に囲まれている。その環境とは対照的に、蒸溜所の姿は質実剛健で機能的だ。建設されたのはスコッチウイスキーブームに湧いた1960年代。最初の運営者はインバーゴードン・ディスティラーズの子会社であるタムナヴーリン=グレンリベット・ディスティラリー・カンパニーである。蒸溜所の主な目的は、プライベートラベルのボトリングを供給すること。当時のインバーゴードンのビジネスに欠かせない部門だった。

その後、1993年にホワイト&マッカイがインバーゴードンを買収する。主な狙いは、ハイランド東部のクロマティ湾岸にあるクロマティ蒸溜所(グレーンウイスキー)を傘下に収めることだった。そんな背景もあって、1995年5月にタムナヴーリン蒸溜所は運営休止に追い込まれてしまう。その後、2007年夏に操業を再開するまでに12年の歳月が過ぎた。ただしその間、2000年に6週間だけ稼働して40万Lのスピリッツを蒸溜したこともあった。近所にあるトミントール蒸溜所の従業員が、モルト原酒の不足を回避しようとタムナヴーリン蒸溜所の設備を利用したのである。

ホワイト&マッカイは、シングルモルトブランドのダルモアとジュラを大きく売り出すために多大な投資をおこなった。そして伝統的には無名の部類に入るフェッターケアン蒸溜所のことも重視した。そんな中でタムナヴーリンは、依然として無名なモルトウイスキーの供給源としてブレンデッドウイスキーの生産を支えることになったのである。

 

無名ブランドとしては異例の成功

 

タムナヴーリン蒸溜所で使用する大麦モルトは、ノンピートのコンチェルト種が中心。容量11トンのフルラウター式マッシュタンを使用し、毎週最多21回のペースで糖化をおこなう。また容量5万Lのステンレス製ウォッシュバックが9槽あり、発酵時間は54時間ほどである。蒸溜設備は容量16,000Lのウォッシュスチル3基と容量1万Lのスピリットスチル3基の組み合わせ。年間の生産量は純アルコール換算で約450万Lだ。

創業50年を祝ってシングルモルト商品を発売したタムナヴーリン。本格的なスペイサイドモルトでありながら、多くの人に愛されるブランドを目指している。

ホワイト&マッカイのインターナショナルモルト部門を率いるクリスティーン・ビーストンは次のように語っている。

「タムナヴーリンはずっと無名で日陰の存在でした。それがここ18ヶ月から2年にかけて、大きな成功を収めたことに驚いています。2016年には蒸溜所創設50周年記念の『タムナヴーリン ダブルカスク』を発売しました。これを機に、 ホワイト&マッカイ全体のポートフォリオの中でもこの蒸溜所にもっと光を当てたいと考えたのです」

タムナヴーリンのシングルモルトは、リーズナブルな価格設定に徹しているのだとクリスティーン・ビーストンは説明する。

「お客様にとって、お求めやすいブランドでありたい。当社のシングルモルトは、タムナヴーリン、ジュラ、フェッターケアン、ダルモア、スーパープレミアムという序列です。『タムナヴーリン ダブルカスク』を発売した狙いは、本物のスペイサイド産シングルモルトウイスキーをお手頃な価格で提供すること。もちろん品質では妥協しません。ウイスキーファンの皆様からは好評をいただいています。毎日気軽に飲めるモルトウイスキーで、普段ブレンデッドウイスキーの人にはちょっとした贅沢。リピート率が高いということのは、最初は価格に惹かれて購入したお客様も、間違いなくウイスキーの品質を気に入ってくれた証拠です。今ではロシア、台湾、そして英国内でも販売されています」
(つづく)