テクノロジーと自然環境を活かし、二酸化炭素排出量を大幅に削減。テーレンペリは、世界有数のグリーンなシングルモルトウイスキーだ。

文:ティス・クラバースティン

 

テーレンペリ蒸溜所の製造工程におけるサステナブルな機能といえば、まず自社内の木質ペレット工場から再生可能エネルギーを供給していることが挙げられる。蒸溜所の脇にひっそりと佇む工場は、燃え盛る炎が小さな窓から見えるだけで標識もなにもない。それでも創業者のアンシ・ピューシンにとっては大きな誇りである。

熱源となるペレットは、蒸溜所から40kmほど離れたフィンランド最大の民間製材メーカー「ヴェルソウッド」から調達した廃材だ。コロナ禍に見舞われる前年の2019年には、ウイスキーとビールの生産に730MWhの再生可能エネルギーを供給した。これに加え、蒸溜所では再生可能な風力発電と水力発電の電力を年間200MWhほど使用している。

化石燃料の代替として期待されている木質ペレット。テーレンペリは自前の木質ペレット工場から再生可能エネルギーを供給することで、生産工程における二酸化炭素排出量を減らしている。

木質ペレット工場は、醸造と蒸溜に使用するすべての工程用水を加熱している。旧蒸溜所(現在もジン製造や実験的なウイスキー製造に使用)と比べて大きく変わった点は、ポットスチルの加熱方法だ。従来のポットスチルは、内部に蒸気を通すコイルが巻かれていたが、新しいポットスチルは外側から約130℃の蒸気で加熱する。

エンビテックポリス社が実施したカーボンフットプリント調査で、この木質ペレット工場による気候変動への影響が明らかになった。主にペレットの製造と輸送によって、年間で17,484kg(換算値)の二酸化炭素が排出される。これはテーレンペリで天然ガスを使用した場合に比べて88.6%、ガソリンを使用した場合に比べ91.1%という高い削減率になる。

またテーレンペリは、伝統的なボトルを見直すことで二酸化炭素排出量を改善したいと考えている。ウイスキー業界にとって、ガラス瓶の重量は永遠の課題だ。豪華で格調高いイメージを伝えるため、一部のメーカーは今でも通常より重いボトルを使用している。

テーレンペリは輸送時の排出量を減らすため、1本あたり数グラムほど軽量できる新しいボトルデザインを開発中だ。ボトルの底はもっと薄くできるし、生産工程もサステナブルに改善できるかもしれない。この新デザイン開発では、ボトルには鳥の足を模した美しいエンボスも入れる予定だ。この足の主は、フィンランド語で「テーリ」と呼ばれるクロライチョウである。
 

恵まれた環境をとことん活用

 
またテーレンペリでは、リサイクルされた海上コンテナで2,500本の樽を貯蔵している。これもまた循環型経済の原則に従った面白い事例である。フィンランドでは蒸溜酒の保管に厳しい規制があり、倉庫を建設するよりもリーズナブルなのだとピューシンは言う。

国産麦芽は近隣の農家から調達し、大手の製麦業者も至近距離にある。麦芽の風味はユニークで、輸送中に発生する二酸化炭素排出量は最低限だ。

「港にはウイスキーを貯蔵するコンテナが無数に余っています。それなのに、蒸溜酒の貯蔵には多くの規則があることを不思議に思っていました」

テーレンペリの海上コンテナは換気が可能だが、温度変化を少なく抑えるために断熱材が使われている。フィンランドは冬が-30℃、夏は30℃と寒暖の差が激しい。冬には暖房を入れ、温度が氷点下まで下がらないようにする。樽や中身の液体が凍って破損したりするのを防ぐためだ。

テーレンペリは環境に配慮した蒸溜所であるが、理想の実現には努力だけでなく運も一役買っている。ここには他所では再現できないような環境上の利点があるのだ。1995年にビール醸造を始めてから、ピューシンはこの地域が素晴らしい資源に恵まれていることに気づいた。

まず周辺は穀倉地帯であり、海外から大麦を輸送する必要はほとんどない。英国やベルギー(キャッスル・モルティング社)からピーテッドモルトを輸入しているのが唯一の例外である。国産の麦芽はすべて蒸溜所から150km圏内で調達しており、製麦で世界屈指の歴史を持つバイキング・モルト社の施設がわずか数分という近所にある。このような原料への近さは、もちろん蒸溜所の二酸化炭素排出量を押し下げる効果がある。シニア・ウイスキー・アンバサダーを務めるユッシ・オイナスが語る。

創立20周年記念で発売されたシングルモルト「テーレンペリ パロ」は、スモーキーなピートとシェリー樽熟成の香りが融合した味わいだ。

「私たちが使用している麦芽もまた、テーレンペリのウイスキーの品質に秘められた特性のひとつといえるでしょう。高緯度のフィンランドでは夏が長く、日照時間が長いので大麦の成長に特に影響を与えます。英国やベルギーから調達するピーテッドモルトと比較すると、フィンランドの麦芽はまったく違う。それは本当に驚くほどの違いなんです」

さらに恵まれた資源といえば、「千の湖の国」と呼ばれるフィンランドの水だ。氷河期に形成されたラハティ地方のサルパウセルカ尾根とエスカー(氷河の下を流れる川の堆積物が作った筋状の地形)は、大量の純粋な地下水を蓄えている。その水は今でも1日あたり30,000m³が入れ替えられているという。全長120kmのパイヤンネトンネルを通ってヘルシンキまで届き、首都圏に住むフィンランド人たち100万人以上の生活を潤している。

シェリー樽熟成原酒100%の「カスキ」から、シェリー樽で7年間熟成した度数の高い「クロ」まで、テーレンペリがつくるすべてのシングルモルトは、地下20mからくみ上げたこの水道水で仕込まれている。

そして蒸溜所のコアレンジとしては初めてのピーテッドシングルモルト「テーレンペリ サヴ」も加わった。さらに今年は、蒸溜所設立20周年を記念してシェリー樽熟成のピーテッドシングルモルト「パロ」も登場している。だがやはり蒸溜所の実力を示しているのは、2015年に初めてリリースされた「テーレンペリ10年」なのだとピューシンは語る。

「このウイスキーは、新しいバッチが出るたびに改良されてきました。この20年間、樽の調達と熟成に関する知識を広げてきました。それが現在の成果につながっているし、将来もずっと学び続けていくつもりです」