「縁の下の力持ち」―ウイスキーの研究者【前半/全2回】

May 13, 2015

ウイスキーづくりには、実際に蒸溜に携わる蒸溜所関係者の他にも専門的な科学者の視点が必要だ。ウイスキーの分析や研究を行う専門機関をクローズアップする。

ウイスキーづくりは科学か芸術か?
実利主義者とロマンティストの間で議論の的になりそうだが、非科学的に言えば、その答えはおそらくどちらも少しずつ、というところだろう。

実際、さまざまなプロセスの根底にある科学をほとんど理解していなくても、素晴らしいウイスキーをつくることは可能だ。しかし穀物からアルコールを生み出し、樽の中で熟成する間に起こる化学反応を理解すればするほど、高品質のウイスキーを生産できる確率は高くなる。

つまり、ウイスキーがリリースされる魅惑的な瞬間、あるいは湯気をたてる熱い銅製スチルや貯蔵庫のしっとりした空気などの背後には、研究所で重要な分析や実験を行っている「裏方」の人々が世界中にいるということだ。

この「縁の下の力持ち」の中でも、スコットランドで最も有名かつ最も魅力的、そして非常に経験豊富なひとりがハリー・リフキン博士だ。
1891年に傑出した分析化学者ロバート・ラトレー・タトロックがグラスゴーに設立した、伝統ある分析化学会社「タトロック&トムソン」の所有者だ。

リフキン博士は1993年にジム・スワン博士と組んで「タトロック&トムソン」を購入したが、現在スワン博士はウイスキー業界で独立系蒸溜所のコンサルタントとして活躍しており、数多くの新規蒸溜所に頼られている。

ハリー・リフキン博士はエディンバラのヘリオット・ワット大学で学んだ後、エディンバラ大学で博士課程に進み、1985年には「ペントランズ・スコッチウイスキー・リサーチ社」(現在の「スコッチウイスキー・リサーチ研究所」)の蒸溜研究主任を務めた。

「タトロック&トムソン」が行っている飲料関係の分析業務はウイスキー、ワイン、ビール、リキュールにわたり、原材料を含めた「グッド・プラクティス(優れたやり方)」に焦点を当てて、樽をつくる木材の研究や官能評価の訓練にまで及んでいる。

ハリー・リフキン博士によると、「仕事のおよそ65%が最終製品の分析に関するものす。あらゆるタイプの蒸溜酒について、世界各国の輸出入規則に適合するかどうかを確認します。例えばメキシコやデンマークなど、世界中から分析用のサンプルを送ってもらって、独自の証明書を提供しています」

「生産過程の分析も行います。その場合は、蒸溜業者から原材料のサンプルを毎週受け取り、モルト、ウォッシュ、ポットエール(WMJ註:初溜でウォッシュからローワインを抽出したあとの残溜液)、スペントリース(WMJ註:再溜での残溜液)を分析します。効率や品質を損なう部分を探すわけです。
ピーティなウイスキーをつくる蒸溜所であれば、必要に応じてフェノール値も分析します。水の分析も重要です。基本的に、私たちは第三者の目で見た結果を提供しています」

ここ数年にわたりスコッチウイスキー産業では生産が増加し、必然的に「タトロック&トムソン」の仕事量も増えている。この点について、
「この20年ほど、自前の研究所設備を持つよりも外注に出す方が費用効果が高いと考える蒸溜所が多くなったため、私たちの出番が増えました」とリフキン博士は語る。

【後半に続く】

カテゴリ: Archive, features, TOP, テクノロジー, 最新記事